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Photo byykyk8887

ルージュの伝言 《夏ピリカグランプリ》

    「ルージュの伝言って知ってる?」
    さっきまで全然違う話で笑っていたウタが、唐突に言った。

    「松任谷由実の?」
    「それ。彼の家で実際やってきた」

    ウタは、ふふと笑いながら冷めたコーヒーを啜ると
    「これでお別れ、スッキリ!」
    そう言って両手のひらを合わせて、幸せ!みたいな顔をした。

    「え、何、ケンカ?ケーヤンと?」
    「ケーヤン、ふふ」
    「中学からずっとそう呼んでるから!それより、ルージュの伝言って?」
    「バスルームに、まぁ洗面所の鏡だけど、口紅で伝言をね、さよならって書いてきたの」
    「何それダッサ!昭和!?」

    私は思わず大きな声を出す。
    ウタは、しぃっと人差し指をその美しい唇に当てると
    「大きな声出さないでよ、私だって昭和なことしてきたと思ってるんだから」
    と口角をあげた。

    ウタとケーヤンは、確かもう4年ぐらい付き合っているはずだ。
    2人とも結婚するような話はしないけど、だからと言って別れるような不満も聞いていない。
    4年も付き合って、ルージュの伝言でさようなら?
    しかも、なんでこんなに楽しそうなの?
    ウタは、ケーヤンの何に愛想が尽きたというの?

    質問はたくさんあったけど何から聞こうか逡巡していると、ウタは最後のコーヒーを飲み干してから、
    「ごめんね、わざわざ来てもらって。一応伝えておこうと思って。ほら、ケーヤン、アサミンの仲でしょ。ふふ。アサミンってのも結構ダサいよ」
    そう言って私を指差すと、伝票に手を伸ばす。
    「え、もう帰るの?」
    「うん、今日はちょっと」
    「じゃあひとつだけ!なんで最後がルージュの伝言なの?」
     私がそう投げかけると、ウタは、その質問を待ってたと言わんばかりにほんのちょっと眉を上げた。

    「鏡の伝言を読むでしょう?それを読んで愕然とした後、青ざめた自分の顔に気づくの。そしてこの先ずっと、鏡で自分を見るたびに私を思い出す。そういうのってなんかいいじゃない」

    ウタは本当に嬉しそうに笑うと、今度こそ伝票を持って立ち上がった。
    「来てくれてありがとう、払っとく」
    いいよ自分で払うよと口を開いたときには、もうウタは歩き出していた。



    『さよなら ふたりとも』
    私は、彼の家の洗面所で、ウタが書いたルージュの伝言に目を走らせていた。それから、まるでそう仕向けられたように、鏡の中の自分と目が合った。
    絶対に自分の顔は見るまいと思っていたのに。

    彼はまだこれを読んでいない。
    ウタの愛情を疑っていない彼がこれを読んだら、きっと動揺して「違うんだ!」と喚くだろう。

    2人の別れに一瞬喜び、それから現実を考えて絶望する。
    ウタから最愛の人も、親友も、両方を一度に奪っておいて、それでも彼に縋りたいと考える醜い顔が映る。
    彼はこの鏡を見て、どんな顔をするのだろう。
    ああ…彼の、ウタだけを切望する顔が映る。
    私は鏡を見るたびに、愛されない自分に打ちのめされるのだ。

    ウタは、ひどく簡単な方法で私を鏡の底に沈めていく。
    軽やかに、ルージュの伝言を口ずさみながら。

    (1199字)

    ーーーーーーー

    ピリカグランプリに向けて、書き慣れないものを書きました!
    鏡!文字数!ひーーー!

    本当はメルヘンなものとか、青春キラキラなもの考えてました。
    だけど、どういうわけか1500字過ぎても鏡にたどり着かない、グハー。
    下書きにはグハーの欠片。
    それでもやっぱり面白い!
    企画がなかったら、こんなにグハーと言いながらも書きたいなんて思わないかもしれない。
    グハー、グハー!猛暑が来る前に、私のハートが猛熱。

    とても楽しませて頂きました、いい機会をありがとうございましたっ!

    まだ書いてない方も、ぜひ一緒に楽しみましょう✨


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    転勤族の妻、そして中学生の母。 40後半、まだまだ私は私を知らない。 創作大賞2024、2025「エッセイ部門」2024「恋愛小説部門」中間選考通過。 『メリーモナークin大原田』他 エッセイ集、短篇小説集をSTORES にて販売中

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