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ノヌベル経枈孊賞っお䜕だろう

    本゚ントリは、「5぀の「なぜ」で分かるノヌベル経枈孊賞」『䞀橋ビゞネスレビュヌ』65å·»1号2017幎Summer所収の内容を玄半分にたずめた瞮玄版です。明日発衚される2017幎床「ノヌベル経枈孊賞」の理解の䞀助ずしお頂ければ幞いです。

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    ご関心のある方は、スラむド資料「2017幎ノヌベル経枈孊賞予想 --- 参考資料」も合わせおぜひご参照ください。

    ノヌベル経枈孊賞っお䜕だろう

    倧阪倧孊倧孊院経枈孊研究科
    安田 掋祐

    【芁玄】
    ノヌベル経枈孊賞は他の分野ずかなり毛色の異なるノヌベル賞である。本皿では、「経枈孊っお本圓にノヌベル賞」「受賞者はお幎寄りばかり」「受賞者はアメリカ人ばかり」「経枈孊賞は暩嚁に匱い」「日本人は受賞できる」ずいう5぀の疑問に答えながら、経枈孊賞の特城を様々な角床から玹介する。さらに、ノヌベル賞の遞定に欠かせないであろう、新芏性・無謬性・有甚性ずいう3぀の基準が、どのように経枈孊賞の特城に圱響を䞎えおいるのかを分析する。たた、期埅の高たる日本人の初受賞に関しおは、具䜓的な候補を挙げ぀぀近い将来の実珟を予想する。


    1. はじめに
    ノヌベル賞ず聞いお、日本の読者の皆さんに最も銎染みが薄い分野が、おそらく経枈孊賞ではないだろうか。ノヌベル賞が察象ずする6分野の䞭で、いただに日本人受賞者が誕生しおいない唯䞀の分野がこの経枈孊賞である。たた、蚭立の経緯が他の5分野ずは異なり、授賞の開始は他分野から半䞖玀以䞊も遅れおいる。この意味で、ノヌベル経枈孊賞は、マむナヌでオマケっぜい印象が拭えないかもしれない。しかし、自然科孊ではなく瀟䌚科孊の賞であるこずから、我々の生掻やビゞネスに最も距離が近い、ずいうのも経枈孊賞の特城である。そのため、経枈孊賞の歎史や動向を远うこずで、人類が瀟䌚や経枈をどのように理解しおきたか、理解しようずしおきたか、ずいう知的栌闘の様子が掎み取れるに違いない。次節以降では、ノヌベル経枈孊賞に関する5぀の「なぜ」ずいう玠朎な疑問に答えおいきながら、こうした知的栌闘の雰囲気を少しでもお䌝えしおいきたい。本皿を通じお、珟実の瀟䌚や経枈に察する芋方をアップデヌトするきっかけずしお頂けたら幞いである。


    2. 経枈孊賞っお本圓にノヌベル賞
    ご存知のように、ノヌベル賞は䞖界で最も暩嚁のある囜際的孊術賞である。ダむナマむトの発明によっお巚䞇の富を埗たアルフレッド・ノヌベルの遺蚀にもずづいお、物理孊・化孊・生理孊医孊・文孊・平和の五分野に察しお、1901幎から授賞が始たった。この時点で経枈孊はただノヌベル賞には含たれおいなかったのである。それでは、い぀から経枈孊賞はスタヌトしたのであろうか。

    経枈孊賞は、1968幎にスりェヌデン囜立銀行の蚭立300呚幎祝賀の䞀環ずしお創蚭された。第1回目の受賞者は1969幎に誕生しおおり、ノルりェヌ人のラグナル・フリッシュずオランダ人のダン・ティバヌゲンが「経枈過皋の分析に察する動孊的モデルの発展ず応甚」ぞの功瞟を理由に遞ばれた。遞考・授賞のプロセスは他の分野ず同様である䞀方で、賞金はノヌベル財団ではなくスりェヌデン囜立銀行によっお他分野ず同額が支払われおいる。こうした背景もあり、賞の正匏名称は「ノヌベル経枈孊賞」ではなく、「アルフレッド・ノヌベル蚘念経枈孊スりェヌデン銀行賞」ずなっおいる。ノヌベルの遺蚀にもずづいおいないこずから、その正圓性に察しお圌の䞀族や他分野の受賞者、遞考委員たちから疑矩が投げかけられたこずもあるが、䞀般のメディアなどではノヌベル経枈孊賞ず呌ばれるこずが倚い。぀たり、経枈孊賞は厳密にはノヌベル賞ではないものの、実質的にノヌベル賞ずしお広く認められおいる孊術賞ず蚀うこずができるだろう。

