
青い屋根の家/月を見る
月を見ると、息子はいつも手を振った。
「また、ついてくる」
「遠くにあるから、そう見えるんだよ」
保育園からの帰り道、何度も同じ説明をした。息子は納得せず、電柱に隠れては空を確かめていた。信号が変わると、空に向かって「行くよ」と声をかけた。
その晩は、家の前で急に立ち止まった。
「今日は、だいぶ近いね」
見上げた月は、いつもと変わらなかった。早く靴を脱ぐよう促すと、息子は門の外へ顔を出した。
「ここだよ。青い屋根の家」
夕食の途中、チャイムが鳴った。
モニターには、白い丸しか映っていない。指でカメラを塞がれているのだと思った。
「どちらさまですか」
返事はなかった。息子が椅子から下り、玄関へ走ろうとする。その腕をつかんだ。
「知ってる人?」
息子はうなずいた。
「いつも、送ってくれる人」
もう一度、画面を見た。
白い表面に、灰色のくぼみがいくつもあった。
息子は僕の手をほどこうとした。
「今日は、ぼくが送っていく番」
小牧幸助さんの企画に参加してます。