メインコンテンツへスキップ
見出し画像

マッチョ華道

    こちらに参加させていただきました。

    「マッチョ華道」と書かれた教室に入ると、花が一本もなかった。

    代わりに、屈強な男たちが壁際に並んでいる。全員、なぜかタンクトップ姿だ。

    「では本日の稽古を始めます」

    師範の老婆が杖で床を指した。

    「佐藤さん、窓際へ。上腕二頭筋を十五度、左へ」
    「はい!」

    「田中さんはその後ろ。胸を張りすぎ。余白が死んでます」
    「すみません!」

    二人の間に三人目がしゃがむ。師範は数歩下がり、目を細めた。

    「うん。今日は流れが弱い。僧帽筋を少し足しましょう」

    私は体験入門の紙を握ったまま尋ねた。

    「あの……花は?」

    師範は無言で白い百合を一輪取り出し、中央の男の組んだ手に差した。

    その瞬間、教室が静まった。

    筋肉の山の真ん中で、百合だけが細く、まっすぐ立っている。

    「華道とは、何を生けるかではありません。何を生かすかです」

    思わず頷いた、そのとき。

    「では新人さん。上着を脱いで」

    「え?」

    「次はあなたを生けます」

    入門申込書には、小さくこうあった。

    〈花材は各自持参。筋肉は教室で育てます〉

    #マッチョ華道
    #毎週ショートショートnote
    #ショートショート
    #短編小説
    #創作
    #小説
    #掌編
    #華道
    #筋肉
    #note創作

     
     
    日常の小さな引っかかりを、エッセイや小説、童話に。複数の作品を書籍の形にまとめ、出版社の方と一般書店への流通や今後の展開を相談中です。迷い、立ち止まりながら、自分だけの「静かな納得」を探して書いています。読んでくれるあなたが、ふとひと息つけますように。

    あなたへのおすすめ