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フィレンツェの春【24】垰郷

    あらすじ
    1474幎倏。旅を終えたゞュリアヌノずボッティチェリ。故郷の倉わらぬ姿が圌らの倉化を映し出す。いっぜう包囲が続くチッタ・ディ・カステッロ。ノィテッリ芪子がゲリラ戊を繰り広げるなか、それでも人々はパンを焌き、葡萄酒を飲み、朝を迎える。

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    ■ 登堎人物ず目次


    ■ 我が家

    1474幎倏。フィレンツェ東門、ポルタ・アッラ・クロヌチェ。
    倕暮れの光が、城壁の䞊を斜めに撫でる。

    ゞュリアヌノ・デ・メディチ䞀行は手綱を緩め、䞀息぀いた。

    「垰っおきたしたね、旊那」
    護衛隊長が安堵の声を䞊げる。若きメディチも埮笑み、倧きく頷いた。
    芋慣れた街䞊みが倕陜のオレンゞに滲む。

    その向こう。圌方のドゥオヌモは局をなす赀い屋根たちの波間に浮かぶ。

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    Vvici, ≪ La Florissante au crépuscule », 2026

    人通りは倚い。
    石畳を行く荷車。店先から聞こえる声。倕选の支床を急ぐ人々。
    人が生きおいる音。

    ――我がフィレンツェの地。

    東から延びる街路を進み、サンタンブロヌゞョの垂堎ぞ差しかかる。
    䞀日の商いは、終わりに近づいおいる。

    籠に残った野菜を片づける女。荷車ぞ売れ残りを積む男。店先を掃く少幎。
    石畳には、螏たれたキャベツの甘さず魚の臭みが残る。
    倕方のアルノの颚が、湿った空気ずずもに煮蟌み鍋の銙味も運ぶ。

    傟いた陜が、それらすべおを赀く染める。
    ゞュリアヌノは、ふず歩みを止めたくなった。

    こんな景色はい぀ぶりだろう。
    旅で芋たものが胞の奥に沈殿しおいる。
    この町の賑わいが、静かにそれを揺らす。

    垂堎を抜ける。故郷は䜕も倉わっおいない。
    けれど、その県には違っお映る。

    りルビヌノの静けさず秩序。
    チッタ・ディ・カステッロの城壁ず祈り。
    そしお、そこで今たさに振るわれおいるであろう、旗印ず剣。

    それらを知る圌には、しかしこの町の賑わいもどこか遠くに感じられる。

    やがお陜が屋根の向こうぞ沈みはじめる。
    通りを抜ける。懐かしいメディチ宮の姿。
    ゞュリアヌノは銬䞊で小さく息を吐く。

    兄がいる。
    呜什に背いお町を出たこずを、蚱しおはいないだろう。

    倕陜の残り火が、石壁を淡く照らす。
    若きメディチは手綱を匕き、我が家ぞず銬を進める。


    ■ 兄ず匟

    メディチ宮。
    䞭庭の䞭倮では、ドナテッロのダノィデが倉わらずゎリアテの頭を螏んでいる。

    蹄がテラコッタを打぀。その柔らかい音が回廊に響く。
    䞀行は銬から降り、䞍意を突かれたように䞀瀌する。

    サンドロ・ボッティチェリもそれに倣う。

    ロレンツォ・デ・メディチが、回廊の圱に䜇んでいた。
    曞状を握りしめ、倕暮れの颚を受けおいる。

    銬蹄が空気を震わせたずき、その息が䞀瞬だけ止たったように画家には芋えた。

    ――圌もたた、埅っおいたのだ。

    フヌドを降ろしたゞュリアヌノが緊匵の面持ちで歩み寄る。
    圓䞻である兄の呜什に背き、無断で故郷くにを飛び出した匟。
    二人の芖線が亀差する。

    「呜什を、忘れたのか」

    兄の声が萜ちる。その響きは冷たく、硬い。
    フィレンツェの䞻ずしおの嚁厳に満ちた声。
    匟は目を䌏せ、頭を垂れる。

    距離は開いたたた。しかし、画家の県はそれを逃さない。

    蚀ったあず、ロレンツォの芖線が玠早くゞュリアヌノの党身を捉えたこず。
    そしお瞳の底の黒に、埮かな癜銀の軜さが混じったこず。
    半呌吞分だけ、肩から力が抜けたこず。

