
[暮らしっ句]秋の声[俳句鑑賞]
手術日の留守番役に 秋の声 三橋早苗
向う岸 見ゆる渡しや 秋の声 村上美智子
一句目、命に別条のある手術ではないようです。しかし、同意書を求められない手術はないわけで、「主」のいない家は、その時を思わせた。
二句目は、わかりやすい。「向う岸」に「彼岸(あの世)」が、
かすかに重ねられている。
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喪の家にある 秋声のいろかたち 能村研三
長持に鍵穴一つ 秋の声 佐藤みほ
墨痕の一字一字に秋の声 鷹羽狩行
秋には終わりのニュアンスがあります。前半は「実りの秋」ですが、後半になると「終わりのはじまり」。
「喪の家」には、生まれたての「終わり」がふんだんにある。
わたしも「食器を割りなさい」と云われました。飯茶碗に湯のみですね。その時は若かったので従いませんでしたが、あとでその意味がわかる気がしました。封印するならまだしも、生活空間に置いておくのは……。
二句目は、ちゃんと「長持ち」に封印されている。その小さな鍵穴から、かすかに「声」がする。どんな声だと思います? 呼ばれている? それじゃあ、怪談です~ おそらくあの頃の、暮らしの声ではないかと。
三句目、「墨痕の一字一字…」、日常のかけらではありませんね。特別な文字を書く行為は、消えて行く「日常」から何かを切り離す行為。大袈裟に云えば遺言です。その「一字一字に」「秋の声」が聞えた。内容ではなく、したためている時の作者の心境が感じ取れたということかと。
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秋声や 金彩の陶 焼上がる 木暮陶句郎
「秋の声」には故人やそのゆかりを詠む句が多かったのですが、ここでは
物作り… 完成のさみしさ。
「完成」… 一語で考えると、自分には縁のないものですが、「死≒完成」であれば、こんな自分でも、こんな自分がそのまま完成間近なのかと。
歪んだり亀裂があって色も斑ら…でも、おもしろがってもらえる器もあるわけで、そこに期待するかな~
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秋声や 削り直せし桐箪笥 斉藤小夜
木は変色していても鉋(かんな)をかければ、無垢の姿に戻ります。年季の入った桐箪笥をきれいにしてもらったわけですね。
もちろん、鉋がけの前には、バラして経年の歪みなどを整えて組み直すわけですから、費用は相当かかったと思われます。が、それを云うのは野暮。
作者の年齢はわかりませんが、察するに七十歳近いかと。六十歳くらいでは、まだそこまで気が回りません。
一通りの整理が出来て、先も見えて、箪笥に目が向くようになった。
嫁入り道具だったのでしょうか。もしかしたら、ご主人が亡くなられたのかもしれません。思い出深いとても大切なものですが、高齢者施設にも、あの世にも持ってはいけない。
そこに思いが至った時に、新しくしておけば… と思われたのでしょう。
ともすれば、形見が大切にされることを期待してしまいますが、それは相手には重い。新品同様に再生された桐箪笥で、若い夫婦が自分達のものとして使ってくれれば、それで十分……。
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秋声や 小指にからむ しつけ糸 林裕子
断ち切れない過去… 「小指」に「糸」ですから、かつての恋人?
でも、どんなに愛し合ってもそれは「しつけ糸(仮)」。
とはいえ、「切りたくはない」。結ばれたいと願った糸だから。
恋愛に限らず、とらわれている過去…… 断ち切れないのは、ほどけてくれることを期待しているから? ほどける… て何? 過去は過去のまま、未来に向かって歩けるようになること?
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出典 俳誌のサロン
秋の声
ttp://www.haisi.com/saijiki/aki%20no%20koe.htm