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新しiPhoneとの誓い

    仕事を尋ねられて「IT企業です」と答えると、高確率で「機械に詳しいんでしょ」やら「流行りのやつね」などといった先進的なイメージを持たれるが、実際のところそうでもない。会社にもよるだろうが、日本の一企業たるものとにかく会議は長いし、上下関係はそれなりに厳しいし、上司は口うるさい。こうやって批判している私も果たして新しいもの好きかと言われれば全くそうではなく、むしろ「変わる」ということをこよなく嫌う昭和体質な人間である。「当駅始発」の次に好きな四字熟語は間違いなく「現状維持」だ。

    数年前、iPhone8を4年ほど愛用していた私は、日に日に重くなる動作と稀に起こるアプリの強制終了に頭を悩まされ、「お前もそろそろか」と重い腰を上げて機種変更に行くことにした。その頃世の中では、iPhoneのおへそ的存在であるホームボタンをとっくに失ったiPhone13が最新機種として崇められていたのだが、「ホームボタンのないiPhoneなどiPhoneではない」などと言ってその進化を受け入れられなかった私は、店に着くなり「これと全く同じiPhone8へ機種変更をお願いします」と告げた。店員からは呆れにも近い表情を向けられ、結局もう在庫がないと言うのでまんまとiPhone13を買わされたわけだが、あの日別れたiPhone8のことが未だ恋しく、会社から支給されている社用スマホは、充電が1日と持たなくなった今でもiPhone8を使い続けている。恋愛に例えるなら、忘れられない元カノと同じ名前の子と付き合っているような状況である。

    そんな私の日常にも、ここ数年でありとあらゆる「新しいもの」が生活に入り込んでくるようになった。例えばルンバがそのひとつである。夫は私と真逆でミーハーなので、「ロボット掃除機って正直どうなのよ?」とまだ世の主婦から疑念を抱かれていた時期に、ルンバの能力を見込んで家に迎え入れた。部屋の中のあらゆる家具に体当たりしながら進む円盤に、私は「この家を傷つけようとしてるのではなかろうか」と疑いの視線を向け、その横で夫は「名前がつけられるらしいよ」などと微笑んでいた。最近になって、ようやく少しずつルンバの能力を認められるようになったものの、稀にゴミでも詰まったのかナウシカの王蟲さながらの赤い光を灯して、その場から動こうとしない頑固さを見せつけられた時には、家から追い出して放し飼いしてやろうかと半ば虐待的な考えが脳裏をよぎった。

    しかしそんな新しいもの嫌いの私も、サラリーマンであるがゆえ会社の方針には従わなければならない。未だ日本の企業体質が大いに残っているとはいえ、世はAIの時代。ブラウザの隅っこにコパイロットが居座り始めたころから、私の大好きな単純作業に対して上司が「それってAIでできないの?」「AIを使えば一発じゃない?」などと言い始めるようになってしまった。脳を休ませながら、手だけを動かしているあの時間が好きだったというのに。かの有名な漫画に「勘のいいガキは嫌いだよ」という台詞があるが、私も勘のいい上司は嫌いである。
    使いこなせているかと言われればそうでもないくせに「目指すは業務効率化だ!」と威勢だけは良い上司に目を付けられないように、ここ数年私はあたかもAIを活用している風を装っていた。しかし最近になって、大学のレポートや就活で当たり前にAIと慣れ親しんできた世代が社会に流れ込んできてしまったせいで、そろそろ誤魔化すことも難しくなりつつある。とはいえ「AIなんて、ありゃダメだ」などと口にして、「あの先輩は20代なのに"あっち側"」と認定されるのも望ましくない。自分だけ時代に置いていかれるのはまだ良いとしても、後輩たちの若き芽を私個人の性格で踏みつぶしてはならない。

    あの日、古いiPhone8と引き換えに私のもとへやってきたiPhone13も次の冬で6年目を迎える。いくらiPhone8が恋しくとも、結局毎日使っていれば愛着は湧くもので、たかだか数分GoogleMapアプリを使っただけで電力を大量消費してしまうiPhone13にそろそろ別れ時か、と寂しさを覚え始めている。5年も同じモデルを使っていれば、次何に買い替えようがそこそこ使い勝手は変わるため、そこにまた気を重くしている私であるが、その横で夫はまだ1年ちょっとしか使っていないのにもう買い替えたいと言っている。

    機種変更すればきっと、私には到底使いこなせない機能がわんさかついてくる。今度こそ端から自分には関係ない機能だと決めつけるのではなく、一度くらいは触ってみよう。なんてことを考えながら、何度無視しても蘇るソフトウェアアップデートを促す通知にようやく賛同した。

    (おわり)


    今回のエッセイは、たまごまるさん主催の「たまごまる杯」への応募用として書きました!

    たまごまるさん
    素敵な企画をありがとうございました!

     
     
    わたらいなちです | いつかジブリの主人公になれると信じてやまない20代会社員| 夢は作家 | 好きなものはおでんの卵 | 創作大賞エッセイ部門2026 中間選考通過

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