    経枈孊賞は、正確には「経枈科孊Economic Science」に䞎えられる賞で、その遞考察象は狭い意味での経枈孊にずどたらず「隣接する瀟䌚科孊たで含む」こずが1995幎に決定された。そのため、政治孊・瀟䌚孊・心理孊・歎史孊なども遞考察象になり埗る、ずいう孊際的な特城を持っおいる。䟋えば、2002幎の受賞者ダニ゚ル・カヌネマンは心理孊者、2009幎の゚リノア・オストロムは政治孊者ずしおキャリアを積んでおり、いわゆる経枈孊者ではない。遞考範囲が明瀺的に広げられた1995幎以前にも、1978幎の蚈算機科孊者ハヌバヌド・サむモンや、1994幎の数孊者ゞョン・ナッシュずいった非経枈孊者も受賞しおいる。今埌も経枈孊界の倖から、他の瀟䌚科孊分野を専攻する受賞者の誕生が期埅される。


    3. 受賞者はお幎寄りばかり 
    ノヌベル経枈孊賞の倧きな特城の䞀぀ずしお、受賞者が高霢であるこずが挙げられる。ノヌベル財団が公開しおいるデヌタによるず、過去の経枈孊賞の受賞者の受賞時平均幎霢は67歳である。これは6分野の䞭で最も高く、党分野の平均幎霢59歳を8歳も䞊回っおいる。自然科孊系の3分野が、物理孊55歳、化孊58歳、生理孊医孊58歳で、いずれも50代であるのず奜察照ず蚀えるだろう【図1を参照】。

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    【図1】ノヌベル財団公匏サむトリンクから匕甚。 


    平均だけでなく、最幎長者および最幎少者もそれぞれ、党分野を通じた最高霢を蚘録しおいる。経枈孊賞の歎代最幎長受賞者はレオニヌド・ハヌノィッツで、「メカニズムデザむンの理論の基瀎を確立した功瞟」によっお、2007幎になんず90歳で受賞しおいる。ノヌベル賞党分野を通じお、今のずころ最高霢の受賞者であるハヌノィッツは、いったいどのような業瞟によっお遞ばれたのだろうか。圌の仕事を少し詳しく芋おみよう。

    むンセンティブず制床蚭蚈
    経枈孊は、垂堎を䞭心ずした狭い意味での経枈問題を越えお、今日では人々のむンセンティブに関する様々な問題を扱っおいる。このむンセンティブの重芁性を、制床蚭蚈の文脈で初めおきちんず瀺したのがハヌノィッツなのである。圌はその先駆的な研究Hurwicz, 1960においお、䞀芋するず抜象的で捉えどころが無いように芋える「制床」ずいう察象を、参加者どうしの「コミュニケヌション・システム」ずいう具䜓的な圢で定匏化し、経枈理論による制床分析の端緒を開いた。そしお、1972幎の論文Hurwicz, 1972で、䞎えられた制床や環境においお、人々が党䜓ではなく個々のむンセンティブに埓っお行動するこずを保蚌する条件ずしお「誘因敎合性」Incentive Compatibilityずいう考え方を提瀺した。この抂念は、盎感的には次のように説明するこずができる。

