
メンターは、答えを渡す人ではない―メンターと導く人の話【神話を読み解く】
はじめに
「メンター」という言葉を聞いたことがありますか?
仕事でも、教育でも、スポーツでも使われる言葉です。
経験のある人が、若い人を支える。
悩んでいる人に助言する。
成長をそばで見守る。
そんな存在を、私たちはメンターと呼ぶことがあります。
この言葉のもとになったのは、ギリシャ神話に登場する「メンター」という人物です。
『オデュッセイア』の中で、オデュッセウスはトロイ戦争へ向かう前、自分の家と息子テレマコスのことを友人メンターに託したとされています。
そして物語の中では、女神アテナがメンターの姿を借り、テレマコスを導く場面があります。
ここが面白いところです。
メンターとは、単に上から教える人ではありません。
相手の代わりに人生を決める人でもありません。
迷っている人が、自分の足で進めるように支える存在なのだと思います。
導くことは、答えを渡すことではない
誰かを支えるとき、つい答えを渡したくなることがあります。
こうした方がいい。
それはやめた方がいい。
こう考えれば失敗しない。
経験があるほど、先が見えることがあります。
相手がつまずきそうな場所もわかる。
遠回りしそうな姿を見ると、つい口を出したくなる。
でも、メンターの役割は、相手の代わりに答えを出すことではないと思います。
答えを渡すのは簡単です。
でも、そればかりだと、相手は自分で考える力を育てにくくなる。
大切なのは、問いを渡すこと。
視点を渡すこと。
考える材料を渡すこと。
「あなたはどうしたいのか」
「何に迷っているのか」
「何を大切にしたいのか」
そう問いかけることで、相手が自分の中から答えを見つけていく。
導くとは、前に立って引っ張ることだけではありません。
相手が自分の足で進めるように、そばから支えることでもあるのだと思います。
支援は、主役を奪わない
支援するときに大切なのは、主役を奪わないことです。
成長するのは、相手自身です。
選ぶのも、相手自身です。
失敗から学ぶのも、相手自身です。
どれだけ近くで支えても、その人の人生を代わりに歩くことはできません。
大学職員として学生と関わる中でも、それを感じます。
就職活動で悩む学生がいる。
進路を決められずに迷う学生がいる。
自分の強みを言葉にできない学生がいる。
そのとき、こちらが全部決めてしまうことはできます。
この業界がいい。
この企業を受けた方がいい。
面接ではこう言えばいい。
でも、それでは本人の選択になりません。
支援とは、正解を押しつけることではない。
その人が自分で考え、自分で選び、自分の言葉で進めるように関わること。
メンターとは、相手の前に立って主役になる人ではなく、相手が自分の物語を進めるためにそばにいる人なのだと思います。
良いメンターは、問いを残す
良いメンターは、すべてを説明しきらない人かもしれません。
もちろん、必要な知識や経験は伝える。
危ないところがあれば、止める。
見えていない選択肢があれば、示す。
でも、最後は相手に考えさせる。
すぐに答えを出さない。
簡単に結論を渡さない。
相手が自分で気づく時間を奪わない。
これは、支える側にとっても簡単ではありません。
待つことには、忍耐がいります。
見守ることには、覚悟がいります。
失敗しそうな相手に、すぐ手を出さないことは難しい。
でも、人は自分で考えたことほど、自分の力にしていきます。
誰かに言われた答えより、自分でたどり着いた答えの方が、深く残ることがあります。
だから、メンターは答えを渡しすぎない。
相手の中に問いを残す。
その問いが、次に進む力になるのだと思います。
指導にも、メンターの視点が必要になる
スポーツでも、同じことがあります。
指導者がすべてを決めすぎると、選手は考えなくなります。
どこに立つのか。
いつ動くのか。
何を選ぶのか。
なぜそのプレーをするのか。
全部を指示されれば、選手は迷わずに済みます。
でも、その分、自分で判断する力は育ちにくくなる。
試合中、ピッチの中で決めるのは選手です。
だからこそ、練習の中で考える経験が必要になる。
メンター的な関わりとは、放任することではありません。
ただ自由にさせることでもありません。
問いを持たせること。
判断する経験を渡すこと。
失敗したあとに、一緒に振り返ること。
そして、次は自分で選べるように支えること。
それが、選手を育てる関わり方なのだと思います。
メンターが残している問い
メンターという言葉は、今では当たり前のように使われています。
でも、その背景にある物語をたどると、支援することの難しさが見えてきます。
誰かを導くとは、相手を自分の思う通りに動かすことではない。
相手の代わりに正解を選ぶことでもない。
その人が、自分で考え、自分で選び、自分の足で進めるように支えること。
メンターの役割は、目立たないかもしれません。
成果を出すのは、支えられた本人です。
前に進むのも、本人です。
でも、その歩みのそばに、問いを渡してくれた人がいる。
考えるきっかけをくれた人がいる。
迷ったときに、戻れる言葉をくれた人がいる。
そういう存在がいるから、人は進めることがあります。
メンターの物語は、私たちに問いかけているように感じます。
自分は、誰かの答えを奪っていないか。
支えているつもりで、相手の主役を奪っていないか。
相手が自分で進めるように、問いや視点を渡せているか。
そして、自分自身も、誰かに支えられてきたことを忘れていないか。
メンターは、答えを渡す人ではありません。
相手が自分の答えにたどり着くまで、そばで支える人です。
星座は、ただ夜空に浮かんでいるだけではありません。
人間の弱さや願いが、形を変えて残ったものなのかもしれません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
このnoteでは、神話の読み解き以外にもサッカーやフットサル、大学職員としての経験をもとに、人や組織の成長について考えたことを言葉にしています。
誰かの考えるきっかけになれたらうれしいです。