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負けるのが怖いから、ずっと本気を出さなかった《今週の三題噺発表》

     
    勝負事が嫌いだ。なんらかの大会も苦手である。理由はけっこう単純で、負ける可能性があるからだ。

    勝てば嬉しい。メダル獲得なんてことになれば、そりゃあ誇らしげに首から提げて帰るし、家に着いてからも一回くらい鏡の前に立つと思う。でも勝負というものは参加した時点で負ける可能性もセットで付いてくる。こちらは勝ちたい気持ちだけ申し込んだつもりなのに、受付でしれっと「敗北」まで渡される。

    私はこれが嫌なのである。

    負けず嫌いという言葉がある。まぁずいぶん勇ましく聞こえるが、私の場合は少し違う。

    負けたくないから頑張るというより、負けたときに傷つきたくないから、勝負そのものを避けたい。

    なんなら「負けず嫌い」という言葉自体、もう少しで負けそうな顔をしている気がする。

    私はその顔によく似ている。

    学生時代から何かに挑戦して順位をつけられることがあまり好きではなかった。運動会ならまだ団体戦に紛れられるが、個人で結果が出るものはできれば避けたい。栄養ドリンクを飲んでまで気合いを入れて、最後に「残念でした」と言われるくらいなら、最初から家でゲームでもしていたい。ラーメンとチャーハンを両方頼んで、「やっぱり多かったな」と後悔するくらいの勝負で十分である。

    そんな私が今年、創作大賞に応募した。

    自分でも少し驚いている。しかも、出しただけではない。途中から本気になった。

    最初はかなり逃げていたと思う。

    私はもともとおちゃらけた文章を書くのが好きだ。ふざけた話を書いて笑ってもらえれば嬉しい。それ自体は今も変わらない。

    創作大賞に出す文章まで、ずっとその調子で書いていた。

    おもしろければ、笑ってもらえれば、そして自分らしく書けばいい。

    その裏側にもう一つ別の言葉が隠れていた。

    「別に本気じゃなかったし」

    もし落ちても、それが言える。本気で書いて、本気で選ばれようとして、それでも落ちたら、かなり傷つく。

    でも最初から少しふざけておけば、「まあ、遊び半分だったからね」とニヤけた顔で言える。自分で自分の逃げ道を作っておける。

    私はそういうことをかなり自然にやる。しかもそれを「自分らしさ」と呼んだりするので、まぁ質が悪い。

    そんな私にメンバーシップのメンバーさんたちが言った。

    「ヤスさんはいつか跳ねるって信じてるから」

    「ヤスさんは絶対に飛び抜けている存在」

    「ヤスさんの本気を見てみたい」

    困った。応援というものはときどき逃げ道を塞いでくる。

    「がんばってね」くらいなら、こちらも「ありがとう」と返してそのまま帰れる。

    でも「本気を見てみたい」と言われると帰りづらい。

    こっちはずっと「いつでも本気出せますけどね」という顔で生きてきたのである。

    だったら、出してみろという話になる。

    本気。

    この言葉も苦手だ。本気を出して負けたら、「本気じゃなかった」という最後の言い訳まで使えなくなる。

    私はその言い訳をかなり大事に保管してきた。新品のまま箱に入れて、いざというときのために棚の上に置いていたというのに。

    でも今回はそれを捨てることにした。

    メンバーさんたちが信じてくれているのに、自分だけが「まあ落ちても本気じゃなかったし」と逃げる準備をしているのが格好悪く見えたからだ。

    だから途中から、書き直した。

    もっといけるだろうと思ったところは直したし、自分でも見たくない部分まで書いた。

    笑いだけで逃げないようにした。

    ここまで書けば十分だと思ったところから、もう一度考えた。私はこれまで、一つ技を出して「これでええやろ」と刀を下ろすことが多かった。

    今回は、もう一つ出した。

    それでも足りない気がして、もう一つ出した。

    3つ出せたかどうかは知らない。そもそも一つ目がちゃんと技になっているかも、今となっては怪しい。

    それでも自分なりには出した。

    もうすぐ中間選考の発表がある。

    嫌である。

    ものすごく嫌である。

    発表日なんて存在しなければいいのにと思う。応募だけさせておいて、結果は永遠に発表しないという新しい文学賞があれば、私はかなり好きになれる。

    でも、発表される。

    通るかもしれない。

    落ちるかもしれない。

    大嫌いな勝負の世界に、自分から入ってしまった。今さら「勝負事は苦手なんですよ」と言っても、もうエントリーは済んでいる。

    今回、本気を出した理由は自分のためだけではない。メンバーさんたちが信じてくれたからだ。

    「ヤスさんなら」と言ってくれた人たちがいた。

    その人たちの前でだけは、最初から逃げ道を作っていた自分ではいたくなかった。

    結果はまだわからない。

    メダル獲得どころか、予選落ちかもしれない。

    その日はたぶん、栄養ドリンクじゃなく、お酒を飲む。勝っても飲むし、負けても飲む。そこだけは最初から本気である。
     

    《前回の三題噺》
    1.栄養ドリンク
    2.メダル獲得
    3.ラーメンとチャーハン

    説明しよう!三題噺とは、まったく関係のない3つの言葉を強引にひとつの話にまとめる文章遊びであーる。頭をフル回転させながら、「どうつなげる?」「オチどうする?」という落語的プレッシャーが味わえます。エピソード構成力、語彙力、そして無茶ぶり耐性まで育つ、文章版・筋トレRPG。それが三題噺。やってみなきゃ、もったいない!

    《今週の三題噺》

    1.送迎バス
    2.リップサービス
    3.カレーライス


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    締め切りは一応来週9月9日(水)まで。
    過ぎても大丈夫です。


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    [画像協力:さちわ]

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