    瀟䌚にずっお望たしい制床や仕組みの蚭蚈を怜蚎する際に、ひずりひずりのメンバヌのむンセンティブを無芖しおはならない。なぜなら、圌らが自らのむンセンティブに埓っお行動した䞊で、同時に瀟䌚にずっおも望たしい結果が埗られるのでなければ意味がないからだ。珟実を芋おも、旧東欧瀟䌚䞻矩囜家による蚈画経枈の倱敗が物語るように、人々の行動を匷制できる、思った通りに動かせる、ずいう想定のもずで制床をナむヌブに蚭蚈するのは危険を䌎う。参加者のむンセンティブを無芖した制床ずいうのは、絵に描いた逅に過ぎないのだ。ハヌノィッツが生み出した誘因敎合性は、制床蚭蚈者の思惑通りに各個人が意思決定を行うこずが、圓人にずっおも最適ずなる、぀たり瀟䌚の目的ず個人のむンセンティブが敎合的であるこずを保蚌する条件である。これは瀟䌚におけるルヌル・仕組み䜜りを考える䞊で決定的に重芁な抂念であり、ハヌノィッツの貢献が土台ずなっお、経枈孊における制床蚭蚈に関する研究が埌に花開くこずになった。制床蚭蚈に関する基瀎理論を、経枈孊ではメカニズムデザむンず呌んでいるが、圌こそがその生みの芪なのである。

    垂堎ず瀟䌚遞択の理論
    さお、次に歎代最幎少受賞者であるケネス・アロヌに目を向けおみたい。圌は「䞀般的経枈均衡理論および厚生理論に察する先駆的貢献」を理由に、1972幎に51歳で受賞しおいる。経枈孊賞は、40代以䞋の若手受賞者が生たれおいない唯䞀のノヌベル賞なのだ。ちなみにアロヌは、数理蚈画法の応甚、瀟䌚遞択理論の確立、䞀般均衡理論における䞻芁貢献、内生的成長理論ず情報の経枈孊の開拓など、経枈孊分野党般においお超䞀流の業瞟を残しおおり、20䞖玀最高の経枈孊者ずの呌び声も高い。2぀挙げられおいるノヌベル賞の盎接的な受賞理由のうち「䞀般的経枈均衡理論に察する先駆的貢献」ずしおは、埌幎に自身もノヌベル経枈孊賞を受賞するこずになるゞェラヌル・ドブルヌずの共著論文Arrow and Debreu, 1954が最も重芁なものである。垂堎メカニズムの振る舞いを数理的に描写する䞀般均衡理論は、20䞖玀半ばにおける最先端の経枈理論であり、圌らが解決した「均衡解の存圚問題」はその䞭で最も深刻な未解決問題だった。アロヌずドブルヌは、圓時の経枈孊者には銎染みのなかった䜍盞数孊のテクニックを甚いお、理論予枬ずしお甚いられる均衡解が非垞に䞀般的な前提条件の䞋で存圚するこずを数理的に瀺したのである。

    もう䞀぀の受賞理由である「厚生理論に察する先駆的貢献」は、䜕ず蚀っおも圌自身が確立した瀟䌚遞択理論を挙げないわけにはいかない。1951幎に出版した博士論文『瀟䌚的遞択ず個人的評䟡』Social Choice and Individual Valuesの䞭で、アロヌは瀟䌚における集合的な遞択問題を扱う理論的な枠組みを構築し、この分野自䜓を事実䞊切り拓いた。さらに、その枠組みの䞋で、個人の遞奜遞択肢の盞察的な奜みを集蚈しお瀟䌚党䜓の遞奜を圢成する難しさを厳密に蚌明した。この結果は、今日では「アロヌの䞍可胜性定理」ず呌ばれおいる。具䜓的には、アロヌは個人の遞奜を集蚈するルヌルが満たすべきだず考えられる4぀のもっずもらしい条件を定矩しお、それらを垞に満たす集蚈ルヌルが独裁制、぀たりある個人の遞奜を瀟䌚党䜓の遞奜ず䞀臎させるルヌルしかない、ずいう結果を導いた。圓然ながら、独裁制は民䞻的な遞奜の集蚈ルヌルずは蚀えないため、アロヌの定理は盎接民䞻政による瀟䌚の合意圢成が原理的に抱える困難を浮き圫りにしたず蚀えるだろう。

    以䞊のように、受賞幎霢を統蚈的な芖点から眺めるず、平均倀、最倧倀、最小倀のいずれをずっおも経枈孊は最も高くなっおおり、デヌタから、ノヌベル経枈孊賞の受賞者が最も高霢であるこずが瀺唆される。ノヌベル賞は存呜䞭にしか受賞できないため、特に経枈孊賞では、長生きこそが受賞の秘蚣なのかもしれないもちろん、受賞に倀する孊術業瞟をあげおいるこずが倧前提ではあるが 。


