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Photo bymotokids

芸術家の最終形態 〜ポール・マッカートニー『The Boys of Dungeon Lane』〜



    このところ、毎日のようにポール・マッカートニーの新アルバム『The Boys of Dungeon Lane』を聴いています。

    これは私にとっては異常事態なんです。

    というのは、私は気に入った音楽ばかりしつこく聴くタイプですが
    それは曲単位の話で、
    アルバムを丸ごと何度もリピートして聴くということはほぼないからです。

    特にこの数年は皆無でした。

    アルバムの個々の曲の冒頭を3秒くらい聴いてピンとこなければ飛ばす、という聴き方をもっぱらしています。

    まれに好きな曲が複数あるアルバムでも、気に入った曲しか聴きません。

    アルバム単位で丸ごと好き、という作品はほぼないのです。

    ポールのソロアルバムでいえば、『Chaos And Creation In The Backyard』が一番好きですが、これも通しで聴くことはこの数年ありませんでした。


    ところがこの『The Boys of Dungeon lane』。

    冒頭から最後まで聴いています。

    正直に言えば、初めて聴いて一瞬で心を奪われる曲は個人的にはありませんでした。

    でも、何かとてつもなく深いものを湛えているような気がして、それを少しでも見極めたくて、繰り返し聴きました。
    どれか1つの曲ではなく、アルバムを丸ごと聴くことでしか意味をなさない感じがしたのです。

    数回聴いて思ったのは、
    私が感じた「とてつもなく深いもの」というのは
    ポール本人の人生の重みそのものではないかということです。

    今までの作品ももちろんその時々の彼の人生を反映してきたとは思いますが、
    あくまで主役は音楽そのものであり、彼自身の感情や体験は曲の中にさり気なく滲む、という印象でした。

    しかし今回、ポールはこのアルバムを通して、
    彼自身の人生を今までになく率直に差し出しているのです。
    彼自身の記憶、感情、体験が音楽によって彩られ、再現された、という感じです。


    ポールって、枯れないんですよね。
    いつまでも青春の煌めきが感性の中に残っている。

    だからこそ声の衰えと曲のギャップが近年は著しくて聴いていて辛くなることがあったのですが
    このアルバムに関して言えば、
    ようやくポールの今の声で歌われるべき曲が揃った、という印象です。

    過ぎ去った日々を振り返る老人としての彼と、まだ何者でもなかった少年としての彼。
    この両者を繋ぐものとして、今の彼の声が機能しているのです。

    このアルバムは、80代の彼にしか作れなかったけれど、でも80代が作ったとは思えない感性で溢れています。


    以前、2022年のグラストンベリーでのステージの映像を見て、
    もうパフォーマンスそれ自体の質を超えて
    この人の存在そのもの
    生きてきた人生の時間に圧倒され、
    私は涙が出そうになるほど感動しました。

    他に素晴らしいパフォーマンスをするミュージシャンはいくらでもいますが
    ポールはもう、芸術家としての最終形態に入ってるような感じがします。
    自分自身が芸術なんです。

    今まで彼は決して音楽以外の面で自分自身を作品としてアピールすることはなく、
    これほどのレジェンドでありながら
    かなり地に足をつけて生きてきた人だと思います。

    だからこそその人生には重みがあるのです。

    大衆向けに消費される華々しい物語ではなく、本物の血と汗が宿った人生です。


    ポールはまだまだエネルギッシュで元気だけれど
    実は自分の人生の終わりというものを強く意識している人だと思います。

    2023年にビートルズの最後の新曲として「Now and Then」をリリースしたのもその一環で、
    自分が生きているうちにあの曲でもってきちんとビートルズという物語の幕引きをしたかったのではないでしょうか。

    そして今回のアルバムも自身の遺作となっても悔いのないように作ったのではないかと個人的に感じました。

    彼の源であり、
    褪せることのない愛と敬意の最大の対象である母を歌った曲をアルバムの最後に持ってきたのも
    その表れだと思います。

    「母は愛と忍耐の人だった」
    という
    自身にとっての最も大切な真実のうちの1つを歌うことで、
    ポールはこのアルバムを締めくくりました。


    まだまだポール・マッカートニーの物語が続いてくれることを私は願っていますが、
    今はひとまず
    彼の人生と芸術に敬意を込めて、
    このアルバムを大切に聴き続けようと思います。



    #ポール・マッカートニー #PaulMcCartney #TheBoysofDungeonLane #ダンジョン・レインの少年たち #NowandThen #人生 #洋楽 #イギリス #ロック

     
     
    わりと幅広く偏った嗜好や小規模な生活の中で感じたこと、考えたことを書いていこうと思います。

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