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Photo byha64

神さまは、いないわけじゃない。

    noteで、とある記事を読んで、過去の出来事を思い出した。

    あるとき、季節の変わり目のせいか湿疹ができてしまい、近所で評判が良い病院を受診してみることにした。狭い駐車場に恐る恐る車を停めて降りると、赤ちゃんを抱っこ紐に入れたママが二人いた。そのうちの一人は、入り口で踵を返して帰って行くところだった。もう一人は、ぽかんとした様子で入り口の貼り紙をぼうっと見ていた。

    休診か何かのお知らせかと、私も立ち止まって貼り紙を読むと、今月から、子どもは騒いだり他の患者さんの迷惑になったりするので、診察はしないとの内容だった。

    帰って行くママの表情は、見ることができなかった。


    ―――

    あるとき、同じ病院で、駐車した車の位置があまり良くなく、残っていたスペースがかなり狭くなってしまっていた。仕方ないので、そこにそろりと車を入れると、スペースを取っていた車から60代くらいの母親が出てきて、車椅子に息子さんを乗せて、

    「すみません、すみません」

    と、申し訳なさそうに謝られた。

    「停めれてるし、大丈夫ですよ〜!」

    そう伝えたが、母親は車に戻り、車を入れなおし始めた。車椅子が坂を下っていったら大変なので、急いで車椅子を押さえて、駐車しなおす車をぼんやりと見ていた。すでに私の車は駐車できたのに、気を遣われたんだな、そう思い、

    「すみません、わざわざありがとうございます。」

    そうお礼を伝えた。母親は、家から慌てて受診しにきたのだろう、白髪だらけの髪をとにかくまとめて、着の身着のままといった感じだった。

    母親は、車椅子を押しながら病院へ向かった。片方の足を引き摺りながら。


    ―――

    私は、10年以上勤めた会社が潰れたことでエコバッグからネギを出すことを仕事にし始めたのだが、転職活動を一度だけしたことがある。専門職で、女性は独身か、子どもがいても近くか同居で両親のサポートが手厚い環境でないと働くのが難しい。旦那も私も両親が県外でサポートが一切ないため、ある程度無理するのは仕方ないと思いつつ働いてきた。履歴書で一次が通り、二次の面接に臨んだが、10人近くの面接官から徹底的にやられてしまった。

    「子どもは?男?女?」

    「女?ふぅん、風邪ひきにくくていいね。」

    「送り迎えは?パートナーいるの?」

    「うちは、夜の九時まで普通に働いてもらうよ。今のところは、17時?はぁ?上はそれで良いっていってんの?信じられない。うちはそんなの、ありえないから。」

    小一時間、何でこの場に来たの?それを遠回しに言われ続けて、途中からは、私も、子育て中に何でこの場に来たのだろう、とても場違いのようで、居た堪れない気持ちになって帰ったのを覚えている。勿論、不採用だった。その後、採用されたのは、独身の男性だったと聞いた。

    子どもがいるのは大きなデメリットで、15年近く泣きながら積み上げてきたキャリアも何の価値も無くなるのか、と思った。

    面接を受けるのが辛くなって、自分が、専門職での面接を受けたのはそれきりだ。

    私のキャリアは、断たれたのだと分かった。


    ―――

    数年前、年末年始に娘二人と私はインフルエンザにかかってしまった。主人があいにく出張中で、不在だったため娘二人を連れ、急患センターに向かったのだが中に入ると、100人近く待っている。子ども二人を受診させるだけで手一杯で、自分が受診することはできなかった。帰宅して、娘たちに薬を飲ませたが、薬で気分が悪くなったようで、二人ともにすぐに嘔吐し、それ以降、決して飲んでくれなかった。自分も高熱が出始めたが、娘たちも薬を飲んでくれなかったことで数日間全く熱が下がらなかった。娘たちは高熱が続き食欲もなく、食事も水分も少ししかとれていない。流石に、四日目になってもう一度急患センターに行こうかと思ったが、かなりの距離があるのに体調不良での運転も、待ち時間も辛い。とはいえ、近くの小児科もまだ年始のお休みで開いていない。悩んだ結果、駄目元で一本、とある番号に電話をかけた。

    「もしもし、どうしましたぁ?」

    「すみません、年末に娘たちがインフルエンザにかかったのですが、急患センターも受診したんですけど熱が下がらなくて…」

    「駐車場で診察してあげるから、すぐ来ていいですよぉ。でも、事務の方いらっしゃらないので私が精算するから、慣れてなくて時間かかるかもしれないですけど、どうぞ。」

    神さまを見つけたかと思った。

    涙が出そうになった。そこは、子どもが小さい頃からかかりつけの小児科で、ずっとお世話になっているのだが、とにかく丁寧で優しいおじいちゃん先生なので人気過ぎて予約をなかなか取れない。過去に一晩で複数回の熱性痙攣を起こしたことを伝えた際に、先生が、夜間用携帯の番号を書いてくださった。

    「これは、夜間対応用の番号だから、これから何かあったら電話してくれていいですからね。高熱とかね、心配なことがあったら。子どもは急変したりするから。」

    お守りのように数年持っていたが、多忙な先生に電話をかけることは気が引けて、いつもハラハラしながら朝になるのを待って受診するようにしていたし、それも待ちきれないほど不安な夜は、急患センターに並ぶようにしていた。

    電話を切ると、急いで病院に向かい、診察をしてもらった。病院の駐車場で、精算をしてもらったあと、開いている薬局が年始で少ないからと調べて紹介までしてもらった。

    嫌な顔一つせず、ただただ誠実な対応をしていただいて頭が下がる思いでいっぱいだった。


    ―――

    子育て中というのは、不自由なことが多いし、それでも、周りに迷惑をかけながら生きていることという事実を痛いほど母親は分かっている。働いているときも、「ご迷惑おかけして申し訳ありません。」と何度頭を下げたことだろう。私が二人いたらいいのに。そんな思いを何度してきただろう。

    助けを求めて伸ばした手は、誰にも届かないときもあれば、弾かれて痛い思いをする日もある。
    それでも、ときに、ぎゅっと握り返してくれる手に出会える日だってある。 

    今は、何度でも、この手を伸ばして、誰かの手をぎゅっと掴んで、生き延びて。

    いつか誰かが伸ばした手を、
    あなたが伸ばした手を、ぎゅっと握りたい、そう思う。

     
                      mashiro🫱


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