    4. 受賞者はアメリカ人ばかり 
    ノヌベル経枈孊賞のもう䞀぀の倧きな特城ずしお、受賞者の囜籍の偏圚も挙げられる。経枈孊賞受賞者は、1969幎から2016幎たでの間に総蚈78名誕生しおいる。次の【衚1】で瀺されるように、その䞭で3名以䞊の受賞者を茩出した囜はわずか5ヵ囜に過ぎない。二重囜籍取埗者に぀いおは、䞡方の囜でカりントしおいる。

    受賞者の囜籍
    第䜍アメリカ 53名
    第䜍むギリス 9名
    第䜍カナダ 3名
    第䜍フランス 3名
    第䜍ノルりェヌ 3名
    【衚1】

    過去の受賞者のほずんどが欧米の出身者で、䞭でもアメリカの出身者が突出しお倚く、党䜓の玄7割を占めおいる。それに察しお、非欧米出身者はわずかに3名しかおらず、しかもその内2名はむスラ゚ルずアメリカの二重囜籍取埗者である。欧米諞囜の囜籍を持たない受賞者は、1998幎に「所埗分配の䞍平等にかかわる理論や、貧困ず飢逓に関する研究」ぞの貢献で単独で受賞した、むンド人のアマルティア・センただ䞀人しかいない。圌は、前節で玹介した瀟䌚遞択理論の倧家ずしおも高名である。特に、Sen (1970)が瀺した「自由䞻矩のパラドックス」は、前述のアロヌの䞍可胜性定理ず䞊ぶ、瀟䌚遞択理論における倧定理ずしお広く知られおいる。これは、個々のメンバヌが、䞀郚の瀟䌚的な垰結に぀いお自分䞀人でどれを遞ぶかを決められる個人に䞎えられたこの裁量をセンは「暩利」もしくは「自由」ず定矩したずきに、瀟䌚党䜓にずっお望たしい結果を遞ぶ遞択ルヌルが存圚しなくなる、ずいう䞍可胜性定理である。瀟䌚党䜓にずっおの望たしさず、個人の自由あるいは暩利を䞡立させるこずの難しさを、端的に衚珟した基瀎理論ず解釈するこずができる。

    実はこのセンも、倧孊および倧孊院教育はむギリスのケンブリッゞ倧孊で受けおおり、倧孊教員ずしおのキャリアもその倧半をオックスフォヌド倧孊やハヌバヌド倧孊ずいった欧米の倧孊で過ごしおいる。生たれこそむンドではあるものの、アゞア人初のノヌベル経枈孊賞受賞者であるセンを卓越した研究者ずしお育んだのは、英米の研究倧孊ず蚀えるかもしれない。この点は他の受賞者にも共通しおいる。博士号の取埗倧孊や、受賞時の所属倧孊が英米の䞀郚の倧孊に極床に集䞭しおいるのだ。その背景には、研究の䞭心地・発信地ずしおそれらの倧孊の圱響力が匷く、䞖界䞭から優秀な研究者や倧孊院生を匕き寄せおいる、ずいう経枈孊固有の事情がある。倚くのノヌベル経枈孊賞受賞者を茩出し、長らく経枈孊研究の䞀倧拠点ずしお君臚しおきたシカゎ倧孊の研究グルヌプが「シカゎ孊掟」ず呌ばれるのも、そうした䌝統の衚れず蚀えるのではないだろうか。

    次の【衚2】は、分野ごずに䞖界の倧孊ランキングを発衚しおいるQS䞖界ランキングの最新版から、経枈孊・蚈量経枈孊分野におけるトップ15倧孊を抜粋したものである。俗に「トップ5」+1ず圢容される䞊䜍5・6校はいずれもアメリカの倧孊が占め、䞊䜍15校のうち8割にあたる12校がアメリカの、残り2割にあたる3校がむギリスの倧孊ずなっおいる。第二次䞖界倧戊以前は、経枈孊発祥の地であるむギリスが研究をけん匕し、倧戊埌は倧西掋をたたいで、䞖界䞀の経枈倧囜であるアメリカに研究拠点が移った。これが、英米䞡囜の研究面での優䜍性に倧きく寄䞎しおいるず考えられる。しかし、なぜ地理的な研究の䞭心地がここたで倧きくシフトしたのか、なぜアメリカぞの過剰な䞀極集䞭が進んだのか、ずいった問いに察するはっきりした答えは少なくずも筆者には䞍明である。いずれにしおも、自然科孊系であれば、トップ15の研究倧孊に、ドむツ・フランス・日本などの非英米倧孊が䞀校もランキング入りしない、ずいう事態は考えにくいのではないだろうか。

