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K大軽音部のカオス“ギミサムラヴィン”【第9話】意外な再会


    新幹線から降りたボクを真っ先に出迎えてくれたのは“Negicco”だった。

    すでに日が暮れて街は青系や赤系のネオンサインで彩られている

    駅前の大型ビジョンで流れるCM映像に彼女たちの笑顔を見たときはホッとした。

    バスターミナルまで歩いていたら、LINEに着信があり開いてみる。

    メグからだ。

    「おつかれさま。明日は日曜日だけど朝10時に部室集合ね」

    それだけかよ。とも思ったがメグらしくて微笑ましい。懐かしさすら感じた。

    一週間近く留守にした“我が家”に着くと安心感からかどっと疲れが出た。

    メグに「無事カエル 再会ヲマツ」とだけ返信して眠ったようだ。

    目が覚めるとつけっぱなしのテレビから「シューイチ」と聞こえた。

    顔を洗い歯を磨くとようやく頭が動き出す。

    服を着替えて部屋を出ると、とりあえずコンビニであんドーナツと1日分の野菜とやらを買った。

    パクつき飲みながらK大に向かう。9時には部室に入ることができるだろう。


    新しい形

    サークル棟の階段を上がり「K大軽音部」と手描きのポスターが貼られた重めのドアを力を入れて開く。

    茶髪のロングヘアーが目に飛び込む。メグはずいぶん早く来ていたのか、1人でノートパソコンをいじっていた。

    「あら、おはよう。どうだった。ラクーンギターでの武者修行わ」

    ボクに気づいてニコッと笑う。嬉しくてピョンピョン跳ねたい気持ちをぐっと抑えた。

    「おはよう。ただいま帰りました。かな」

    平静を装って返したが、その後の言葉が出てこない。報告することをきちんと整理しとくべきだった。

    「ユウに頼んどいたから心配はしなかったけど元気そうね。得るものはあったでしょ」

    メグがユウのことを口にするので、ボクはドキドキして心臓が飛び出しそうだ。

    戸惑っていたら、メグの方から切り出した。

    「わたしも高校時代にいろいろ教わったの。音楽だけじゃなくていろいろ。まるで姉妹のように仲良くなってさ。よくあのこの部屋に泊めてもらったわ」

    「メグもユウの部屋に泊まったんだ・・・もちろん知ってるよね」

    「そう。男の子だって明かされたときは正直驚いたけど。アキラもそうだったでしょ」

    「うん、ユウの偽らない言葉を聞けば不安なんて感じなかった。信頼できた」

    「ふふ。どうやらユウに気に入ってもらえたようね。ミッションもほぼクリアってとこかな」

    そうなのだ。ユウとの出会いはボクにとって大きな出来事だった。だけどメグから課せられたミッションを忘れるわけがない。

    ベース上達とバンドの“圧倒的なスタイル”を追究することこそ本来の目的なのだ。

    ボクは背負ってきたベースをソフトケースから出してセッティングをはじめた。

    「おはようございまーす」

    朗らかな声に振り向くと見覚えのある女子が立っているではないか。

    金髪というより黄色に近い髪色で、おひさまのようにニコニコ笑っている。グレイ系のシックなロングワンピースを着ているから、なおさら笑顔が映えた。

    「新入部員の牧野さん。ピアノを習ってたんだって」

    メグに紹介されて彼女はさらに笑顔を見せた。

    「牧野清夏(まきのせいか)です。セイカって呼んでね」

    「ども。桃田明っす。アキラって呼んでください」

    お互いに紹介し合うと、メグがいきさつを詳しく話してくれた。

    「この間の顔見せに来てくれてたんだけど、ほら、あんな風になっちゃったじゃん。自己紹介もろくにできなかったから、アキラはよく覚えてないかもね」

    「どこかで見たような。って思ったけど。そうだったんだ」

    ボクが合点がいくと同時にセイカがいう。

    「わたしは覚えてるわよ。だってすでに慣れた感じで先輩面してたもん」

    おっと。これはメグ並に気が強そうだ。1年生だからって油断できないぞ。

    「アハハ。アキラは少しだけ早く入部したからね。キョーイチとは意気投合するし」

    おいおい。まさかメグはあの浜辺で過した夜のことまで言い出さないだろうな。ハラハラししていると大声が響く。

    「よー!お揃いだねっ!」

    ハイテンションで登場したのはドラモリだ。ボクはそのタイミングに救われてホッとした。

    あの日、キョーイチと2人、ドラムとギターで繰り広げたソロ合戦の光景が蘇る。“顔見せ”を台無しにした張本人だが、まったく反省の気配はない。

    「ようやく揃ったわね」

    メグが集合をかけたメンバーが揃ったというのか。ボクは腑に落ちず確認した。

    「キョーイチは?」

    「ああ、あいつはママと一緒に沖縄に行ってる。ママの彼氏のライブを見るんだって張り切ってたわ」

    キョーイチの母親の彼氏ということはギタリストの「かっちゃん」だろう。

    「ドラモリはバンド結成に前向きだけど、キョーイチは相変わらず我が道を行くみたい。だからこのメンバーでやってみようと思うの」

