
言葉が持つ「重み」と「温度」に触れる夜──実力派朗読家・飯干大嵩さんを迎えた記念すべき第二十回『劇楽な時間-dream time-』レポート
静寂を裂くように響くタイトルコール、そして画面の向こうとこちら側を繋ぐオンライン配信特有の少しばかりの緊張感。記念すべき第二十回を迎えた音声配信番組『劇楽な時間-dream time-』には、特別な空気が漂っていました。今回のゲストは、第一回U35京都朗読コンテストで最優秀賞を受賞するなど、独自の道をひたむきに歩み続ける実力派朗読家・飯干大嵩(いいぼし まさたか)さん。パーソナリティのさかもっちゃん、鳴瀬了さんと共に、朗読という表現の奥深さ、そして心に突き刺さる言葉の真髄へと迫った、熱気あふれる一夜の記録をお届けします。
番組スタートの緊張感とネット配信の空気感
画面越しに繋がった瞬間、普段リアルで顔を合わせた緊張感と異なる、少しピリッとした、それでいてどこか温かいライブ特有の緊張感がスタジオを包み込みます。「普段オンラインであまり活動していないずぼらな感じで来てしまって……」と少しはにかむ飯干さんに対し、パーソナリティの面々はリラックスした空気を作ろうと優しく声をかけます。
さかもっちゃん
「リラックスしてやっていきましょう。のんびりゆっくり、くつろぎながらいろいろお話ししていただければと思っておりますので」
飯干大嵩
「リラックスします。リラックスってちょっとあんまりできないですけど……。僕の方こそドキドキしてますけどね、配信久しぶりなので緊張してるかもしれないです」
こうした飾り気のない本音のやり取りから始まった今回の放送。記念すべき第20回、そしてリスナーからの温かいコメントがリアルタイムで流れる中、番組は静かに、しかし確かな熱量を帯びて幕を開けました。
飯干大嵩さんの活動と朗読の哲学(インプットとアウトプット)
番組前半の大きなトピックとなったのは、飯干さんが日頃行っている朗読活動、そしてその根底にある独特な「朗読の哲学」でした。毎月第4または第5土曜日に、三鷹のコーヒーハウス「しもぉれ」で開催されている朗読会。そこには、ただ綺麗に言葉を響かせるだけではない、飯干さんなりの強いこだわりがあります。
飯干大嵩
「朗読っていうのは、人に伝えるっていうことが一番大事なことだってよく言われますよね。もちろんそれはそうなのですが、その一歩手前に、自分が作品と仲良くなるというか、作品に書かれている物語全体の雰囲気、歴史、感情と、読み手である自分自身が繋がろうとすることが大事なんです。伝える存在である前に、ちゃんとしっかり受け止める、受容するものだと思っています」
「上手くなろうとする前に、まずは作品を味わってほしい」と語る飯干さん。その言葉には、長年一匹狼的に自分の朗読を突き詰めてきたからこその重みがあります。鳴瀬了さんやさかもっちゃんも、その真摯な姿勢に深く頷きながら、表現者としての本質についてじっくりと思索を巡らせていました。
原民喜『心願の國』と北条民雄『すみれ』の朗読実演と対比
番組の中盤、いよいよ今回のハイライトとも言える朗読実演のコーナーへ。飯干さんは、原民喜さんの『心願の國』と、北条民雄さんの『すみれ』という、非常に重みのある2つの作品を続けて披露しました。
広島の原爆や人間の孤絶感、そしてその中で微かに光る命の輝きを描いた『心願の國』。打って変わって、山奥の孤独なじいさんと小さなスミレの対話を通して「生きる務め」を静かに問いかける北条民雄の『すみれ』。その圧倒的な表現力に、聴き手はただ息を呑むしかありませんでした。
鳴瀬了
「動かずにその場にいることで、より一層生きていることを噛みしめるような、そういったお話を対比になるような形で聞かせていただいて、すごく心にグッとくるものがありました」
感情を外に向かって激しく爆発させるのではなく、物語の深淵からゆっくりと言葉を受け止め、聴き手の心へと染み込ませていくような飯干さんの声の魔法。それは聴く者の記憶や感情の引き出しをそっと開け放つ、鮮烈な体験となりました。
Danzig様作の声劇『必殺仕事人風台本3 仁吉』の熱い掛け合いと裏話
朗読の余韻が残る中、番組は一転して「声劇」のコーナーへと突入します。Danzig様よりお借りした『必殺仕事人風台本3 仁吉』を、仁吉役・飯干大嵩さん、左之助役・さかもっちゃん、お市役・鳴瀬了さんの3人で熱演しました。
裏社会の泥臭さ、仲間への想い、そしてそれぞれのキャラクターが抱える背負った宿命が、テンポのいいセリフの応酬と独特の「間」によって見事に立体化されていきます。特に終盤の激しい感情のぶつかり合いでは、生々しい熱量がリスナーのチャット欄をも大いに沸かせました。
飯干大嵩
「声劇の方は本当に久しぶりだったんですけど、内容が内容なだけに……二人の掛け合いの迫力がすごくて、すごく臨場感のある生劇体験をさせていただきました」
真剣な朗読の後に繰り広げられたこの声劇は、番組全体に素晴らしい緩急と、表現することの純粋な楽しさを思い出させてくれました。
過去の作品や今後の告知、ハンセン病資料館での大仕事に向けて
番組の終盤では、改めて飯干さんのこれまでの歩みや、心に残る作品についてのトークが展開されました。宮沢賢治の作品や、自身の表現の原点となったコンテストの思い出など、語り尽くせない思いが溢れます。
そして最後に告げられたのは、来月11月21日(土)に控えた重大な告知でした。
飯干大嵩
「来月11月21日土曜日14時から、東村山市にあります国立のハンセン病資料館にて、北条民雄の代表作『いのちの初夜』を朗読させていただきます。ハンセン病という差別の歴史、そして当事者の方々の物語を、資料館にぜひ来ていただいて感じていただきたいです。僕の朗読人生の中でも大仕事なので、ワクワクドキドキしながら迎えようと思います」
自らの足で史実と向き合い、作品に宿る魂を全身で受け止め続けてきた飯干さんだからこそ語れる言葉の数々。リスナーにとっても、ただのエンターテインメントを超えて「命とは何か」「生きるとは何か」を深く考える貴重なターニングポイントとなりました。
編集後記
記念すべき第20回という節目にふさわしく、言葉と真摯に向き合う男たちの熱気が画面越しにビリビリと伝わってくるような素晴らしい回でした。一人で黙々と物語の深淵を覗き込むような飯干さんの孤高の姿勢と、それを温かく、かつリスペクトを持って迎え入れるさかもっちゃん、鳴瀬さん。朗読という表現が持つ無限の可能性と、人の心を動かす温もりを改めて教えていただいた気がします。ハンセン病資料館での朗読会という大舞台に向かう飯干さんの背中を、心から応援したくなる、そんな胸が熱くなる夜でした。
当日の収録