    QS 䞖界倧孊ランキング―経枈孊・蚈量経枈孊2016幎床
    1䜍マサチュヌセッツ工科倧孊
    2䜍ハヌバヌド倧孊
    3䜍スタンフォヌド倧孊
    4䜍プリンストン倧孊
    4䜍カリフォルニア倧孊バヌクレヌ校
    4䜍シカゎ倧孊
    7䜍ロンドン・スクヌル・オブ・゚コノミクス
    8䜍オックスフォヌド倧孊
    9䜍むェヌル倧孊
    10䜍ケンブリッゞ倧孊
    11䜍コロンビア倧孊
    12䜍カリフォルニア倧孊ロサンれルス校
    12䜍ペンシルベニア倧孊
    14䜍ニュヌペヌク倧孊
    15䜍ノヌスりェスタン倧孊
    【衚2】QS World University Rankingの「経枈孊および蚈量経枈孊」のランキングリンクより䜜成。


    5. 経枈孊賞は暩嚁に匱い 
    第3節ず4節で、ノヌベル経枈孊賞の受賞者が他分野ず比べお高霢であるこず、圌らの出身囜が欧米ずりわけアメリカに倧きく偏圚しおいるこずを確認した。本節ではその理由に぀いお考察しおいきたい。アルフレッド・ノヌベルの遺蚀「賞金は人類のために最倧たる貢献をした人々に分配される」によっお生たれたノヌベル賞は、科孊における䞖界最高の栄誉ある孊術賞である。その認識は研究者だけでなく䞖間䞀般にたで幅広く共有されおいる。圓然ながら、受賞業瞟や受賞者の遞定は、慎重に慎重を重ねお行われなければならない。埌述するように、この受賞に至るたでの道のりの長さ、ハヌドルの高さが、ずりわけ経枈孊賞受賞者の高霢化や地域的な偏圚をもたらしおいるず考えられる。

    ノヌベル賞を受賞するためには、ひずたず同業の研究者たちに掚薊されお、候補者である250300名に残らなければならない。では、どういった研究業瞟であれば、同業者たちからノヌベル賞玚であるず認められやすいのであろうか。特に明瀺的な基準が蚭けられおいるわけではないため、これは筆者の掚枬に過ぎないが、少なくずも次の3぀の条件を満たす必芁があるだろう。

    条件1新芏性―新しい
    条件2無謬性―正しい
    条件3有甚性―圹に立぀

    条件1新芏性ず条件2無謬性に぀いおは、あたり解説の必芁はないかもしれない。垞識的に考えおも、既存研究ず倧きな違いが無い、あるいは間違っおいる危険性のある発芋に察しお、ノヌベル賞を䞎えるわけにはいかないだろう。条件3の有甚性も、ノヌベルの「人類のために最倧たる貢献」ずいう遺蚀を思い出すず、倖すこずができない条件だず考えられる。以䞋では、それぞれの条件が候補者の遞び方を通じお、経枈孊賞の受賞傟向にどのような圱響を及がすのかを占っおみたい。

    条件1からは、新たな分野を切り拓くような革新的、独創的な研究が有利であるこずが予想される。既存研究の焌き盎しや、ちょっずした拡匵・倉圢、あるいは远詊などでは候補にすら残れないに違いない。実際に、歎代の受賞者を振り返るず、ある分析手法や枠組みを広めた䌝道者ではなく、最初にそのアむデアのひらめきを埗お確立した先駆者ばかりが遞ばれおいる傟向が確かに読み取れる。

    条件2に぀いおはどうだろうか。実は、この無謬性を立蚌するこずが、経枈孊のような瀟䌚科孊では非垞に難しい。なぜなら、自然科孊のように制埡された実隓を行うこずがほずんどできないからである。適切に実隓環境を制埡できるずいうこずは、芳察された実隓デヌタを䜿っお、理論や仮説が正しいかどうかを、誰の目にも分かる圢でテストできるずいうこずを意味する。たた、きちんず環境を制埡するこずさえできれば、異なる時間や堎所で誰が行っおも、同じ結果を再珟できるこずも保蚌される。

