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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.9「蝞牛は空を駆けおゆく」

    今日はじずじず雚が降っおいる。
    雚はいい。
    空に色のない代わり、傘の花がかわるがわるに開くから。
    最近はこうしお窓の倖の癟花繚乱を芋䞋ろしおいる。
    時たた䞊を向く人の芖線の先を远いかけながら。

    裏口の玫陜花は飜き飜きずしお四方八方で銖を垂れお氎の重みで眠っおいる。
    葉の䞊に、立掟な蝞牛かた぀むりを芋぀けた。
    玫陜花を起こさぬよう、そっずさらっおくる。

    幟分か、身䜓が軜い。

    階段に巊足をかけたずころでむペさんに呌び止められる。

    「朔ちゃん、あんたいくらなんでも握り飯ひず぀くらい食べたらどうなんだい」

    よりにもよっお䞀番身䜓の受け付けないものを提案されお、䞋唇を噛んだ倉な笑いを浮かべおしたった。

    「じゃあなんでもいいから、食べられそうなもん ある」

    俺はふず、埌ろ手に隠した虫籠を思い出す。

    「人参  なら  」

    むペさんは迷宮入りした難事件に挑む名探偵の劂く眉間に深い深い谷を䜜り぀぀重々しく口を開いた。

    「朔ちゃん、あんた熱でもあるのかい」

    そう蚀っお俺の額に手の甲を圓おる。

    「䜕」

    ず叫んで足元を芋お今床は雄叫ぶ。

    「足ィ あるね 倧䞈倫ね」

    そしおドカドカず台所ぞ行き、小皿に人参をひずかけら乗せお持っおきおくれた。
    癜滝が絡たっおいる。

    蚳がわからない、ず蚀った様子でプスプスず頭から湯気を出しながらたた台所ぞ戻っお行った。

    俺は巊手に虫籠、右手に小皿で階段を昇る。
    ここのずころ、のがりは赀ん坊のように手を䜿っお這い぀くばっおいたものだから、身䜓に堪える。

    登りきったずころでハアハアず息切れに抌し倒されおしばらくそのたた梁を眺めおいた。

    「そんなずこで寝るんじゃないよ」

    䞋からむペさんが叫ぶので仕方なく、匍匐前進で郚屋ぞ入った。

    原皿甚玙が湿気でペレおいる。
    その䞊に虫籠を乗せおみるず、なんだかちょっずした埡䟛物のように芋える。

    「腹、枛っおるか」
    物蚀わぬ蝞牛の前、俺は人参を前歯でかじりずる。
    それを虫籠の䞭に入れ、残りの半分は錻を摘んで自分で食った。

    しばらく芋おいるず、歯型の぀いたずころを奎がかじり始める。

    「そうだ  いい子だ。たくさんお食べ。」
    嬉しくなっお途方もない時間眺めおいた。

    殻の螺旋を数えおは、空が近いず笑っおる。
    のんびり昇れ。

    目に映るものが巊回りで転げ萜ちおいった。

    錻がむず痒くお目を芚たすず睫毛越しにはすっかり人参を食べ切った蝞牛が悠々ず遊んでいるのが芋える。
    頭の埌ろの方で玙をめくる音がする。

    音のする方に身䜓を転がし顔を䞊げる。

    「ハハッ おめぇなんだその顔は」
    倧ちゃんだ。
    倧ちゃんが俺を指を差し、ほんの少し日に焌けた顔で倧笑いしおいる。

    「え」

    芁領を埗ない俺の手銖を匕っ掎んで巊頬に圓おるず、
    「ほれ 觊っおみ」ず涙を流し真っ赀な顔で蚀う。

    「あ  」

    倧ちゃんは俺の頬をはらいながら、
    「寝んなら垃団でな、颚邪ひくぞ。」ず尀もらしいこずを蚀いながら、ただただ笑い続けおいた。

    「ん 䜕か食ったか」
    「お。わかるかい」

    今日は劙に錻が効く。
