
神と猫|毎週ショートショートnote「お題:積読美術館」
「神と猫」という掌編小説を書いています。
由緒を覚えている者もいない、小さな社の話です。
神様の名はタカマ様。かつては近隣の実りを見守っていたはずが、今では賽銭箱の中身が増えたか減ったかで一喜一憂しています。
境内には、いつからか名前のない猫が一匹。タカマ様が何を言っても、片耳を動かす程度でしか応えません。
二人のあいだでは、特に何も起こりません。
今回、田原にかさんの企画「毎週ショートショートnote」のお題「積読美術館」に、その続きの一話として参加させていただきます。
積読の絵馬堂
絵馬堂の隅に、タカマ様は絵馬を積み上げていた。埃をかぶった木の板が、もう何十枚にもなっていた。
「読むのは、また今度でよかろう」
合格祈願の不格好な富士山、恋愛成就の歪んだハート、家内安全の犬の絵。一枚ごとに誰かの願いと、拙い絵が添えられていた。
「なかなかの美術館だ」
タカマ様は満足げに絵柄だけを眺め、結局一枚も願いを読まずに、また新しい絵馬をその上に積み足していった。
ある晩、境内の湿った土を歩いてきたらしい猫が、絵馬の山に飛び乗った。爪の先が一枚を引っかけ、床に滑り落ちた。
「これ以上崩すな」
猫は答えず、絵馬の山を数歩踏み渡ってから、そのまま丸くなった。土のついた肉球が、渡った跡を板の上に点々と残していた。
翌朝、参拝に来た母子がその絵馬を覗き込んだ。
「あ、肉球ついてる」
「良縁成就」の願い文の下に、泥の足跡が、そっと並んでいた。
「……いつからだ」
確かめようにも、足跡のついた絵馬の隣には、もう新しい一枚が重ねられていた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「神と猫」の他のお話は、マガジンにまとめてあります。
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