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Photo bytarohanamana

恋愛小説 第3話 まだ、名前も知らない。

    それから、紬と話すことが少しずつ増えていった。

     講義が始まる前に「おはよう」と言う。

     課題が出れば、「もうやった?」と聞く。

     昼休みに会えば、少しだけ話す。

     それだけだった。

     連絡先を交換したわけでもない。

     二人で遊びに行ったこともない。

     大学で会えば話す。

     会わなければ、それまで。

     そんな関係だった。

     ある日の講義終わり。

    「高橋くん、今日このあと暇?」

     紬が鞄を持ちながら聞いてきた。

    「ん? まあ、暇だけど」

    「じゃあ、ちょっと付き合ってほしい」

    「どこに?」

    「学食」

    「今から?」

    「うん」

     講義が終わったのは、まだ昼前だった。

    「いいよ」

     二人で学食へ向かった。

     昼休みには少し早い時間だったから、席はまだ空いていた。

     僕たちは窓際の席に座った。

    「高橋くんって、一人暮らしだっけ?」

    「そうだけど」

    「やっぱり」

    「なんで?」

    「なんとなく」

    「どういう意味?」

    「うーん……」

     紬は少し考えて、

    「落ち着いてるから?」

    「一人暮らし関係ある?」

    「ないかも」

    「ないんかい」

     紬が笑う。

     こうして話していると、本当によく笑う。

     普段、教室ではそんなに目立つ方ではない。

     友達といても、いつも中心にいるわけじゃない。

     でも二人でいると、意外と話が続く。

    「紬は?」

    「私?」

    「一人暮らし?」

    「実家」

    「いいな」

    「でも、一人暮らしちょっと憧れる」

    「やめた方がいいよ」

    「なんで?」

    「ご飯が面倒」

    「それだけ?」

    「洗濯も面倒」

    「それも?」

    「掃除も」

    「……それ、生活全部じゃん」

    「そうなんだよ」

     紬は笑いながら、

    「じゃあ私には無理かも」

     と言った。

     昼食を食べ終わって、僕たちは教室に戻った。

     その日は、それだけだった。

     でも、帰り道。

     いつもならそのまま家に帰るところを、なぜかコンビニに寄った。

     弁当を選びながら、昼間の会話を思い出していた。

     紬が笑っていた顔。

     くだらない話。

     たったそれだけのことなのに、少しだけ気分が良かった。

     家に帰って、夕飯を食べる。

     風呂に入る。

     ベッドに寝転がる。

     時計を見ると、午後十一時を過ぎていた。

     スマホを触る。

     SNSを見る。

     動画を見る。

     眠くならない。

     午前0時を少し過ぎた頃だった。

     スマホが震えた。

     画面を見る。

     大学のグループLINEだった。

     講義の課題について、誰かが質問している。

     僕も少しだけ内容を確認した。

     すると、個人の通知が一つ届いた。

     知らない名前だった。

     開いてみる。

    『高橋くん?』

     誰だろうと思った。

     プロフィール写真を見る。

     見覚えのある顔だった。

    『うん』

     すぐに返信する。

    『よかった』

    『どうした?』

     既読がつく。

     少しして、

    『課題のことで聞きたいことあって』

     と返ってきた。

    『どの課題?』

    『今日のやつ』

    『ああ』

    『あれって、明日までだよね?』

    『たぶん』

    『またたぶんじゃん笑』

     思わず笑った。

    『今度はたぶんじゃないよ』

    『ほんと?』

    『ほんと』

    『じゃあ信じる』

     そこから、なぜか課題とは関係のない話が始まった。

    『高橋くんって、普段何してるの?』

    『大学行って、帰って、寝てる』

    『つまんな笑』

    『紬は?』

    『私も似たようなものだよ』

    『じゃあ人のこと言えないじゃん』

    『たしかに』

     メッセージが続く。

     五分。

     十分。

     三十分。

     気づけば、時計の針は一時を回っていた。

    『こんな時間までごめん』

     紬からメッセージが届いた。

    『いや、俺も楽しいから大丈夫』

     送ってから、少しだけ後悔した。

     なんか、変じゃないか。

     そう思ったけれど、取り消すわけにもいかない。

     しばらくして、紬から返信が来た。

    『私も楽しい』

     その四文字を見て、なぜか胸が少しだけ軽くなった。

    『じゃあ、もう寝る?』

    『うん』

    『おやすみ』

    『おやすみ、高橋くん』

     スマホを伏せる。

     部屋は静かだった。

     いつもの一人暮らしの部屋。

     冷蔵庫の音だけが聞こえる。

     でも、いつもとは少し違っていた。

     僕はもう一度スマホを手に取った。

     さっきまでのトーク画面を見る。

     最後に届いた、

    「おやすみ、高橋くん」

     という文字。

     それを見て、少しだけ笑った。

     午前一時二十三分。

     明日は一限から講義がある。

     早く寝ないといけない。

     そう思いながら、僕はスマホを枕元に置いた。

     そして目を閉じた。

     なかなか眠れなかった。

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    考えていることを、少しずつ言葉にしていきたいと思っています。 感じたことや、人との関わりの中で見えてきた考えなど、書き残していきます。 自分の中にある小さな気づきを共有することで、 誰かの考えるきっかけになったり、 新しい視点に出会えたら嬉しいです。

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