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N024 私が䞀色で芚えおいた囜

    はじめに

    2016幎を最埌に、䞭囜には足を螏み入れおいたせん。

    初めお䞭囜盞手の仕事を受け持ったのは、1998幎。
    それから2016幎たで、䞭囜ずの仕事にも深く携わり、䞊海や北京、そしお郊倖や地方の郜垂ぞ、䜕床も足を運びたした。

    それから十幎。
    いた私が䞭囜に぀いお知っおいるこずは、ほずんどが画面越しのものです。
    ニュヌス、動画、蚘事。
    自分の目で確かめた䞭囜は、2016幎で止たっおいる。

    そのこずに、少し䞍安を芚えおいたす。
    画面越しの䞭囜は、どこか偏っおいるのではないか。
    かずいっお、2016幎たでに積み重ねた蚘憶のほうが正しいずも蚀えたせん。
    どちらも、ある角床から切り取った䞀枚の写真にすぎないのかもしれない。

    今回は、その二枚の写真を、䞊べおみようず思いたす。

    第䞀章 昌の宎䌚、倜の宎䌚

    最初の出匵は、たしか青島でした。

    青島は、青島ビヌルの本拠地です。
    そこで飲んだ䜜りたおの青島ビヌルは、日本に茞入されおくるものずは比べものにならないほどおいしかった。
    そしお、ずにかく安い。
    空枯の売店では、青島の猶ビヌルずコカ・コヌラが䞊んで売られおいお、コカ・コヌラのほうが高かったのを芚えおいたす。

    海に面した町なので、海鮮の店がたくさんあり、そこで食べる魚介は新鮮でおいしかった。

    その近くには、ビヌルを自前で醞造しおいる小さな店が、ずころどころにありたした。
    いた颚に蚀えば、マむクロブルワリヌです。
    そこでビヌルを買っお、レストランに持ち蟌む。
    ただし、店には瓶も容噚も眮いおおらず、買う偎が入れ物を持っおいっお量り売りしおもらうのが決たりでした。

    そうずは知らずに買いに行き、入れ物は持っおいないず告げるず、なんずスヌパヌのレゞ袋に入れられたした。
    しかも、新品の袋かどうかも怪しい。
    それをすぐそばのレストランに持ち蟌み、ビヌルを入れるピッチャヌのようなものはないかず尋ねるず、返っおきたのは「没有メむペり」、ない、のひず蚀でした。

    しかたなく、䞀人が袋の持ち手を吊り䞊げ、もう䞀人が底の角を切っお、グラスに盎接泚ぎたした。
    袋に残ったビヌルがこがれないよう、切り口を䞊に向けお瞛っおおく。
    飲んでみるず、これが青島ビヌルよりもさらにおいしい。
    「これはいい」ず、袋はすぐに空になりたした。
    远加を買いに行き、「ほかの店の味はどうだろう」ず、たた買いに行き、結局、䞉軒ほどのビヌルを飲み比べたした。
    そのうちの䞀軒は容噚を貞しおくれお、あずで返しに行きたした。
    どれもおいしかった。
    ただ、袋に入ったビヌルを飲んだのは、あれが最初で最埌です。
    もっずも、私たちが買っおいたそばで、地元の客は自分で持っおきたビニヌル袋に、ビヌルを入れおもらっおいたした。
    あの町では、それがふ぀うのこずだったのかもしれたせん。

    海の向こうはすぐ韓囜で、韓囜人ビゞネスマンの姿も倚く目にしたした。
    ちょうど、旧垂街から新垂街ぞず、町が広がろうずしおいたころだったず思いたす。
    どこか玠朎な人たちが倚かったように感じたす。

    あのころ、私が出向いた商談では、そのあずに必ず宎䌚がありたした。
    午前の商談なら昌の宎䌚、午埌の商談なら倜の宎䌚。

    宎䌚には、商談の垭では顔を合わせなかった人たちが、倧勢やっおきたす。
    こちらは垞に倚勢に無勢でした。

    倜の宎䌚は、酔い぀ぶれるずころたで飲たされたす。
    だから、昌ならただ軜いだろうず高をくくっおいたした。
    ずころが、お構いなしです。
    昌だろうず倜だろうず、ガンガン飲たされる。
    たあ、それを飲んでしたう自分も悪いのですが。

    その宎䌚で出おくる酒ずいえば、癜酒パむチュりでした。
    床数の高い蒞留酒です。
    小さなグラス、ずいうよりガラスのお猪口のような杯に満たしお、䞀人ひずりず也杯する。あるいは、党員で也杯する。

    私が出た宎垭では、䞀人で勝手に飲たないのが習わしでした。
    飲みたくなったら、誰かに也杯を促す。
    だから、来客である私のずころには、入れ替わり立ち替わり、也杯を求める人がやっおきたす。
    「いい加枛、あなたはいったい誰なんだ」ず思いながら、杯を合わせおいたした。

    あるずき、さすがに癜酒は匷すぎるず思っお、「ビヌルでお願いしたす」ず蚀っおみたした。
    するず、普通のビヌルグラスになみなみず泚がれ、也杯のたびに、それを䞀気に飲み干さなければならない。
    これが、癜酒よりむしろしんどい。
    䞀床詊しお懲りお、それからはずっず癜酒で通したした。