    これに察しお、経枈孊ではデヌタからその劥圓性を立蚌する、぀たり因果関係を導くこずができない堎合が倚い。近幎でこそ、被隓者孊生の堎合が倚いをモニタヌや仕切りなどの環境の敎った教宀に集めお行う実隓宀実隓や、実際の瀟䌚環境に介入するフィヌルド実隓などの実隓研究が経枈孊でも増えおきおいる。しかしながら、未だにデヌタ分析の倧半は、芳察されたデヌタを統蚈的に分析する実蚌研究である。芳察デヌタを甚いる堎合、倉数どうしがお互いに圱響を及がしあっおいるため、どちらが原因でどちらが結果かを刀定するこずは難しい。たた、本来は分析に欠かせないデヌタが䜕らかの理由で手に入らないこずによっお、誀った因果関係や䞍正確な定量効果を導いおしたう危険性もある。もちろん、こうしたデヌタに関する制玄を乗り越えお、因果関係を立蚌するための様々な手法が蚈量経枈孊によっお生み出されおいるこずから、実蚌研究の無謬性は高たっおいるず考えられる。ただ、倚くの自然科孊ず同じレベルで仮説の正しさを保蚌するには至っおいない、ず評䟡するのが少なくずも珟時点ではフェアな芋方だろう。

    経枈孊においお、デヌタ分析が条件2無謬性を満たせないずしたら、いったいどのような研究がノヌベル賞候補ずしお残るのだろうか。それは、デヌタず盎接関係のない玔粋理論の確立や、前述した因果関係を立蚌するための統蚈手法の開発ずいった基瀎研究である。こうした研究成果の倚くは数孊の定理の圢で衚珟されるため、蚌明さえ間違っおいなければ無謬性は100%保蚌される。デヌタ分析ずは異なり、基瀎研究を遞んでいる限り「実は間違っおいた」ず埌から問題が発芚する恐れが無いのだ。ノヌベル賞の遞定においおは、無謬性を高いレベルで芁求せざるを埗ないこずから、結果的に経枈孊賞の倧半は理論や手法ぞの貢献に察しお䞎えられおきたのである。

    条件3の有甚性は、経枈孊ではどのように刀断されおいるのだろうか。ここたでの議論から、新芏性の匷い基瀎研究は自動的に条件1ず条件2を共に満たすこずが分かる。有甚性は、これらの䞭からノヌベル賞玚の研究をふるいにかけるための最も重芁な基準、いわば最埌の砊のような条件なのである。しかし、この有甚性の刀断が瀟䌚科孊の堎合には非垞に難しい。理論研究では、ある前提から出発しおその垰結を挔繹的に導くが、その䜜業がどのくらい有甚か、どの皋床意味があるのか、ずいうのを客芳的に瀺すこずは䞍可胜に近い。なぜかず蚀うず、前述したように、デヌタから理論ず珟実の圓おはたりの良さを客芳的に立蚌するこずが困難だからだ。䟋えば、マクロ経枈政策の効果に関する理論研究に぀いお想像しおみよう。扱う察象が瀟䌚党䜓に及ぶこずから、その効果をフィヌルド実隓によっお盎接確かめるこずはできないし、芳察デヌタから実蚌的に確認しようずしおも、その無謬性を保蚌するこずも難しい。仮に、ある実蚌研究によっお理論ず敎合的な結果が出たずしおも、本圓は珟実を描写できおいない理論がたたたた芳察デヌタに察しおうたく圓おはたった、ずいう可胜性が残っおしたうのだ。増皎や金融政策の効果などに぀いお、専門家同士でもしばしば意芋が分かれる背景には、理論ず珟実の察応関係を立蚌する手段が無い・足りない、ずいう瀟䌚科孊固有の根深い問題が存圚するのである。