    錻がむず぀いたのはこの匂いに誘われたせいだ。

    「心しおかかれよ。」

    突然倧真面目な顔をした倧ちゃんは自分の埌ろから厳かに玫の小さな颚呂敷包みを差し出しおくる。

    「どうぞ、お玍めください。」

    膝の前に䞉角を䜜り、深々ず頭を䞋げる倧ちゃん。

    わずかに肩が揺れおいる。

    「では。」

    ず倧ちゃんがしたように頭を䞋げる。

    䞀぀目の結びを解いおいく時、埌ろめたいような喉のあたりのむず痒いのを感じた。
    二぀目を解く時、もうすでに垃越しに知る柔さぞの躊躇いから第二関節がぎこちなくなる。
    もうあずは、じりじりず焊らした残りをずらすのみだ。

    俺は唟を飲み䞋した。
    倧ちゃんの喉も音を立おた。

    瞳で合図をする。

    二人で角ず角を持぀。

    ひずヌ぀、ふたヌ぀  

    䞉぀目の瞬きで露わになったのは、豆倧犏だ。

    俺から芋お右偎の倧犏が、関節の目立぀指で掎み䞊げられた。
    埅ち構えおいるのは倧きく開いた口。

    痛い

    「なんだ 朔ちゃん、これも食えねえか」

    もごもごず頬を膚らたせお喋る圌は恐らくそんなようなこずを蚀ったはずだ。

    自分でもわからない。
    倧犏が倧ちゃんの歯ず指の間で䌞びた瞬間、どこずいうわけではないが身䜓が痛む気がした。
    俺は手で顔を芆ったたた、巊手の䞭指ず薬指の隙間から、ただ䞞のたた残る倧犏を芗き芋る。

    「倧䞈倫だ。毒なんか盛っおねえ ほれ、芋おみろ。俺はこんなに  」

    恐る恐るその危うい茪郭を摘み䞊げるず、豆の䞀粒飛び出しおいるずころを前歯だけでかじりずった。

    「目ェ開けお食え 詰たるぞ。」

    その通りかもしれない。
    芖界もなく、唇ず歯の感芚、そしお自分の咀嚌音だけが脳を支配しおいる状態はあたりに䞍健党だ。

    しかし、脳はやはり銬鹿な臓噚で犁忌的なものに觊れるず途端に悊び出しおしたう。

    きっず、倧ちゃんは今俺を芋おいる。
    おおよそ唇だろう。
    芖線の突き刺さりは痛いのだ。

    䞀床、目を開ける。

    「ぞえ  それで、日がな䞀日そい぀を芋おんのか」
    「人参食ったら人参色の糞ク゜すんだ。なかなかかわいいもんだよ。」
    「朔ちゃんおめえ  」

    倧ちゃんは残り䞀口にも満たないほど小さくなった豆倧犏を蚝しげに芋぀めた埌、「もの食っおる時に糞ク゜の話するもんでねえぞ」ず真っ癜な唇で笑った。

    甘い銙りに誘われたのか、ヒメアリが䞀匹歩いおくる。

    「蟻は働きもんだねぇ。」
    「蚀っおる堎合か おめえこれほったらかしおるず郚屋䞭蟻になっぞ。」

    倧ちゃんは少しむきになっおいる。

    「だけども  」
    俺は倧ちゃんに、畳の跡の぀いた頬をむける。

    「屋根もないのに。倖にやったら濡れちたうだろうよ。」

    倧ちゃんはふぅず息を぀き、こう俺に問うた。

    「蝞牛様にだけお氎くれおやっお蟻は飌い殺しかい」

    途端、目を閉じおいた俺はその蚀葉ぞの答えで喉を詰たらせた。

    背骚が粉々になるほどに打ぶたれ、なんずか胃に萜ずす。

    「だから目ェ開けお食えっお蚀ったのに。ほれ  氎、氎飲め」

    肩を支え、コップを口元で傟けおもらう。
    唇の端から氎が溢れ出しお、俺は畳を叩く。
    欲匵りすぎた錠の劂く膚らんだ頬のたた必死に笑いを堪えおいる。
    倧ちゃんの目が䞀瞬、光をなくしたように芋えたのは、錻先たで垂れおいた自分の髪のせいだろう。
    氎を党お飲み蟌んでしたうず、濡れた襟元なんか気にならないで二人で倧いに笑った。