    䌏せられおいた匟の现面が、その穏やかな呌吞に合わせお兄を向く。

    埮動だにしなかったロレンツォは、頬だけをわずかに緩めた。
    「  だが、垰っおきたな」


    ■ 父ず子

    それから数時間埌、チッタ・ディ・カステッロ。
    北東にそびえるアペニンの斜面から、ずきおり冷えた颚が流れ蟌む。

    城壁の䞊では、芋匵りの兵が教皇軍を芋やる。

    昌間なら無数の倩幕ず旗印の海が芋えるはずだった。
    だが倜は倩幕を闇に沈め、揺れる篝火だけを浮き䞊がらせおいる。

    月はしばらく雲に隠れおいる。西からは分厚い黒雲も迫り぀぀あった。
    颚の匂いが倉わり、続いお向きが倉わったその時。

    北の隠し門が音もなく開き、黒衣の階手が攟たれる。
    銬も炭で黒く塗られ、垃でくるたれた蹄が音も殺す。

    それは、十二本の黒い槍ずなっお城壁の町からアペニンぞず向かう。

    先頭を疟駆するは、あの黒い男。
    埓うは、やはり猛犜の県を光らせるその息子ゞョノァンニ・ノィテッリず、十人の猛者ども。

    教皇軍は城をずり囲んでいる。
    しかしこのロヌマの巚人は、そのぶん食わねばならない。

    ロレンツォ・デ・メディチからの情報によれば、町の北を流れるテノェレ支流沿いの補絊隊は昚晩到着したばかりだずいう。
    そしお今、慣れぬ土地で嵐ぞの備えに远われおいる。
    荷車の芆いを抌さえる埡者たちの手は泥ず灰にたみれ、護衛兵は倩幕の綱を締め盎しながら空を睚む。篝火は湿気で匱り、煙が现く挂う。

    その光が揺らぐ䞭で、圌らはただ気づいおいない。

    城壁から闇に溶ける挆黒の槍が近づいおいるこずに。
    圌らの息遣いが数時間前から芋匵られおいたこずに。

    土地を知り尜くした猟垫ず蟲民からなる民兵がそこかしこに朜む。
    蟲具を加工した凶悪な埗物を手に、嵐の先觊れを埅぀。

    颚が䞀段匷く吹いた。
    ——今だ。

    ニッコロ・ノィテッリは音もなく抜刀する。
    嵐の前の倜にふさわしい、沈黙の号什。

    埌ろに぀く階手たちの匩から、颚に玛れお短矢が攟たれる。
    䞀斉に闇を裂くその十䞀本は、矢ずいうより短く重い鉄の杭だった。

    衛兵が声を䞊げる間もなく鈍い音を立おお倒れ蟌む。
    荷車を敎えおいた埡者が叫がうずするも、間に合わない。

    黒い階手の矀れがなだれ蟌む。
    焚火が蹎り厩され、闇がたた䞀段深くなる。

    荷車の䞀台が暪転し、埡者が転げ萜ちた。
    暗がりから躍り出た民兵たちが荷車を銬ごず匷奪する。

    雷鳎が遠くで響く。
    補絊隊は敵の数すら掎めない。どこから来たのかもわからない。
    川沿いの補絊陣地は恐怖に呑たれ、すでに混乱の巷ず化しおいる。
    そこかしこで銬が嘶き、人が倒れ、荷瞄の切れる音がする。

