
9月は接吻してってば|#アマノ文筆クラブ
お付き合いを始めたのだから、職場で毎日顔を合わせていたって互いの家を行き来してもいい。斉藤の家で休みの日を過ごしてくつろいだっていいし、ご飯を一緒に食べたっていい。
四ヶ月経ってようやく雅弥は、この家の玄関で靴を脱ぐときに緊張しなくなった。ソファに座るのは、まだ少しだけどきどきする。
落ち着かなくて時間を確認しようと部屋を回して、たまたま見たカレンダーの上の方に、でかでかと文字が書いてある。ここからでも読めるそれのことを、訊かずにはいられなかった。
「なにこれ」
「今月の目標」
「三ヶ月前にも書いてなかった?」
「違うって。よく見ろ」
油性ペン、だと思う。濃い黒で堂々と、【ちゅーしてもらう】ときたもんだ。子どもじゃないからはじめては三ヶ月前に済ませている。だからこそこの目標がよくわからない。
「しただろ、もう」
「したけど」
「三ヶ月も前に」
「あれは! 【ちゅーする】だっただろ!」
その差はなんだ。するとしてもらうは何が違う。そうか、行動の能動性か。こいつの家にあるカレンダーに書かれてるんだから、こいつがちゅーしてもらうことが今月の目標。
「……誰に?」
「お前以外に誰がいんの」
照れて口元を手で覆った顔に、しくじった、と書いてある。雅弥に見つかるつもりではなかったらしい。
「……へえ」
「……です」
そう、言われたとて。
初めてのときは、まだ夏に入っていなかった。梅雨が続いたうちの一日。この家で。思えばあれは、雅弥がされたちゅーだ。あのときはカレンダーに書かれた目標の文字だけで恥ずかしくて、追求できなかった。
「え、したいの」
「まあ、そりゃ」
ソファの隣が沈む。
「したいよ」
甘えるような視線。そっか、したいのか。考えて考えて、いいよ、と目を閉じる。ぐ、と斉藤の喉が鳴ったのが聞こえた。
「あのさ」
「……なに」
「とってもかわいいご尊顔を見せていただいてるとこ悪いんだけど」
薄目を開けると、困ったように笑う斉藤と目が合った。
「9月は接吻、してってば」
アマノ文筆クラブさんのお題お借りしました。
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