
神と猫|シロクマ文芸部「お題:待つ時間」
「神と猫」という掌編小説を書いています。
由緒を覚えている者もいない、小さな社の話です。
神様の名はタカマ様。かつては近隣の実りを見守っていたはずが、今では賽銭箱の中身が増えたか減ったかで一喜一憂しています。
境内には、いつからか名前のない猫が一匹。タカマ様が何を言っても、片耳を動かす程度でしか応えません。
二人のあいだでは、特に何も起こりません。
今回、小牧幸助さんの企画「シロクマ文芸部」のお題「待つ時間」に、その続きの一話として参加させていただきます。
留守
待つ時間は神の本分である、とタカマ様は日ごろから言っている。
その朝、猫は賽銭箱の縁を離れ、石段を下りていった。尻尾を立てて、振り返りもしなかった。
「昼には戻るであろう」
タカマ様は賽銭箱の上に片膝をつき、空いた縁を眺めた。雀が屋根を歩いた。風が落ち葉を鳥居のほうへ運んでいった。
昼になった。猫は来ない。
「気まぐれな生き物よ」
日が傾いた。石段の影が長く伸びて、鳥居の根もとまで届いた。
「……腹が減れば戻る」
タカマ様は鳥居の脇まで下りていって、そこに立った。道の先を見た。自転車が通った。犬を連れた女が通った。子どもが三人、走っていった。猫は通らなかった。
「神が猫を待つなど、聞いたことがない」
腕を組んだ。組み直した。
烏が鳴いて、山のほうへ帰っていった。暗くなった。街灯がひとつ点いた。タカマ様は柱に寄りかかり、それから立ち上がり、また寄りかかった。
「明日には戻る。明日でなければ、明後日には戻る。私は百年でも──」
道の端に、白いものが動いた。
猫が歩いてくる。いつもなら石段を上がり、賽銭箱の縁へ真っ直ぐ向かう。その日は違った。鳥居の手前で足を止め、タカマ様を見上げ、それから柱のわきに座った。
タカマ様の立っている、その隣だった。
タカマ様は何も言わなかった。猫も道の先を見ていた。尻尾の先が、一度だけ動いた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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