
🗾半リア旅行記〜土地の記憶、未来予測〜東京・銀座編 ③
天地が銀座にあるすき焼き店を訪れた。
一口、また一口。

美味しいすき焼きを味わっているうちに
なぜか天地の意識は遠い時間へと
引き込まれていく。
……タイムトラベルが始まった。
中央区のメタモルフォーゼ・グループ
・歴史があった町【馬喰町、小伝馬町】
江戸時代
馬喰町は馬や人が集まる宿場町・問屋街
小伝馬町は公用交通の拠点として
江戸で一、二を争うほどの賑わいを見せていた。
しかし現在は
問屋街の面影を残す繊維街・オフィス街となり
夜間や週末は静かだ。
銀座や日本橋、月島などと比べれば
今は一番落ち着いている町と言えるだろう。
・湾岸タワマンエリア【晴海、勝どき、月島】
現在は超高層タワーマンションが林立し
人口も急増している。
しかし、ほんの130年前までは影も形もない
ただの東京湾だった。
月島や勝どきは明治以降
約130年前から段階的に埋め立てられ
晴海にいたっては1931年に埋め立てが完了した人工島だ。
江戸時代や明治時代の人々が現代を見れば
海の上に巨大な摩天楼が建っていることになる。
中央区の中でも過去と現在のギャップが
最も大きい何もなかった町だろう。
・現在も活気ある町【日本橋、銀座、人形町】
一方、日本橋は五街道の起点として
銀座は銀貨の鋳造所から高級商業地へ
人形町は江戸から続く商店街として
時代ごとに姿を変えながら活気を保ってきた。
これらの町はどの時代の人が見ても
「日本の中心として賑わっているのだな」と
感心するエリアだろう。
・変貌を遂げている町【築地、兜町、八重洲】
築地は市場移転を経て
未来型のエンターテインメント・国際拠点へ。
兜町は「お堅い金融街」から、カフェやホテル
アートが集まる高感度なカルチャーの街へ。
八重洲も、東京駅の「裏口」的な雑多な街から
超高層ビルが並ぶ国際的な玄関口へと変貌を
遂げつつある。
中央区は、火災や埋め立て、再開発を繰り返しながら、時代ごとに町の主役を変えてきた。

…過去を見てきたのなら、30年後も視てみよう。
天地はさらに未来へ意識を向けた。
2050年代の中央区は
「海」の晴海・勝どき・月島が、テクノロジーと人が集まる最先端都市へ。
「陸」の日本橋・銀座・人形町は、歴史そのものの価値がさらに高まる街へと進化しているかもしれない。
そして、今は落ち着いた馬喰町や小伝馬町も
クリエイターや新しいビジネスが集まり
再び別の形の活気を取り戻しているだろう。

中央区はこれからも
何度でもメタモルフォーゼを繰り返していく。
そして……
銀座の時間を旅する天地の脳裏には
昭和の文豪たちの姿も浮かんでいた。
銀座のとあるバーには
太宰治のほか、坂口安吾や織田作之助といった
無頼派、新戯作派の作家たちが足しげく通い
夜な夜な芸術や世間話について語り合っていた。
また、とあるカフェは森鴎外らとともに
文豪たちに愛された名店として知られ
太宰も折に触れて銀座の街の洋食や喫茶を
楽しんでいた。
今回はお見かけしなかったけど……
夜のバーの片隅で語り合う作家たちを
あるいは喫茶店で静かにコーヒーを飲む太宰治を見かけたかもしれない。
「 お客さん、お客さん。大丈夫ですか? 」
肩を揺り起こされ、天地は我に返った。
「 あっ、すみません
とても美味しかったです 」
すき焼きを食べていただけなのに。
天地は、銀座を始め、中央区という土地が
重ねてきた過去と、まだ見ぬ未来を旅していた。
乱れた呼吸を整えながら
天地は店員に向かって、真剣な顔で言った。
「 申し遅れました。どうも、太宰勇です 」
「 ……え? なんておっしゃいました? 」
「 長居をしてしまったようで
尾伏さんに怒られやしないか心配です 」
「 はぁ……… 」
「 ……いや、天地です。お会計をお願いします 」
次の旅の予感を胸に秘めながら
天地は財布を取り出した。
―――アウトロ―――
銀座を舞台にした楽曲や
その街の空気を歌ったりするなど
関連する各時代の楽曲3選

『銀座の恋の物語』(1961年)

『東京は夜の七時』(1993年)

『目抜き通り』(2019年)