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【連載】悪役令嬢を名乗るお友達より、わたくしのほうが怖がられましたわ|罪状その二

    断罪されても、この美貌までは没収できませんでしたわ。
    悪役お姉さま、ヴェロニカ・ヒールズよ。

    これは、わたくしが断罪され、noteへ左遷されるまでのお話ですわ。


    夜会から、七日。
    わたくしは、もう「あの夜会の」と呼ばれておりましたの。

    予想より、ずっと早かったですわ。
    階段の伯爵夫人でさえ、ひと月はかかったと聞きますのに。

    屋敷には、招待状が一通も届かなくなりました。
    銀の盆は、毎朝からっぽ。
    執事のクジョワールが、からっぽのまま、うやうやしく運んでまいりますの。やめてほしいですわ。


    八日目の朝。
    盆の上に、封筒が一通、のっておりましたの。

    桃色の封蝋。
    はねるような、元気のいい字。

    「お茶会をいたしますわ! ぜひ、いらしてくださいませ!」

    お友達の、わかモンからでしたわ。


    わかモンのお屋敷の庭園は、春のまっさかりでしたの。

    白い卓布が、風にふくらんで。
    三段の皿には、苺の焼き菓子と、砂糖がけのすみれ。
    ポットからは、りんごの皮を煮たような、甘い湯気がのぼっておりましたわ。

    卓を囲むご令嬢は、十二人。
    わたくしが席につくと、両どなりの椅子が、すこしずつ遠くなりましたの。

    ……気のせいではありませんわ。芝に、跡がついておりましたもの。

    そのとき、わかモンが立ちあがりましたの。
    椅子の上に。


    「みなさま! わたくし、本日より、悪役令嬢になりますわ!」


    扇を、ぱちん、と鳴らして。

    「期間限定ですけれど!」

    期限のある悪役なんて、はじめて聞きましたわ。

    庭園は、拍手につつまれましたの。


    「まあ、かわいらしい」
    「がんばってくださいませ」
    「お菓子、もうひとついかが?」


    ……誰ひとり、怖がっておりませんの。

    わかモンは、椅子の上で首をかしげておりましたわ。

    「おかしいですわね。悪役のはずですのに」

    わたくしは、遠くなった両どなりの椅子を見ました。
    それから、椅子の上のお友達を。

    世の中は、うまくいきませんわね。

    でも、お友達の晴れ舞台ですもの。
    招待状をくださった、たったひとりの方ですもの。

    力になりたい、と思いましたの。

    「クジョワール」

    うしろに控えていた執事を、小声で呼びましたわ。

    「あの方を、もう少し怖く見せてさしあげられないかしら」

    「お任せくださいませ。設計図がございます」


    あるのね。もう。


    植えこみのかげから出てきたのは、大きな角灯でしたの。

    わたくしの背丈ほどもある、真鍮の灯り。
    横には歯車がいくつも噛みあって、てっぺんには、風見鶏のような羽根。
    うしろから照らして、影を大きく見せる仕掛けだそうですわ。


    「悪役は、影が大きいほど、それらしゅうございます」


    理屈は、通っておりますわね。

    日が、かたむきはじめておりました。
    庭園の白い塀が、うすい橙色にそまるころ。

    クジョワールが、ねじを巻きましたの。


    じじ、と芯が鳴って。
    灯りが、ともりましたわ。

    影は、たしかに大きくなりましたの。
    塀いっぱいに、黒々と。

    ただ。


    わかモンの影では、ありませんでしたの。


    角灯が、まわっておりましたわ。
    歯車が、かち、かち、と音をたてて。
    ゆっくり、ゆっくり、こちらへ。

    塀に立ちあがったのは、わたくしの影。
    髪飾りが、ちょうど二本の角のかたちに、伸びておりましたの。

    お茶会の話し声が、ひとつずつ、消えていきましたわ。


    「隠すであります!」


    ターナーが、わたくしの前に飛びだしましたの。
    灯りを、その大きな背中でさえぎろうとしたのですわ。

    剣を、抜いたまま。

    塀の影に、腕が二本、ふえました。
    剣も、一本。

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    角があって。
    腕が四本あって。
    剣を振りあげた、塀より大きな、何か。

    ティーカップが一客、芝の上に落ちましたの。
    それが、合図でしたわ。


    お茶会は、そこでお開き。
    椅子が、つぎつぎに倒れて。
    みなさま、とてもお足が速かったですわ。裾をつまむのも忘れて。

    「見まして? あの影」
    「あれが、あの方の本性よ」
    「なんて、悪い方」

    声が、生け垣のむこうへ遠ざかっていきます。


    ちがいますの。
    半分は、ターナーですの。


    庭園に残ったのは、倒れた椅子と、冷めていくお茶。
    それから。

    ぱち、ぱち、ぱち。

    拍手が、ひとりぶん。

    わかモンでしたわ。
    椅子の上に立ったまま、目をきらきらさせて。

    「さすがですわ、ヴェロニカさま! 本物は、ちがいますわ!」

    本物ではありませんの。

    「わたくしも、精進いたしますわ!」

    ……聞いていらっしゃらないわ。

    わかモンは椅子からおりて、わたくしのカップに、お茶をつぎ足してくださいましたの。
    逃げた十一人ぶんの焼き菓子を、ぜんぶ、こちらへ寄せて。

    ふたりきりのお茶会は、日が沈むまで続きましたわ。

    ひとりでも、残ってくださる方がいる。

    悪くありませんわね。

    ……紅茶が冷めずにすんだ、という意味よ。


    罪状、その二。
    お友達が名乗った悪役の座を、初日に奪った令嬢。


    ……わたくしは、何もしておりませんのよ?


    断罪の日まで、まだ少しありますわ。
    つづきは、また今度。



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    ◆ 登場人物 ◆

    ・ヴェロニカ・ヒールズ
    ヒールズ家の長女。何もしていないのに、悪役と呼ばれる。

    ・クジョワール・ド・ローゼンハイム
    執事。発明が趣味。完成したためしがない。

    ・ターナー・カー・モンデル
    護衛。王国いちの剣士。止めようとすると、だいたい悪化する。


    ・わかモン
    ヴェロニカのお友達。自分から「期間限定の悪役令嬢」を名乗っている。拍手が、誰よりも大きい。


    ◆ 今回の発明 ◆

    影のばし角灯(設計図 二枚目)
    うしろから照らして、影を大きく見せる灯り。
    結果:影は大きくなった。照らす相手をまちがえた。

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    わたくし、子羊たちのお悩みを100件片づけたら、王国に帰れますの。
    悩める子羊ちゃんは、質問箱へいくのよ💋



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    わたくし、子羊たちのお悩みを100件片づけたら、王国に帰れますの。
    悩める子羊ちゃんは、質問箱へいくのよ💋



    最近はお悩みではなくて、質問が多いわ。週刊ヴェロニカで一気に出すわよ

    ついでにこちらも見ていってくださいな。
    記念すべき一日目に、私が綴ったものよ。



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