
人事評価に正解はあるのか?「360度評価」 #141
企業は、その目的を果たすために存在しています。
そしてその目的に向かうために、経営理念を軸に戦略を描き、日々の事業活動をマネジメントしています。
その活動を支えているのが、いわゆる「経営資源」です。
資金調達、販売、人材管理、経営管理──こうした機能の集合体とも言えるものです。
一般的に経営資源は、「ヒト・モノ・カネ・情報」と言われます。
そして、これらを必要な場所へ適切に供給していく役割を担うのが、企業のインフラストラクチャーです。

■ なぜ今、「ヒト」が重要なのか
経営資源の中でも、近年とりわけ重要性が増しているのが「ヒト」です。
だからこそ、単なる人事管理ではなく、
経営戦略と深く結びついた「戦略的人的資源管理(HRM)」の考え方が求められています。
現代の人事課題は実に多様です。
• 労働力不足
• 技能継承
• 組織力の向上
• マネジャー育成
• スキルアップ
• コミュニケーションの活性化
• 生産性向上
どれも一筋縄ではいかないテーマばかりです。
そもそも人は、一人では限界があるからこそ組織をつくります。
そして組織には、さまざまな役割と責任を持つ人材が集まります。
成果を出す人もいれば、そうでない人もいる。
責任の大きさも、貢献の度合いもバラバラです。
だからこそ、「どう評価するか」は避けて通れないテーマになります。
■ 公平な評価は実現できるのか
HRMの重要な要素の一つが、人事評価制度です。
その評価基準は、
・業績評価 — 目標に対する成果評価
・能力評価 ー 発揮・貢献した能力評価
・情意評価 ー 仕事に対する誠実な姿勢評価
などとなります。
評価において特に求められるのは、「公明正大」と「信賞必罰」です。
その文脈で広く導入されているのが「360度評価」です。
360度評価とは、上司だけでなく、同僚・部下・他部署・場合によっては社外の関係者など、
多様な立場の人から多角的に評価を受ける仕組みです。
単一の上司による評価に比べて、より客観性・公平性が高まるとされています。
ただし、万能ではありません。
評価者の経験値や関係性によって、
「厳しく評価すべきか」「評価を与えるべきか」の判断がぶれることもあります。
■ そこで導入した「Good Jobカード」
こうした課題に対して、私が取り入れたのが「Good Jobカード」という仕組みです。
これは、職場で良い仕事をした仲間に対して、
感謝や称賛のメッセージを書いたカードを送り合う取り組みです。
もともとはアメリカ発祥の文化で、
イルカショーで良いパフォーマンスをしたイルカに魚を与えることになぞらえて
「フィッシュカード」と呼ばれることもあります。
…人をイルカに例えるな、という声もありそうですが、そこは少しユーモアとして受け取ってください。

■ 自社でのアレンジと運用
私はこの仕組みを、自社の表彰制度にアレンジして導入しました。
四半期ごとの表彰において、
アイドルグループの総選挙のように、社員投票で表彰者を選ぶ形式にしました。
そして、選ばれた上位者には
「プライドカード」と名付けたGood Jobカードを、私の直筆メッセージ付きで手渡しました。
ささやかではありますが、感謝の気持ちとしてQUOカードや副賞の米なとを添えました。

■ 本当の価値は「誰が選ぶか」
この取り組みを振り返って、最も価値があったと感じているのは、
「誰が選んだか」です。
管理職が選ぶのではなく、
現場の社員たち自身が当事者として選ぶ。
ここに大きな意味がありました。
表彰された側は、
「360度から認められた」という実感と誇りを持ちます。
一方で選ぶ側も、
「自分たちの代表を自分たちで選ぶ」という責任と主体性が芽生えます。
評価制度が、単なる仕組みではなく、
組織文化そのものに影響を与えた瞬間でした。

■ 評価制度に「完成形」はない
現在、この制度は終了しています。
HRMのあり方が次のフェーズに移行したためです。
ただ、強く感じていることがあります。
それは、
人事制度に「完成形」は存在しないということです。
そもそも人事評価の基本要素は、業績評価(成果評価)、能力評価、情意評価であると捉えています。
対して、組織も、人も、環境も変わり続ける。
だからこそ、評価の仕組みも進化し続ける必要がある。
また別の形で、360度評価のエッセンスを取り入れながら、
より良い仕組みを模索していきたいと思っています。