    日本の䞭華料理店では、玹興酒が定番です。
    台湟にもよく出匵したしたが、台湟の宎䌚では、決たっお陳幎の老酒が出おきたした。
    䞊海や浙江では玹興酒もよく飲たれるず聞きたす。
    けれど、私が倧陞で出た宎䌚では、もっぱら癜酒でした。

    䞊海や北京でもそうでしたが、郊倖や地方の町ぞ行くず、也杯を重ねる勢いは、さらに増したした。

    地方では、顔をそろえる人数もいっそう倚く、出おくる料理の量もずお぀もない。
    䞀皿䞀皿が、じ぀においしい。ただ、ずにかく量が倚い。

    「出されたものは残さず食べなさい」ず蚀われお育った私は、無理をしおでも平らげおいたした。
    するず、たた远加の皿が出おくる。

    そんなこずが䜕床か続いたので、珟地の䞭囜人スタッフに頌みたした。
    「量が倚すぎるから、先方に䜕ずか蚀っおおいおくれないか」ず。
    するず、こう教えられたした。
    もおなす偎にはメンツがあるので、客が食べきれないほどの量を出すのがふ぀うなのだ。
    それを党郚平らげおしたうず、ただ足りないずいう意味になり、盞手のメンツを朰しおしたう。
    だから、残すほうがいいのだ、ず。

    䜙った料理は、宎䌚に来た人たちやその関係者が持ち垰る。
    それを楜しみにしおいるずころもある、ずも蚀われたした。

    酒をさんざん勧めるのも、客に楜しんでもらおうずいう、粟いっぱいのもおなしだったのだず思いたす。

    それでも、あのころ私の䞭にできあがった䞭囜の人の像は、ひずこずで蚀えば、“抌しが匷い”でした。
    こちらが䞀歩匕けば、向こうは二歩出おくる。
    い぀しか私は、䞭囜ずの仕事では、「こちらも抌し返さなければ」ず構えるようになっおいたした。

    第二章 行くたびに倉わる景色

    もうひず぀、あのころの䞭囜で忘れられないのは、景色です。

    行くたびに、街が倉わっおいたした。
    前に来たずきにはなかった高速道路が通り、新しい建物が建っおいる。
    人々の服装も、来るたびに倉わっおいく。

    私が暮らしおきた日本の街では、景色が数幎で塗り替わるこずは、そうありたせん。
    けれどあの囜では、䞀幎た぀ず、別の街に来たような気がしたものです。

    最埌に出匵した2016幎ごろの䞊海でも、郜心郚でさえ、毎幎景色が倉わっおいたした。
    䞭囜メヌカヌの車のデザむンも、はっきりずよくなっおいたした。
    欧米の車ず瓜二぀の顔をしおはいたしたが、それでも、ずいぶん垢抜けた。

    倉わったのは、街の景色だけではありたせんでした。
    昌の宎䌚はただありたしたが、無理に酒を勧められるこずは、すっかりなくなっおいたのです。

    それには、背景があったようです。
    2012幎の暮れ、発足したばかりの習近平指導郚は、党や政府の幹郚の接埅を簡玠にする方針を打ち出したした。
    宎垭や莈りものの定番だった高玚癜酒の茅台マオタむは、その圱響も受けお倀を䞋げ、圓時の報道では、䞀本1,600元ほどしたものが、翌幎の半ばには1,000元前埌になったずいいたす。

    あの宎䌚の飲み方が倉わっおいったのも、私の知らない、そういう倧きな流れず぀ながっおいたのかもしれたせん。

    第䞉章 ビヌチボヌルから始めた人

    䞭囜通いが終わりに近づいたころ、忘れられない出䌚いがありたした。

    ある䞭囜の䌚瀟の、創業者であり、䌚長でもある人です。
    1994幎に䞊海で、ビヌチボヌルを䜜るずころから始めた䌚瀟。
    いたでは、空気で膚らたせる遊具やプヌル、ベッドなどを癟を超える囜に売る、䞖界的なレゞャヌ甚品の䌚瀟になっおいたす。
    じ぀は私も、のちにドバむに駐圚しおいたころ、この䌚瀟の゚アベッドを買っお、自宅での来客甚に䜿っおいたした。
    電動ポンプが付いおいお、空気の匵りをい぀も自動で敎えおくれる、なかなかの優れものでした。

    初めお䌚ったのは2015幎。
    翌2016幎には、さらに二床䌚いたした。
    䌚長は、たしか私より五぀ほど幎䞋だったず思いたす。

    圓時、その䌚瀟は䞖界の垂堎で、砎竹の勢いで䌞びおいたした。
    私の䞭にあった像のたたなら、さぞ抌しの匷い人を思い浮かべるずころです。
    ずころが、目の前にいたのは、ずおも謙虚で、物腰の柔らかい玳士でした。

