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支える側であり、当事者でもある――産業医としてこれから目指すこと【これからのキャリア】

    常勤の産業医として企業に関わるようになってから、自分の仕事をどう位置づけるか、考え続けてきました。従業員一人ひとりの健康を守ることは、産業医としての基本的な役割です。しかし、それだけでは言い尽くせない実感が、日々の仕事の中にあります。私は今後も、企業や従業員を後方から支えることで労働生産性を最大化し、企業価値の向上に繋がる取り組みを進めていきたいと考えています。

    支えることが、なぜ会社の力になるのか

    一人ひとりの体調を整えることは、結果としてその会社全体の力を底上げすることに繋がっています。

    体調が悪くても、休むほどではないからと出社を続ける人は少なくありません。この状態は「プレゼンティーイズム」と呼ばれ、本人の集中力や判断力が十分に機能しないまま働き続けることを指します。周りからは元気に見えても、実際のパフォーマンスは大きく落ちていることがあります。こうした不調を早く見つけ、必要な対応につなげることは、その人一人のためだけではありません。その人が関わるチーム全体の生産性を守ることでもあります。

    休職や離職が減れば、引き継ぎや採用にかかる負担も減ります。安心して長く働ける環境があれば、新しい挑戦に踏み出す余力も生まれます。こうした積み重ねが、会社が持続的に成長していく土台になります。産業医の仕事は、直接利益を生み出す仕事には見えないかもしれません。それでも、働く人が本来の実力を出しきれる状態を保つことは、企業価値を支える取り組みの一つだと考えています。

    常勤だからこそ、見えているもの

    外部から単発で関わる立場では見えない景色が、常勤だからこそ見えてきます。

    たとえば、変化を長い時間軸で捉えられることです。これは健康診断の数値に限った話ではありません。面談で語られる内容の傾向や、部署の雰囲気、相談の件数や中身の変化など、数字に表れにくいものも含まれます。それらを、その組織固有の「通常の状態」を基準にしながら、経年の推移として捉えることができます。一度きりの関わりでは、一般的な平均値や基準値との比較しかできません。

    また、会社の風土に応じた対応を検討できることも、常勤である強みです。同じ制度や仕組みであっても、それが実際にどう機能するかは、会社ごとの文化やこれまでの経緯によって変わります。常勤として関わり続けることで、その会社ならではの意思決定の進め方や、現場に受け入れられやすい伝え方が見えてきます。

    さらに、会社ごとのリズムに合わせて動けることも大きな利点です。人事評価や異動、繁忙期といった年間のサイクルを把握しているからこそ、対応のタイミングを見極められます。負担が集中しやすい時期には先回りして動き、落ち着いた時期には腰を据えた施策を進める。常勤という立場でなければ、こうした景色は見えてきません。

    社員の一人として、会社に貢献し続けたい

    産業医は、従業員の健康を専門的な立場から支える存在です。しかし、その関わり方は「外部から助言する人」だけではないと思っています。

    社員の一人として、会社の理念や事業の方向性を理解し、そこで働く人たちと同じ目線に立って考える。健康管理という専門分野を通じてではありますが、私自身も、その会社が目指す方向に向かって共に力を尽くしたいと思っています。

    支える側であると同時に、その会社に貢献し続ける社員の一人でもある。この両方の視点を持ち続けることが、産業医としての自分の役割だと考えています。

    これから、目指していきたいこと

    これからは、一人ひとりへの対応に加えて、組織そのものの設計にも関わっていきたいと思っています。起きにくい仕組みを、人事や経営と一緒につくっていく。健康診断のデータや面談で得た情報を、現場の言葉としてだけでなく、経営判断に活かせる言葉として届けていく。そうした関わり方を、少しずつ増やしていきたいと考えています。

    経営者や人事担当者とは、制度の運用について相談し合う関係にとどまらず、この会社をどんな組織にしていきたいかを共に描く関係を築いていきたいと思っています。従業員が心身ともに健やかで、のびのびと働ける状態が当たり前になっている会社。そこで働く一人ひとりが、自分の仕事に前向きに取り組める会社。そうした未来像を、経営や人事と同じ言葉で語り合えるようになることが、これから力を入れていきたいことの一つです。

    産業医が変われば、その会社で働く一人ひとりの力の発揮のされ方が変わります。一人ひとりの力の発揮のされ方が変われば、会社そのものの力も変わっていくはずです。その循環をつくる立場を、これからも担い続けたいと考えています。

    おわりに

    これからも、企業や従業員を後方から支える立場であり続けます。同時に、その会社で働く一人の人間として、共に会社を良くしていく側にも居続けたいと思っています。

    支えることと、当事者として関わり続けること。その両方を大切にしながら、労働生産性の最大化を通じて、企業価値の向上に貢献していきたいと考えています。


     
     
    産業医歴10年以上の経験をもとに、産業医の視点から健康や産業保健に関する情報をお届けするnoteです。一般の方から、人事・産業医・衛生管理者、経営層まで、幅広い読者に向けて発信していきます。取り上げてほしいテーマがあればお気軽にコメントください。

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