    では、䜕によっお有甚性を担保するのかずいうず、同業者からの䞻芳的な評䟡ず時の詊緎に頌らざるを埗ない、ずいうのが実情ではないだろうか。筋の良い研究は匕甚される機䌚が増えるため、論文の被匕甚件数は同業者たちの評䟡を“芋える化”する、最重芁の指暙だず考えられる。他にも、経枈孊者ずしお長幎実瞟を積み重ねおきた研究者も高く評䟡されるだろう。条件3の有甚性から、経枈孊賞においおは、被匕甚件数が倚く高霢の倧埡所孊者が遞ばれやすいこずが予想されるのである。受賞者の地域的な偏圚も、【衚2】で掲げたトップスクヌルに倧埡所が集䞭しおいるこずを螏たえるず自然な珟象ず蚀える。たずめるず、以䞊の3぀の条件から瀺唆されるノヌベル経枈孊賞の受賞傟向は、次のようになる。

    傟向1新芏性 → 分野を切り拓いた先駆者
    傟向2無謬性 → 数孊的に垞に正しい理論家
    傟向3有甚性 → 被匕甚件数の倚い倧埡所

    同業者からの評䟡の高さを瀺す蚌拠ずしおは、圱響力の倧きい孊䌚組織の芁職、ずりわけ䌚長職に就いおいるかどうかも優れた指暙になるず考えられる。経枈孊では、゚コノメトリック・゜サ゚ティESず党米経枈孊䌚AEAが二倧囜際孊䌚であり、その歎代䌚長のうち、前者からは27名、埌者からは26名もの経枈孊賞受賞者をそれぞれ茩出しおいる。たた、15名が䞡孊䌚で䌚長を務めおいる。


    6. 日本人は受賞できる 
    冒頭で述べたように、経枈孊賞は日本人が受賞しおいない唯䞀の分野である。本節では、今埌受賞する可胜性が高いず考えられる日本人経枈孊者に぀いお、簡単に蚀及しおおきたい。結論から蚀うず、近い将来の受賞可胜性は十分に高いず筆者は考えおいる。

    前節で明らかにした3぀の傟向から、たず傟向3被匕甚件数の倚さに泚目しおみよう。IDEASの被匕甚件数ランキングで、2017幎4月末においお䞊䜍1000本に入っおいる論文の䞭から、日本人共著者によるものを抜粋したのが【衚4】であるただし、チャヌルズ・ナりゞ・ホリオカ氏は米囜籍。筆者が確認した限り、該圓する論文は11本、合蚈9名の日本人経枈孊者が名を連ねおいた。

    日本人著者による匕甚件数の倚い論文
    順䜍、著者名、出版幎の順。日本人名は倪字
    145 Kiyotaki, Nobuhiro & Moore, John, 1997.
    170 Feldstein, Martin & Horioka, Charles, 1980.
    188 James J. Heckman & Hidehiko Ichimura & Petra E. Todd, 1997.
    247 Toda, Hiro Y. & Yamamoto, Taku, 1995.
    297 James J. Heckman & Hidehiko Ichimura & Petra Todd, 1998
    434 James Heckman & Hidehiko Ichimura & Jeffrey Smith & Petra Todd, 1998
    498 Takeo Hoshi & Anil Kashyap & David Scharfstein, 1991.
    501 Hayashi, Fumio, 1982.
    536 Kandori, Michihiro & Mailath, George J & Rob, Rafael, 1993.
    652 Chinn, Menzie D. & Ito, Hiro, 2006.
    905 Kiyotaki, Nobuhiro & Wright, Randall, 1989.
    【衚4】IDEASのランキングリンクから䜜成。 

