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豊穣な人生、修羅場の車内 #待つ時間

    待つ時間の音。
    過去の思い出が、数ミリずつ写真となってプリンターから出てくるのをじっと待った。
    キュインキュイン、ガーガー。
    携帯に閉じ込められていた写真が、現実世界に飛び出してくる音は、わりと無機質。
    久しぶりに写真を印刷して、アルバムを作っていた。
    辛抱強く待って、20枚の思い出を取り出す。
    タイトルは、『じぃじの米寿祝い旅行』

    夏休みの間に、義両親と義姉一家と和歌山旅行へ行ってきた。
    その時の写真が、携帯では見づらいというので、印刷して敬老の日に持っていく約束をしていた。

    当日、まず、義実家到着後すぐスーパーへ。
    なんでも食べたいものをカゴに入れなさい、と義父が言うので、本気を出す。牛肉と寿司とシャインマスカット!そしてお高めのモンブランも入れる。
    嫁を20年やってきて気がついたのは、遠慮なく甘えて盛り上がれば盛り上がるほど喜んでもらえるということ。

    帰ってすぐ、牛肉とネギを一緒に焼き、寿司を並べ、印刷したアルバムを渡してノンアルで乾杯した。
    楽しんでいたら、義父がアルバムをめくりながら感極まって泣いた。
    88歳、幸せすぎて泣けてきたそうだ。
    みんなで旅行行って、祝ってもらって、俺ぁ幸せだ、ありがとう、本当にありがとうと何度もお礼を言われた。
    酔っ払ってはいるが、泣いたのを見たのは初めてで、私は、シャインマスカットを豪快にむしりとりながら「えっと!こちらこそいつも美味しいものをありがとう!」と伝えたらまた笑い泣きをしていて、なんだかほら、秋の季節に豊作を祝うような、豊穣な人生みたいなものを見た気がする。

    気がついたら、夫の酒の量もそこからぐんと上がっていた。
    俺も幸せだぁ!といえば、無制限に酒が飲めると気がついてしまった様子である。
    つい最近も、夫はホームで寝て終電を逃し、記憶喪失になっていたばかりなのである。
    急にそれを思い出して義母にチクってやった。怒られていた。

    「ときちゃんね、酒飲みに愛想を尽かしそうになったら、女だけでイタリア旅行に行きましょうね!」と義母が言った。
    え、じゃあいくらでも飲んでくれ、イタリア行こう行こう!と盛り上がったところで強制的にお開きにしたのだけれど、もう時すでに遅しで、酔っ払いに嫌悪感を持つ娘と、娘にしつこく絡む夫が、私の運転する車内で非常にうるさく揉めていた。
    こちらは、夏場に草刈機で豪快に草を刈っているような、人生の修羅場の様相。

    我が家が実り多き秋に到達するには、まだもう少し時間が必要そうです。
    気長に豊穣を祈るシルバーウィーク。




    #シロクマ文芸部 #待つ時間  に参加しました。
    小牧部長、お嬢さまの誕生、おめでとうございます!
    今週も、ありがとうございました!

     
     
    転勤族の妻、そして中学生の母。 40後半、まだまだ私は私を知らない。 創作大賞2024、2025「エッセイ部門」2024「恋愛小説部門」中間選考通過。 『メリーモナークin大原田』他 エッセイ集、短篇小説集をSTORES にて販売中

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