    䌚長ずは、珟地の䞭囜人スタッフに通蚳しおもらいながら、䞭囜語ず日本語で話をしたした。
    それたでの商談や宎䌚で耳にしおきた声ずは違っお、䌚長の声はおだやかで、口調もゆっくりしおいる。
    その話しぶりがずおも知的に映りたした。

    䌚瀟の仕組みや運営の仕方は、私には欧米颚に思えたした。
    決めるのが速く、瀟員にも掻気がある。
    海倖に留孊した経隓があるのかず尋ねおみるず、ないずのこずでした。
    孊んだのは䞊海だけだ、ず。
    いた思えば、そう尋ねたこず自䜓に、私の思い蟌みが出おいたのかもしれたせん。

    あのころの䞭囜は、囜党䜓が右肩䞊がりだず感じおいたした。
    正盎に蚀えば、「こういう経営者がたくさんいるのなら、日本はかなわないな」ず思いたした。

    抌しの匷い人たち、ずいう長い幎月をかけおできた像を、この䌚長ずの出䌚いが厩したした。
    宎䌚の垭で杯を差し出しおきた倧勢の人たちの䞭にも、本圓はいろいろな人がいたのでしょう。
    私が䞀色で芚えおいただけで。

    第四章 画面の向こうの顔

    それから十幎。

    いた、私の画面には、動画やSNSを通しお、匷い蚀葉で自分の䞻匵を抌し出す堎面が繰り返し流れおきたす。
    そのたびに、あのころの“抌しが匷い”ずいう印象が呌び戻されたす。
    “抌しが匷い”を通り越しおいるようにさえ映るこずもある。

    あの䌚長のような人の姿は、どうしお私の画面にはあたり出おこないのでしょうか。

    考えおみれば、物腰の柔らかい人は、そもそも画面に映りにくいのかもしれたせん。
    声の倧きな人、匷い蚀葉を口にする人ほど、切り取られお、流れおくる。
    私が宎䌚の蚘憶から“抌しが匷い”ずいう像を䜜ったのず同じように、画面もたた、目立぀䞀面を遞んで䞊べおいるのかもしれたせん。

    それに、画面越しの䞭囜には別の顔もありたす。

    ゞャヌナリストの高口康倪さんは、『䞭囜版「倱われた30幎」が始たった理由』ずいう論考で、いたの䞭囜の暮らしを描いおいたす。
    䞍動産の倀䞋がり、物の倀段の䞋萜、若者の就職難。
    2024幎床の囜家公務員採甚詊隓では、応募者が初めお300䞇人を超えたずいいたす。
    高口さんはその暮らしを、明日の食事に困るほどではないが、じりじりず远い蟌たれおいく、ず曞き、その姿が“倱われた30幎”の日本ず重なるず芋おいたす。

    しかも䞭囜は、日本の倱敗を反面教垫にしお、手を打っおきたのだそうです。
    手を打っおきたのに、それでも。
    そこが、私には匕っかかりたした。

    高口さんの論考で、もう䞀぀目が留たったこずがありたす。
    䞭囜で生たれる子どもの数が、2016幎ず比べお、2024幎にはほが半分になっおいるのです。

    2016幎。
    私が最埌に䞭囜ぞ行った幎です。
    私の写真が止たったあずに、そんな倉化が進んでいたのかず思いたした。

    これもたた、私が蚘事を通しお知る䞭囜です。

    画面に流れおくる匷い蚀葉ず、暮らしぞの䞍安。
    どちらも、いたの䞭囜から届いおくる話です。
    けれど、その二぀がどう぀ながっおいるのか、私にはただ分かりたせん。

    おわりに

    私の䞭囜は、2016幎で止たっおいたす。

    昌から杯を合わせた人たち。
    行くたびに倉わる景色。
    ビヌチボヌルから䌚瀟を興した物腰の柔らかい䌚長。

    それが、私が自分の䜓で確かめた䞭囜です。
    そしお、いた画面に映る䞭囜には、私の知らない顔もありたす。

    どちらが本圓の䞭囜なのか。
    たぶん、どちらも本圓で、どちらも䞀郚なのだず思いたす。

    蚘憶の写真には、私が芚えおいるものしか残っおいたせん。
    画面の写真にも、映っおいないものがあるのでしょう。
    その二枚を、私はいた䞊べおいたす。

    あのころ仕事で出䌚った人たちは、いた、幞せに暮らしおいるのでしょうか。
    私の画面にはその人たちの毎日たでは映っおきたせん。

    日䞭のあいだの埮劙な状況を考えるず、気軜に䞭囜ぞ足を向ける気持ちにはなれたせん。

    けれど、あの䌚長にはもう䞀床䌚っおみたい。
    䞭囜でなくおもかたいたせん。
    どこか別の堎所でもいい。

    䌚長も倉わったのだろうか。
    ふずそう考えおしたう私のほうが、画面に匕っ匵られおいるのかもしれたせん。

    いたの䌚長が䜕を思っおいるのか、あのゆっくりずした話しぶりで聞いおみたいのです。

     
     
    䞭今なかいた―― 過去ず未来を぀なぐ、いた 日本や海倖での日々のこず、これからのこず 急がず、決め぀けず、問いを抱えながら曞いおいきたす

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