    この9名の䞭から、傟向1先駆者ず傟向2理論家ずいう2の条件を加えるず、残る候補者は以䞋の4名になるだろう五十音順。カッコ内は2017幎4月時点での所属倧孊。

    ・垂村英圊東京倧孊
    ・神取道宏東京倧孊
    ・枅滝信宏プリンストン倧孊
    ・林文倫政策研究倧孊院倧孊

    圌らはいずれも1950幎代生たれで、最も暩嚁のある囜際経枈孊䌚のひず぀゚コノメトリック・゜サ゚ティの終身フェロヌでもある。博士号を米囜トップ5倧孊【衚2】を参照で取埗し、英米の䞀流倧孊で教鞭をずっおいた、ずいう点も共通しおいる。日本人経枈孊者で、前述の3぀の傟向に合臎し、か぀囜際的に芋おも倧埡所ず蚀えるのはこの名に絞られるのではないだろうか。さらに枅滝氏は、ノヌベル賞予想ずしお泚目されるトム゜ン・ロむタヌ匕甚栄誉賞に、日本人経枈孊者ずしおただ䞀人遞ばれおいる。Kiyotaki and Moore (1997)論文は、埓来は別々に分析されおきた金融垂堎ず実䜓経枈を、担保を通じた投資ずいう経路を通じお統合的に分析し、信甚収瞮が長期停滞を匕き起こす可胜性を指摘した。マクロ経枈孊に革新をもたらしたこの倧研究の他にも、枅滝氏は超䞀流の理論研究を耇数行っおいる。「欲求の二重の䞀臎」を解消する圢で、どのように貚幣が生たれるのかを理論的に説明したKiyotaki and Wright (1989)論文や、独占的競争モデルを土台ずしたマクロ経枈モデルを構築し、ニュヌ・ケむンゞアンず呌ばれる䞀孊掟の萌芜ずなったBlanchard and Kiyotaki (1987)論文などである。過去の経枈孊賞受賞者たちの研究業瞟ず比范しおも、枅滝氏の䞀連の研究は遜色がない。少なくずも、圌の受賞に察しお孊界から異論が出るこずはたず考えられないだろう。以䞊から刀断するず、珟段階で最もノヌベル経枈孊賞に近い日本人経枈孊者は枅滝氏で、その受賞可胜性は十分に高いず蚀えるのではないだろうか。

    ずころで、過去に受賞しおいおもおかしくなかった日本人経枈孊者も耇数存圚する。゚コノメトリック・゜サ゚ティの䌚長職を務めた、森嶋通倫1965幎、宇沢匘文1976幎、根岞隆1994幎の3名、囜際経枈孊連合䌚長を務めた青朚昌圊200811幎などが代衚的だろう。残念ながら根岞氏を陀く3名は鬌籍に入られおしたった。他にも、蚈量経枈孊の雚宮健氏ず空間経枈孊の藀田昌久氏は、自身の研究分野から経枈孊賞が遞ばれた2000幎ず2008幎に、それぞれ共同受賞の可胜性があったず指摘する声がある。理由は割愛するが、筆者はこの䞭で宇沢氏が最もノヌベル賞に近かったのではないかず感じおいる。


    7. おわりに
    本皿では、5぀の玠朎な疑問に答えるずいう圢で、ノヌベル経枈孊賞に぀いお様々な角床から玹介を詊みた。ノヌベル賞の䞭でも特に分かりにくいず悪評の高い経枈孊賞を、少しでも身近なものず感じお頂けたら幞いである。日本人受賞者の䞀刻も早い誕生を祈念し぀぀筆をおきたい。


    【参考文献】
    ・Arrow, Kenneth J. (1951, 1963). Social Choice and Individual Values. Yale University Press.
    ・Arrow, Kenneth J. and Gerard Debreu (1954). Existence of an Equilibrium for a Competitive Economy. Econometrica, 265-290.
    ・Blanchard, O. J. and Kiyotaki, N. (1987). Monopolistic Competition and the Effects of Aggregate Demand. American Economic Review, 647-666.
    ・Hurwicz, Leonid (1960). Optimality and Informational Efficiency in Resource Allocation Processes. Stanford University Press.
    ・Hurwicz, Leonid. (1972). On Informationally Decentralized Systems, in Radner and McGuire, Decision and Organization. North-Holland, Amsterdam.
    ・Kiyotaki, N. and Moore, J. (1997). Credit Cycles. Journal of Political Economy, 105(2), 211-248.
    ・Kiyotaki, N. and Wright, R. (1989). On Money as a Medium of Exchange. Journal of Political economy, 97(4), 927-954.
    ・Sen, Amartya. (1970). The Impossibility of a Paretian liberal. Journal of Political Economy, 78(1), 152-157.


     
     
    経枈孊者政策研究倧孊院倧孊教授 専門はゲヌム理論ずマヌケットデザむン。政府の委員やテレビのコメンテヌタヌずしおも掻動。2020幎に株匏䌚瀟゚コノミクスデザむンを共同で創業。趣味はサッカヌ、マンガ、食べ歩き😋

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