
短編百合小説(全3話)『夜勤明けにおはよう』シフト1|刺客がやって来た
全3話!
投稿予定日
7/22(水) シフト1
7/24(金) シフト2
7/29(水) シフト3
シフト1|刺客がやって来た
チュンチュンと、雀がさえずる朝。
普通は清々しいと表現されるのだろう。
でも私には、とてもそうは感じられない。
「上司命令なんです!好きでモーニング
コールやってる訳じゃありません!」
ここに出てくる上司とは、
病院に務める医者のことであり、
皆から先生と呼ばれている……私の親のことだ。
私は地元でも名の知れた総合病院の娘である。
もちろん親はこの病院で先生をやっていて、
将来は私も当然医者になるものと思われている。
でも、まだ私には医者になる云々の前に、
医学部受験のイメージも掴めていない。
だから、当事者意識の欠如なのか、
単に気が抜けているだけなのか、
ついに担任に小突かれた。
『おい、その遅刻癖、どうにかならんか。
出席日数ぎりぎりだぞ!
親御さんを困らせるなよ』
うちの高校では遅刻が重なると
出席日数が削られていく仕組みになっている。
どうやら私は結構、瀬戸際にいるらしい。
だが、何を隠そう私は朝に弱い!
目を開けようとするが瞼が鉛のように重い。
十度寝くらいは余裕でこなしている。
そして度々、教室に滑り込むも遅刻判定を受けている。
これは低血圧の仕業に違いない。
そう思い立って寝起きに院内の血圧計で
測ってみたけれど、低血圧の範囲外だった。
「自覚症状があります」と訴えるも、親には
「あんたの場合、気合いの問題だろう」と
軽くあしらわれた。
まったく、患者さんに対する扱いとは
雲泥の差である。
「ねーむーい。後5分だけ……
一口だけ……」
「何言っているんですか」
今日は、夢の中でジューシーなハンバーグを頬張っているところで、現実世界からお呼びが掛かった。まだ半分も食べていないのだ。
起きられないよ。
「まだ大丈夫だからぁ」
「そんなんだから、遅刻が続くんですよ!
起きてください」
そしてこの度、ついに出席日数が
危ういことが親に伝わってしまった。
普段は厳しく言わない親も、流石にまずいと思ったのか、刺客を仕向けてきた。
そう、その刺客こそ、
先ほどから「起きてください」を繰り返す、
この看護師さんである。
彼女は朝7時に部屋に来て、
私が起きるまでモーニングコール続ける。
彼女は私の親もとい「先生」からの覚えが良くて、この係に任命されたらしい。
断りたかったが上司命令だから受け入れたのだと、ことあるごとに訴えている。
何故だ、とても名誉な役割じゃないか。
「分かったよ。起きるよお……」
根負けした私は、いつものごとく、
しぶしぶ半身を起こす。
ゆーっくり起き上がるのは
まだ寝ていたいという、せめてもの反抗だ。
「これ、私が来ないときはどうするんですか」
「自分で起きれるもん……」
彼女は毎日起こしに来るわけではない。
当院の看護師さんは二交代制で働いている。
そのため、シフトには日勤・夜勤・公休が
入り交じっている。
起こしに来るのは平日の日勤と夜勤明け、
逆に夕方に出勤する夜勤入りと、
公休の日は起こしに来ない。
つまり、自力で起きることになる。
寝過ごすことが無いように
シフト表まで渡された。
ご丁寧にも来ない日には、
赤のマーカーが引かれていた。
そんなに心配されなくても、
自分で起きられるけどね!
「いや、お嬢さま、遅刻ばかりじゃないですか」
半音低い声で、一蹴された。
曲がりなりにも当院の娘である私は
「お嬢さま」と呼ばれている。
しかし、看護師さんの声色からは、
それに納得していない様子が伝わってくる。
「うぅ、眠気が悪いんだもん。
看護師さんだって、夜勤あるじゃん、
眠気と闘う気持ち分かるでしょー……」
「私たちは一晩中、ちゃんと働いているんです。
失礼なことを言わないで下さい!」
続けて、
「寝ている暇などない」
「まともな指示が出ていない」
「休憩時間に寝られるとも限らない」
などが付け加えられた。
なるほど、これだけ働き者ならそりゃ
「先生」から気に入られるわけか。
自宅の鍵と最愛の娘を託されるとは
相当な信頼っぷりだな。
「看護師さん、すごーい」
「はぁぁ」
看護師さんの深いふかーいため息。
「当直って知っていますか?」
「トウチョク、聞いたことあるかも」
「先生」を親に持つ私が
当直を知らないわけがない。
その言葉の響きと漢字の並びには
心臓がキュッとなる。
「あなたの将来の仕事です」
……そうなのだ、残念ながら、そうなのだ。
当直医は夜中に病院に控えておき、
何かあれば業務に当たるそう。
もちろん、何も無いなんてことは無く。
そして、親が当直明けにそのまま日中の勤務に
入っていくのを見たり、見なかったり、
やっぱり見たり……
それがいずれ私の仕事になるなんて。
「あぁ、信じたくない」
「……本っ当、
「先生」はあんなに優秀なのに。
こんな人が将来の上司かもしれないなんて、
先が思いやられます」
「ひどーい、あんがい良い上司になるかもよ」
「はぁ……」
ため息2回目。
「では、もう起きましたね。
本来の仕事に戻ります。まったく……
先生に言われなければ、こんなこと……」
モーニングコールが終わったとみると、
さっさと病棟へ戻っていく。
「もっと優しく起こしてよぉー」
去って行く背中に一押しする。
反応はもちろん帰ってこない。
もっと寄り添ってくれたら、
私も頑張れるのになぁ、多分!
シャツに着替え、スカートをはき
ブレザーを引っ提げて、
とぼとぼ朝食を食べに向かう。
「はやく週末にならないかなぁ…」
週末、週末、週末……
日勤でも、夜勤明けでも起こしに来ない
素晴らしい日。
そんな土日が恋しくてたまらない。
読んでいただき、ありがとうございます!
これから医者の娘と看護師さんの朝の攻防が始まります!勝つのはどっちでしょう??
次回、7/24(金) シフト2投稿予定です。
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