    それから蟻を朰さぬよう、䞀匹ず぀捕たえおは手に這わせ腕に這わせた。
    党郚で五匹にくすぐられ、いざ行かんずした時に䞞める前の玙の䞊に最埌の䞀匹を芋぀ける。
    瞬間、その文字の矀れの前に怯んだずころ、芋倱っおしたった。
    俺はそれずなく、曞きかけを裏返しおから郚屋を出た。

    やはり倖はただ雚が降り続いおいお、蟻の巣穎らしき穎は氎の䞋だ。
    「戻るかい」
    問いかけおみたが、蟻たちはみな指䌝いに地に降りおそれぞれに歩き出した。

    郚屋に戻るず、倧ちゃんはたた本を読んでいる。
    俺は食べかけた倧犏の続きを始める。

    「ちゃんず目、開けお食え」
    本に芖線を萜ずしたたた、蚀うその声も畳に向かっお萜ちおいった。

    「なあ、朔ちゃん。おめえ知らないだろうけど  」
    やはり俺の方は芋おいない。

    「藀の花の枯れた頃、死んだんだ。小村教授。」

    「え」

    もう䞀床目を閉じた。
    䞀口かじる。
    ──研究棟の藀の花は芋たしたか
    その声ず蚀葉が蘇る。

    二口目。
    䞡肩に凞凹ずした枩かさが蘇る。

    䞉口目で身䜓の震えが止たらなくなった。
    ──瞌の向こう、お倖では小鳥が氎を济びおいお、それを君が远い立おおチュンず鳎き鳎き逃げおいく。
    君の涙を攫うのは、藀のお花の死んだあず  

    心臓が凍るおぞたしい感芚のあず、俺は光の䞭で目を擊る。

    昚倜の空は街のあちこちに、宝石を萜ずしお眠りに぀いたようだ。
    久方ぶりの朝の陜射しの柔らかなこず。
    盞倉わらず䜎い倩井は惚めったらしく蟛気臭い顔をしおいるが、「元気を出せよ」ず声をかけおやる。
    遮蔜のない窓は、容赊なく生掻の始たりを促しおくる。

    でもどうだい
    今この郚屋に、二床䞉床ずう぀らう぀ら頭を揺らしおいる奎が芋えるのかい

    俺は虫籠を抱えお階段を降りる。
    鞠が無邪気に跳ねるように。

    自分のではない少し履き心地の悪い䞋駄でぬかるむ裏庭ぞ飛び出した。
    倜着の裟の濡れるのもかわたず、コロコロず駆け回る。

    玫陜花はおめかしをしおよそいき顔ですたしおいる。

    翡翠色の角をした、螺旋背負った蝞牛。
    䞡手に乗せお、腕を䌞ばし俺は蚀う。

    「ご芧、空だ。空の玫陜花も、矎しかろう」

    ずたん、黄色の嘎をした小鳥がやっおきお手から飛び立぀蝞牛。

    行っおきたすも䜕もなく倩高く、倩高く。

    これから小鳥の盞棒ず、倧きなお空を旅したす。
    返事がないのは元気な蚌拠。

    「お迎えにあがりたした。」
    どこかの家から声がする。

    青い花は身包み党郚剥がされお、それでもどこか満ち足りた気だるげ顔で項垂れおいた。

    空は盞倉わらず青くっお、陜射しは倜着の露だけ残したたた。
    僕を眠りに誘うのでしょう  

    (続)

    ↑
    たずめお読めたす。
    䞭原䞭也のおかげで曞けたのに、すっかり行方䞍明にされた䞭也。
    ごめんなさい。

    ↑
    盎前はこちら。

    ↑
    䞭也は勝手にキレおるけど、挱石を怒らせるのは至難の業。

    ↑
    私、目でパ殺せたす。

    ↑
    ゆきお様・䜜
    あたりにもしょうもない䞻人公の救䞖䞻、ゆきお様。
    今回は、い぀ものリズムに加え人生が豊かになるメッセヌゞが添えられおいたす。
    悩めるあなたも、そうでないあなたも、ご䞀読あれ

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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