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Photo byshinsukesugie

不可思議ショートショート 『選挙の前日』

    今月は変則企画!
    3000字以内の不可思議なショートショートです!詳細は引用記事に↓

    予定では本日16本のショートショートが投稿される予定!明日、全ての話をまとめた記事もだします!


    『選挙の前日』


    「明日は〇〇市、市議会議員選挙投票日です〜」

    私は選挙は期日前でも参加するほど熱心だが、選挙カーは苦手だ。
    ただすれ違っただけなのに「俺のファン」かのようにマイクで実況されるのが嫌だし、並走されたり握手を求められるのも億劫すぎていつも逃げている。
    選挙の前日のこの日も、向かいから走ってきた白いバンを見て散歩の歩調を緩めた。
    右は河川敷のランニングロード、左は用水路を挟んで墓地、お参りの人もおらず、住宅が一見もない田園だけの見晴らしの良すぎる一本道。
    時間は夕方6時過ぎ。
    国道の車通りは多いが一筋入ったこの道の歩行者は私だけで、選挙カーはすでに墓地側に車を寄せてきていた。

    墓地を突っ切り住宅街に逃げようかな。
    あからさま過ぎるか。

    もう目と鼻の先やしと諦めて直進したが、選挙カーはあっさり私を素通りして思わずガクッと首を落とした。

    あからさま過ぎるやろ?

    絡まれたくはないくせに無視をされるとそれはそれで気に触る。
    完全な肩透かしに足を止めたが、さすがにここで振り向いて「お散歩中わざわざありがとうございます!」としてやったりと返されるのも癪だ。
    意地を張る私の耳にうぐいす嬢の声がまとわりつく。

    「熱烈なご声援ありがとうございます!〇〇でございます!」

    選挙カーが駐車した気配に振り向くと、窓から墓地に向かって顔を出すうぐいす嬢の横顔が見えた。
    投票日は明日だし、通行人全てに闇雲に声掛けするより、熱心な有権者を狙って確実な一票を狙ったか?!と思ったが。

    この道ずっと私しかおらんかったやん。

    河川敷のランニングロードもこの一本道も、もちろん墓地にも人は一人もいなかったのは確認済みだし、田畑しかない見通しの良いこの場所で人を見落とすことの方が難しい。
    足を止めてもう一度確認したが、うぐいす嬢は窓から少し身を乗り出して墓地にいる誰かに愛想をし初め、マイクを通してスピーカーから会話も聞こえている。

    ついには同乗していた議員候補も会話に加わり、会話が始まった。

    「…さんは、この辺りの…やから、つい…」
    「そうなんです!祖父の代から市議会議員をさせていただいておりまして」
    「そ……やからねぇ!ぃや……!、っ…ハハハ」
    「笑い事じゃないですよ、同じ苗字が多いのでしっかりフルネームでお願いしますね!」
    「……ッ、土地改良区の、…が、」

    スピーカーから聞こえる声は3人分。
    うぐいす嬢と候補議員の男性、そしてはっきりとは聞き取れないが、使い込んだポータブルラジオを聞いているような、ザラザラとした年配の男性の声が聞こえている。
    だが、その声の主はマイクが拾う距離にいるはずなのに姿がない。
    マイクを通さない地声もうぐいす嬢と議員候補の2人分ははっきり聞こえるが、スピーカーからは年配男性の声も交えた3人の会話で聞こえているのだ。

    どうゆうこと?
    完全に私の足は止まった。

    背中を伝った汗が河川敷から吹いた風に冷やされる。
    梅雨入りすぐの慌てた蛙が墓石の影でゲェッと鳴く。

    私は霊などが“分かる“タチなので、道端でナニとすれ違っても特段気にしない。
    だが、自分だけ視えていることはあっても、自分だけに視えていないのは初めてで混乱した。

    議員候補が窓から墓地に向かって手を差し出して、声の主と柔らかく握手をするように指が丸められる。
    両手でしっかり手を握り込み何度も相槌しながら視線を交じわせ、るがどう見ても一人芝居。

    しばらくの談笑の後に選挙カーが走り出し、私も背を向けた。

    「頑張ります!お足元にお気をつけてお帰りください」

    手前の角を曲がりながらもう一度墓地を見ると、笑いを堪えるように口元を抑えたうぐいす嬢の視線は、進行方向にとは逆を向き、見えない年配男性に丁寧に頭を下げた。

    もしかして。

    疑問がぷつっと浮かぶ。

    私に視えていないのでなく、私以外に私が視えていないのでは?
    軽い火傷と応急処置を怠っていたら、翌朝ぷつっと皮膚を押し上げてできた水疱みたいな視界と現実の間に唐突に膨れた自分の変貌。
    鳥肌に乗じて掻きむしりたくなるような衝動の中、帰路を急いだ。


    翌朝、私は市民会館へ向かって昨日の議員候補に投票し、係の人たちに議員名は出さずに「こんなことがあってね」と話すと、年寄りは選挙とかまつりごとが好きだから、見てられずに出てきたのかね?と笑い飛ばした。

    投票日が終わりニュースを見ていると、あの議員候補は落選。
    おいおいと思ってちょうど来た母に選挙の前日の話をすると。
    「墓地の前の一本道は駅から離れていて住宅もないから、選挙カーは通らないし、あの議員、SNSで叩かれて駅前演説に後半は徹してたしな」
    とさらりと返し、更に呆れた声を出す。

    「それにあんた。駅前で期日前投票して、選挙の前日の朝に入院したやん」

    また来るわ。
    4日分の洗濯物を持って大部屋のカーテンを閉じ、母は帰っていった。

    そうだ。
    私はあの日の夕方、そもそも散歩に出ていない。



    怪談で参加しました!
    すいません、回収は午後になります。

     
     
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