メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【毎週ショートショートnote裏】無限の尾

    ふかふかの尾と出会ったのは、森のはずれの散歩道だった。

    夕暮れどき、小さな祠の脇を通ると、木陰にひらひらと白いなにかが揺れていた。
    近づいてみると、それは動物の尾だった。けれど、なんの動物かは見えない。
    ただ尾だけが、空気をふるわせるように揺れていた。

    そっと触れてみると、信じられないくらい柔らかくて、あたたかくて、すっぽりと心が包まれるような気持ちになった。

    それからわたしは、毎日のようにその尾を撫でに通った。

    一度触れると忘れられない手ざわり。まるで、わたしのためにそこにいてくれるみたいだった。

    ある日、尾はくるりと動いて森の奥へと進んでいった。

    わたしは、ためらいながらもついていった。
    尾はときおりこちらを振り返るようにふるえて、暗い森の奥へ奥へと進んでいった。

    そして、見つけた。

    暗い森の奥、しんとした地面の上に、それは果てしなく折り重なっていた。

    尾。尾。尾ーーー。

    ふかふかの尾が、無限に連なってどこまでも続いていた。

    どこからどこまでが一匹なのかわからなかった。けれど、不思議と怖くはなかった。

    そのとき、わたしはようやく気づいた。

    自分の指先が、腕が、背中が、ふわりと毛深く、やわらかくなっていることに。

    もう言葉は出せなかったけれど、なんだか心は穏やかだった。

    わたしも尾の一部として、静かに次の誰かを待つことにした。
    ふかふかの手ざわりに、つい誘われてしまう誰かを。

    (579文字)

    表のお題はこちら⇩


    *この記事は下記企画に参加しています*

    あなたへのおすすめ