
万葉集・他|国民の文学[刊]
ひと足お先に、あけましておめでとうございます。
年の瀬の、あわただしい空気のなかで、そっと立ち止まり、日本の詩歌の古い棚をのぞいてみました。そこから取り出したのは新年を寿ぐ短歌や俳句。千年以上も前の誰かが、新しい時間の扉が開く気配に胸をあたため、その思いを言葉に託したものです。時代は遠くても、年の変わり目に感じる小さな期待は、今の私たちとも、つながっています。
「新しき 年の初めの 初春の 今日降る雪の いやしけ吉事」
『万葉集』より 大伴家持
白い雪が未来への吉兆に変わるあたり、古代人のポジティブ思考が頼もしい。

「春されば まづ咲くやどの梅の花 一年のうちに恋ひぬ日ぞなき」
『万葉集』より 作者不詳
年のはじめを“待ち続ける季節”として描く感覚が心地よい。

「年の内に春は来にけり一年を 去年とやいはむ今年とやいはむ」
『古今和歌集』より素性法師
時間感覚がぐにゃっと曲がる瞬間がユーモラス。

「人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける」
『古今和歌集』より 紀貫之
時代が変わっても香りだけは変わらないという、
ささやかな希望が潜む。

「霞立つ 春のはじめに ほととぎす 鳴きて年経る 声ぞめでたき」
『新古今和歌集』より 藤原定家
そのまま祝福のサインにしてしまう定家。
季節の音が年の区切りをやさしく押してくれる。

「久方の 天の香具山 めづらかに 今日のはつ日に にほへる雲か」
『新古今和歌集』より 慈円
古代の信仰と美意識が混ざり合う、
静かな祝詞のような歌。

「初しぐれ 猿も小蓑を ほしげ也」
松尾芭蕉
新年は、人も猿も同じように始動するんだなと笑えてくる。

「春の海 ひねもすのたり のたりかな」
与謝蕪村
新しい年は、この“のたり”から始めたいところ。

「元日や 手を洗ひけり 梅の花」
小林一茶
派手な祝いより、日常の清らかさを大事にしたい気持ちが滲む。

「去年(こぞ)今年 貫く棒の 如きもの」
加賀千代女
小さな決意の芯を、新年の空気に託しているように読める。

「門松や 冥土の旅の 一里塚」
井原西鶴(川柳)
新しい一年を、逆に“今この瞬間”へ引き戻してくれる。

「初夢に 見たるは財布の ふくらみよ」
幕末の川柳(作者不詳)
こういう素朴さが、年明けの空気をさらにやわらかくする。
