
毛布を出すと、なぜか猫が先に使う
朝晩の空気に、すっと冷たいものが混ざるようになりました。
先週までは窓を少し開けて寝ていたのに、今朝は足先が冷えて目が覚めました。
これはもう、毛布の出番です。
押し入れの奥から、毛布を引っぱり出します。
夏のあいだ眠っていた毛布は、ほんのり押し入れのにおいがして、たたまれたまま、まだ少し眠そうです。
ぱたぱたと広げると、ふわっと空気を含んで、触れただけで肩の力が抜けました。
「これで、今夜からあたたかく眠れる」
そう思って、広げた毛布をソファに置きました。
夜までに少し陽にあてておこう。
その前に、洗濯物を干して、郵便物を見て、お茶を一杯。
ほんの十分ほどのことです。
戻ってくると、猫がいました。
しかも、毛布のど真ん中に。
前足をそろえて、まるくなって、さも昔からそこにいたような顔をしています。
毛布を出したのは私です。押し入れから運んだのも、広げたのも、私です。
それなのに、この堂々とした居ずまい。
最初から猫のために出された毛布のようです。
毎年のことなのに、毎年、ちょっとだけ納得がいきません。
猫は、新しいものを見つけるのがどうしてこんなに早いのでしょう。
私が毛布を広げているあいだ、猫は少し離れたところにいたはずです。
窓辺でぼんやり外を見ていたような気もします。
それが、気づけばいちばんいい場所にいる。
端っこではありません。
ちょうど、人間が座りたいあたりです。
「そこ、ちょっと使わせてもらえませんか」
声をかけてみました。
猫は動きません。
目を細めているのか、眠いのか、こちらを見ているのか。
真相はわかりませんが、譲ってくれる気配だけはありませんでした。
猫の気持ちは、決めつけないことにしています。
わざとなのか、たまたまなのか、ただあたたかいからなのか。
猫にしかわからないことは、猫にお任せです。
そこへ、犬がやってきました。
毛布のそばまでとことこ歩いてきて、くんくんと端のにおいを確かめます。
ひととおり確かめると、ふん、と小さく息をついて、いつもの場所へ戻っていきました。
猫は毛布の上。犬はいつもの場所。
同じ毛布でも、家のなかで評価は分かれるようです。
さて、問題は私です。
毛布の端をそっと引っぱってみました。
猫の重みで、思ったほど動きません。
ぐいっと引けば取れそうですが、気持ちよさそうにまるくなっている猫を起こすのは、なんだか悪い気がします。
結局、毛布の端っこを借りて、ひざを抱えるようにして座りました。
ひざ掛けにするには、ぎりぎり足りるくらい。
広々と使うつもりで出した毛布なのに、私の取り分はソファの隅の、ほんの端っこ。
毛布を出したのは人間なのに、いちばん遠慮しているのも人間です。
そのうち、犬がまたやってきて、今度は迷わず、私の足元にぴたりとくっついて座りました。
上には猫。足元には犬。
身動きはほとんど取れません。
お茶を取りに立ちたいのに、立てません。
リモコンは遠く、スマホは別の部屋です。
けれど、足元からじんわりとあたたかさが上ってきました。
毛布の端を足首にくるりと巻くと、今朝私を起こした足先も、ようやくおとなしくなります。
しばらくすると、猫は毛布の上でさらにまるくなりました。
犬は足元で、ふう、と落ち着いた息をついています。
私は毛布の端をかけたまま、動くのをやめました。
本当は、もっと広々と使いたかったのです。
端と端をぴんと伸ばして、肩までふわっとかぶって、ソファの上で足を投げ出したかった。
けれど、毛布の上には猫がいて、足元には犬がいます。
ふたりのぬくもりに挟まれていると、まあ、これはこれで悪くありません。
寒くなると、みんな、あたたかいところに集まってくるものです。
……猫だけは、毛布を出す前から目をつけていた気もしますが。
まあ、いいか。あたたかいし。
毛布をそっと、ひざに引き寄せました。
猫は動きません。
今年も、毛布の取り合いが始まりました。
毎年、私の不戦敗です。
でも、来年はもう一枚、毛布を出しておこうかな。
……その二枚目も、きっと猫が先に使うのでしょうけれど。
🌙 今日も、あなたの心に小さな灯りがともりますように。🌿