    「巊」
    ニッコロの声が飛ぶ。

    反応した衛兵の県前を、ゞョノァンニの黒い圱がすでに暪切っおいる。

    若い身䜓が銬䞊から滑るように降り、鋌がうなる。
    構える隙も䞎えず槍を手から叩き萜ずす。䜎いうめき声が続く。

    父はもう息子を芋おはいなかった。息子も父を芋ない。
    父の口元が、わずかに緩む。

    昔からそうだ。
    息子の身䜓はい぀も、父の呜什の半拍子前に動く。

    荷車の芆いが匕き剥がされる。
    䞭から也燥肉、麊、豆、塩挬けの魚、そしお暜が転がり萜ちた。
    手慣れた動きで戊利品を銬に括り付けおいく。

    ようやく川䞊から角笛が鳎る。遠くに束明がいく぀も浮かぶ。

    「朮時だ」
    叫びが䞊がるや、党員が銬に戻り敎然ず撀退が始たる。

    ゞョノァンニが最埌に銬に飛び乗った、たさにそのずき。
    䞀人の逃げ遅れた衛兵が、暗がりから槍を繰り出しおきた。

    若きノィテッリは身を捻る。穂先が頬を掠める。

    刹那。皲劻の倪い枝が音に先んじお癜く疟る。
    無音。ず、巚倧な階手の圱が明滅し、槍の軌道を薙ぎ倒す。

    雷鳎。蜟音ずずもに衛兵は厩れ萜ちる。

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    Vvici, ≪ La Titanomachie », 2026

    「父䞊」ゞョノァンニが息を挏らす。
    「いいから行け」
    息子は頷き、銬銖を巡らす。

    黒いふた぀の圱が、前を行く倧きな矀れずひず぀になっお町ぞず戻る。

    川面を枡る颚がさらに匷くなり、雚が萜ち始めた。
    雷光。最初の䞀滎が頬の傷を打぀。

    数瞬を眮いお激しい雚が雷の蜟きずずもに地を叩く。
    远っ手の芖界には、远うべきものはもう、䜕ひず぀入らない。


    「お通様だ」
    芋匵りの兵が雚音に負けじず叫ぶ。城壁が再び口を開く。

    泥氎ず汗にたみれた銬が、䞀頭、たた䞀頭ず門をくぐる。その埌ろに荷銬車が続く。

    麊袋。豆。塩挬けの肉や魚。倧小の暜。ペテロの鍵の王が刻たれた箱たである。
    それらは歓声ずずもに町に匕き入れられた。

    チッタ・ディ・カステッロの䞻は歓呌の喧隒の䞭、散歩から戻っおきたような顔で雚ず泥を払う。

    ゞョノァンニも頬を拭い、濡れそがった黒衣を埓者に枡すず、平然ず蚀った。
    「父䞊。朝飯にしたしょう」
    父もぶっきらがうに応じる。
    「うむ。  ちず早いが。確かに腹が枛ったな」

    「皆のもの、ご苊劎だった。朝飯にしよう  葡萄酒もあるぞ」
    ゚ンドりの収穫でも終えたかのような口調に、城内が笑いに包たれる。

    包囲は続く。
    それでもチッタの朝は、い぀ものように始たる。

    焌きたおの麊の銙りずずもに若い黒髪の女が倧籠を抱えお来た。
    「これなら、䞉日は焌けたす」
    戊利品の麊袋を芋お埮笑む。

    「䞊出来だ」
    ニッコロも笑顔で答える。ただ熱いパンを掎み、息子に攟る。

    ゞョノァンニは受け取り、手を振っお女に笑う。
    「たた取っおきたすよ。ビアンカ姐さんのパンは絶品だからね」

    こうしおノィテッリ芪子は、䜕食わぬ顔で早めの朝飯にあり぀いた。


    Continua → フィレンツェの春【25】ギデオンの剣

    ■ 登堎人物ず目次


     
     
    Vviciりりィキ AIずいう新たな絵筆を甚いた絵画ず意匠、歎史/物語が融合するメディアミックスアヌトを展開。「Vici埁服」ず「Wiki瞬時の集積知」のはざたで矎を巡る思考の断片を蚘録したす。 『フィレンツェの春』むタリアルネサンスが舞台の連茉小説。日曜倜曎新。

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