
現実逃避のエステは心がほぐれないから気をつけろ
「逃げるは恥だが役に立つ」という言葉が嫌いだ。逃げ癖がある人の免罪符として世の中に浸透している気がするからである。
あれは普段逃げない人が意識するから有用な言葉であって、逃げ癖がある人を慰めるための言葉では決してない。
もしも
「逃げるは恥だが役に立つだよね〜」
と三社連続3日間で退職する人がいようものなら
「いや、逃げるのは恥だよ。普通に。」
と真顔で返すと思う。そんな具合で僕はこの言葉が好きではないし、「逃げ」というものにネガティブな感情を抱いている。(一応断っておくと、ドラマは毎週楽しく拝見してました。)
そう言う僕は元来アンチ逃げ癖だったかというとそんなわけもなく、端的に言って僕自身まぁまぁな逃げ癖をまとって生きてきた。
小学校の頃から宿題や課題といった類のものは計画的に取り組んだこともなく、夏休みの宿題は8月31日の夜に取り掛かるタイプであった。
大学では二日酔いという重病で何度も講義を休んだし、「飲み会って企画したときはウキウキだけど、当日になると急に面倒くさくなるよね〜」と冗談を言いつつ、本当に行かずに怒られた事もあった。
そうして人並みに逃げてきた僕なのだが、今でも覚えている一大逃避行がある。小学5年生のときである。
僕は当時所属していたソフトボールクラブが嫌で嫌でしょうがなかった。原因は主に僕が下手くそだったからである。
他の子がそつなく打つバッティング練習で、僕はいつも空振りばかりしていた。守備でもエラーばかりしていた。なんでみんなフライの落下地点見えてるの?パワプロなの?といつも人を羨んでは出来ない自分に嫌気がさしていた。
下手くそだからやる気が起きないし、やる気が起きないから下手くそになる。パワプロだったらとっくにケガしている絶不調の朝8時、心の底から嫌になって「行きたくない!」と母に泣きついたことがあった。ソフトボールクラブを休んだのはそれが初めてである。
記憶はぼんやりしているが、そんな僕を母はすんなりと受け入れてくれた覚えがある。そして母は言った。
「マッサージ行く?」
本当に謎なのだが、母はなぜか隣町にあるマッサージ屋(今思うとエステ店)に連れて行ってくれた。信じられないくらい謎である。
「エステ店」と聞くとモダンな見た目に間接照明、綺麗なお姉さんが出迎えてくれるというのが相場だが、岐阜の田舎にそんなものがあるわけがない。
僕の行ったエステ店は、床屋のような見た目に明るい店内、初老の夫婦が出迎えてくれる小ぢんまりとした店だった。美容に特化したマッサージ屋にも見えるため、母の言った「マッサージ屋」という表現は全く間違いではない。
「こんにちは〜」
と店主の奥さんと思しき女性が中へ案内してくれた。明るく気さくな女性だった。
そのエステ店では、まず灼熱のMRIみたいな形の小型サウナで汗をかかされる。いろいろと初めて過ぎてドキドキしたことを今でも思い出す。
え!このドームの中で寝るの?全裸で?暑いけど大丈夫?しかも放置されるの?というか他人の家で全裸って変な感覚!
と様々な感情が入り乱れて20分だか30分だかの時間はあっという間に溶けていった。その後水分補給として緑色のドリンクを飲まされた。草を刈った後の河川敷のような味だった記憶がある。とりあえず不味かった。
その後は店主にひたすら揉まれたり伸ばされたりしたが、当時はハッキリ言ってくすぐったくてしょうがなかった。大した苦労も知らない小学生の体は揉んでもしょうがないらしい。
灼熱のサウナ・健康そうなドリンクとお膳立てしてもらったにも関わらず、肝心のエステは30分耐久コチョコチョ地獄に他ならなかった。店主ご夫婦に申し訳なさすら込み上げた。
しかしなにより僕の胸にグサリと来ていたものがあった。ソフトボールクラブから逃げた悔しさである。
「今ごろバッティング練習しているのかなぁ」とか「病欠と言ったけど何て思われてるかなぁ」とか、頭のなかはエステどころではなかった。エステで毒素を排出しているはずなのに、体の真ん中から毒素が湧き出てくるような感覚だった。
今思うと、クラブでまだやれる事があるという自分の努力不足を実感していたからではないかと思う。「逃げ」というのは現実をなんら変えてはくれない。結局は逃げずに挑んで、成功したり失敗したりして物事を解決しないと一生逃げ続けるのでは?と初めて気づいた。
その次の週はイヤイヤながらクラブに参加し、なんだかんだ練習を続け、なんだかんだ小学6年生の最後までプレイした。あんなに嫌だったのに今では良い思い出となっている。
あのエステ以来、僕は人生から逃げなくなった。
…などとキレイごとで締められれば良かったのだが、残念ながら大学生になっても社会人になっても都合よく逃避行を続けてきたフシがある。
でも「逃げるべきじゃないのに逃げた経験」と「逃げるべきなのに逃げなかった経験」を振り子が振れるように何度も経験してやっと人間界の「一般論」に向かって収束してきた感がある。
そう思うとあのエステ店に行ったことは、逃げたものの役に立った経験と言えるのかもしれない。
ちなみにエステ店に行った後の数ヶ月間、実家の食卓にはあの河川敷味のドリンクが登ることになる。
当時のことは正直覚えていないが、なんだかんだエステ店の事が気になっていた母が僕をダシに体験入店し、健康ドリンクを購入して帰った説が濃厚である。
僕の悩みがなんだかちっぽけに思えた。
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みくまゆたんさん、コッシーさんはじめたくさんの方が参加されているみくまゆ会の以下の企画に参加しています!
ご無沙汰しておりチャレがや杯は恐れ多くて参加できず…
またよろしくお願いします!
皆さん要チェックです〜
つづく