
『残されたメモ』ー祖母とスマホー
80歳になる祖母にスマホをプレゼントした。
「タカシちゃん、どうやって使うのよ?」
「大丈夫、少しずつ教えるし、使えるようになるから!」
きっかけは同居する両親のボヤキ。物忘れのある祖母は保険証を忘れて通院の際に困っていた。
新しいことで刺激になり少しは良くなればという、おせっかいからだった。
プレゼントした以上、通院時には付き添い、使い方を覚えてもらおうと思った。幸い都合を調整すれば何とかなりそうだった。
「ばあちゃん、スマホだけは忘れないでね!」
「はいはい。タカシちゃんにもらったんだもんねぇ!」
電話もマイナ保険証も何とか使えている。分からないときは病院や薬局のスタッフが親切に教えてくれた。
(だんだん、ばあちゃんも覚えてくれたんだね!)
と自己満足。調子に乗りLINEも教えることに。簡単な絵文字なら送れると思った。
大学の講義中に頻繁にスマホが揺れる。何かと思えば、祖母がLINEしてくる。
それも意味不明なスタンプや絵文字ばかり。家に着くなり、
「ばあちゃん、どうしたの?いっぱいLINE来たけど?」
「ああ、ごめんねタカシちゃん。えっちゃんに教えてもらってたから」
仲のいい近所のおばちゃんに教えてもらったらしい。
「でも、できたんだね!」
というと満面の笑顔で答えてくれた。
「えっちゃんにね、明日写真の撮り方教えてもらうの!」
「すごい、撮ったらLINEで送って!」
翌日、大学でまたまたスマホが頻繁に鳴る。見ると写真が何枚も届いていた。中には自撮りと思われるものも。
自分も昼休みに自撮りして祖母に送った。色々使いこなすうちに面白くなったみたいで、肌身離さず持つようになった。
しかも、いつのまにかオレオレ詐欺の撃退法もマスターしていた。
変なメールなんかに騙されないよう注意していたけど、取り越し苦労だったみたいだ。
スマホのおかげで、祖母の日常は劇的に変わった。例えば水泳を始めたり、友達との外出が増え表情も格段に明るくなった。自分でもできることが増えよほど嬉しかったのだろう。
祖母は事あるごとに電話やLINEをよこしてくれ、いつも励ましてくれた。スマホは祖母の良き相棒になった。
そして、祖母は90歳で静かに天寿を全うした。それまで新しい世界と繋がり続けていたのだから大したものである。
今でも忘れられない一枚がある。亡くなる数年前、社会人になり、仕事で落ち込んでいた時のことだ。ふとスマホが鳴り、
少し手ブレしたメモの写真が届いた。そこには、不器用だけど力強い文字でこう書かれていた。
【タカシちゃん、いつでも帰っておいで!】
文字を打つのは最後まで覚えられなかったけれど、メモを写真に撮って送るという力技は、いかにも祖母らしかった。
通夜も無事終わり静かになったホールの外で、来てくれた友人達を見送りながら、スマホに保存してあるその写真を眺め、祖母の笑顔を思い起こしていた。