
【9月は接吻してってば】アマノ文筆クラブ
こちら💁の企画に参加させていただきます。よろしくお願いします。🙇♂️
*タイトル画像はGeminiにて作成しました。
ショートショート
〜9月は接吻してってば〜
九月の肌寒い朝、アキが27歳で突然この世を去ったという報せは、ごく一部の関係者だけに静かに広まった。
かつてジャズ界のキラ星として輝いた恋多き歌姫は、死因も場所も明かされないまま、短い生涯の幕を閉じた。
亡くなる前夜、アキが立っていたのは、京都先斗町の露地にひっそりと佇む小さなジャズバーだった。
そこには、かつての熱気あふれる大ステージの面影はなく、カウンターには数人の常連客がグラスを傾けていた。
気心が知れたバンドをバックに、大好きなスタンダードナンバーを一晩に数曲歌うのがアキの仕事だった。
その日の最後の曲はスタンダードナンバー『September in the Rain』。
ピアノが前奏のコードをさぐり始める中、彼女はマイクを引き寄せ、アキの魅力である、どこか少女のような澄んだ声で簡単に曲について語った。
「秋雨に打たれて落ちる葉っぱをみてると、まるで恋が冷めていく時のようにハラハラとこぼれ落ちるのです。どんなに抱きしめても、九月の雨はすべて洗い流してしまう……思い出も、接吻も。そんな美しくて、少し寂しい、でも再生の歌でもあると私は思うのです。私の大好きな歌、聴いてくださいね」
ピアニストが奏でる繊細なコードに乗せ、アキの可愛らしくも儚げな歌声がややスローテンポなバージョンで始まる。
The leaves of brown came tumbling down...
メロディを少し崩し、フェイクを入れながら、通り過ぎて行った恋たちを慈しむような歌唱に、客たちも思わずグラスを止め、その声に聴き入っていた。
最後のリフレインを歌い余韻を残して曲が終わる。
まばらな拍手が起きる中、アキはマイクへ顔を近づけると、いたずらっぽい表情で、誰に言うでもなく、冗談めかした軽やかなトーンで呟いた。
「9月って寂しいから。ねえ、お願い、9月は接吻してってば」
そう言ってアキは照れ臭そうに笑った。
それが、歌姫が残した最後の言葉となった。
了
甘野充さん、紹介していただきありがとうございます😊
MR.Qさん、マガジンに収録していただきありがとうございます😊