    「え!ということは、リードギター抜きで!キョーイチを無視したみたいになりませんか?」

    軽音部の先輩で中心的存在のメグに対して生意気かとは思った。でもそこはハッキリさせるべきだろう。

    「アキラ。言ったでしょ“圧倒的スタイル”を目指すって。ドラモリは納得してくれたの。キョーイチを待っていたら好機を逃しちゃう」

    「『Now's The Time』今こそ、その時っていうからな」

    メグが答えるとドラモリが同調した。お前が言うなって感じだが、よくメグの話しに耳を傾けたものだ。

    「なんでまた、バンド結成の誘いに納得したんですか?」

    思いきってドラモリに聞いてみた。

    「まあ、いろいろあってさ・・・」

    モゴモゴ言ってるとセイカが口を挟む。

    「わたしの元カレなのよ。顔見せで偶然再会したってわけ。終わってからわたしが一緒にやろうって詰め寄ったらあっさりOKしたわ」

    「新入生と顔見せっていうからさ。久々に部室に来たら、セイカが目に入っておったまげたよ。頭が真っ白になってずっとドラムを叩いてたのさ」

    いきなりドラムソロをはじめた真相を明かすとばつが悪そうに頭をかいた。ドラモリらしくない仕草に笑いが起きる。

    空気が和らぐのを待っていたようにメグが仕切った。

    「じゃあいいかな。皆にこのライブ映像を見てほしいの」

    テーブルに置かれたPCで動画を再生した。

    「ふーん。これってYUIが一流アーティストたちに呼びかけたバンドだよね」

    「YUIの『CHE.R.RY』はよく聴いてた~。活動休止してたけど、バンド組んだんだ」

    「これはだいぶ前のライブだけどね。アキラはどう思う」

    メグに意見を求められた。

    ドラモリとセイカが映像を見て盛り上がる中、1人だけ黙っているので気になったのだろう。

    「うーん。ベースがしっかりしてるからまとまってるよね。ドラムとの信頼関係も感じられる。キーボードもだし、なによりボーカルが伸び伸びしてる」

    「確かに。これだと安心して叩けるだろうな」

    「わかるっ、弾いててめちゃ楽しそう」

    ドラモリもセイカも改めてバンドのパフォーマンスに集中した。

    「どうやら武者修行はムダにならなかったみたいね」

    メグは満足そうな表情で話しを進めた。

    「どうかなぁ。こんな感じのバンドを目指そうと思うの」

    「いいんじゃないですか」
    「やってみようぜ」
    「やりましょう」

    2年生と1年生合同のバンドはK大軽音部にない“新しい形”で始動した。

    ドラムは“ドラモリ”こと森武雄。キーボードは“セイカ”こと牧野清夏。ベースはボク、“アキラ”こと桃田明。そしてギターとボーカルを“メグ”こと恩田めぐみが担当することになった。

    新生バンドで音を合せていると皆なんだか楽しそうだ。あっという間に時間が過ぎていく。

    「今日はこのくらいにしときましょう。自分のパートを練習するのはもちろんだけど、全体の流れも覚えるようにしてね」

    メグが締めて散会した。ドラモリはセイカと一緒に帰るらしい。ボクだってメグと帰りたいが、自分から言い出せない。

    もたもたしてるとメグの方から声を掛けてきた。

    「送ってくれるんでしょ」

    「あはい。もちろん」

    2人で歩いて帰るのはあのとき以来だ。しかし浜辺の方には行かなかった。

    もうすぐ自宅という辺りでメグがいう。

    「わたしさぁ、学科の論文が締め切り間近なの。軽音部も大事な時期だし、しばらくデートはできないかも。ごめんね」

    「そうなんだ。でも軽音部では会えるんだよね。デートできないのは寂しいけど、大丈夫だよ」

    言葉を交わして別れた。

    ボクはいつものコンビニで弁当とカップ麺を買って帰った。バンド結成もなんとか進み、今夜はよく眠れそうだ。


    夢で逢えたら

    夕暮れの浜辺を歩いていた。波打ち際なのでスニーカーを脱いで素足になった。指の間に感じる砂の感触がこそばゆい。

    ふと見ると、前方に懐かしい人影を見つけた。メグかと思ったが彼女はもっと髪が長い。

    「ユウ。ユウだよね」

    ボクが声を上げると人影は慌てたように走り出す。

    「待って。来てたんだね。待ってよ」

    ボクは必死で追いかけた。

    「アハハ、アハハハ」

    追いつかれそうになってイタズラっぽく笑う。

    「もう逃がさないぞ」

    後ろから腕をつかもうとしたら、砂に足をとられて転んだ。

    人影も転んだ。

    その勢いでボクが上から抱きつく格好になる。

    「会いたかったよ」

    ボクが呼びかけると振り返った。

    「キョーイチーーー!」

    自分の叫び声で目が覚めた。

    まさかこんな形で再会するとわ。ボクはとんでもない悪夢を見たようだ。ぐっしょりと寝汗をかいていた。


    -続く-


    【参考動画】


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