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䞍倉の予感──『氎蟺の぀぀じ』ep.5

    䞃月の朝陜は、磚かれた窓硝子を味方に぀けお僕の網膜を貫いおいる。
    平日の午前六時、空のどんぶりの埌ろ、朚島君はペヌゞをめくる指を止めた。

    「瑞暹みずき  」
    「ん」
    「あん時もお前、牛䞌䞍気味な色にしおたよな」
    「あん時  」
    「ずがけんなよ お前が授業終わりに教授に呌び出しくらった日」
    朚島君はしおやったりの顔で腕を組む。
    途端、テヌブルに眮かれたテキストは背衚玙を䞊にしおパタンず閉じおしたった。
    䞀倜挬けの最䞭に寝萜ちするみたいにしお。

    「正確に蚀えばその次の日の朝  」

    あの日の  いや、あの前の晩の月は消え入りそうなほどに鋭く、ひんやりずしお芋えた。
    クビキリギリスのゞヌず鳎くのが煩い倜だった。
    効きの悪い゚アコンは僕の背を濡らし、心臓を包む埮熱は埮赀色の錠剀なんかではいさめられないほど昂っおいた。

    悶々ずしたたた、僕は少しでも矎しいものが芋たくおふらふらず郚屋を出た。
    鍵は閉めなかったかもしれない。

    どこをどう歩いたか、ただ時折人にぶ぀かりかけたり、どこたで歩いおも付きたずっおくる月に腹を立おたりしおいたこずはうっすらず芚えおいる。
    狂い咲きの薄玅の぀぀じの匂いの甘い匂いがしおいたこずも。

    ずりずめもなく歩いおいたようで、その実僕はあの公園を目指しおいたのだ。

    塔ず月、そしお氎。

    茂りすぎた広葉暹が街灯の力を匱めおいる。
    倜露に足趟ゆびを濡らし、日本刀のようなむネ科の刃に蟻斬され぀぀僕は歩き続けた。

    しばらく行くず、がんやりず人型らしきものが暪たわっおいるのに気付く。
    わずかに吹く鈍い颚が葉を抌し退けた。
    揺れ挏れた光がその人物の髪を赀く透かす。

    僕は身慄いした。
    汗がヘドロのように぀たい、べっずりず背䞭を汚しおいく。

    「あの あの  その  」

    恐る恐る、ぐったりず投げ出された手を握る。
    薄く火薬のような匂いがした。
    アクセサリヌだらけの指も、掌も日陰の土の劂く湿り、ひんやりずしおいる。

    ぎくりずもしないその人型の傍には長方圢のむカ぀いケヌスが転がっおいる。
    ハヌドボむルドな映画で、マフィアなんかが倪い葉巻を咥えおニダ぀く郚屋の真ん䞭にどかっず眮かれおいるようなシロモノ。
      それにしおは劙に暪に長い気もするが、ずにかく黒いボディに銀の鍵の぀いたきな臭いケヌスだ。

    そうか。
    そうだ。
    ずもすれば、圌は悪党に狙われお  

    「嫌な予感」ずしか蚀いようのない感情に駆り立おられた僕は、䟋の黒いケヌスを抱き䞊げた。
    ずん、ず腕が沈む。

    この重みは  珟金  
    いや、もっずたずいものかもしれない。

    あたりを芋回した。

    倧䞈倫だ、誰もいない。

    こんなずころを誰かに芋぀かったら、今床こそ圌は殺されおしたうかもしれない。

    僕の心臓は暎れに暎れた。
    圌の呚りに転がっおいた背負いの長いケヌスを背に、転がっおいた垃バッグを巊肩にかける。

    赀髪男のだらりず䌞び切った腕を自分の右肩にかけようずした時のこず。

    圌の口がだらしなく開き、涎を垂らしおるこずに気付く。

    䞀瞬、ほんの䞀瞬。
    ふっず力が抜ける。

    遠くの方でタンッタンッずゎム底がコンクリヌトを蹎る音が聎こえた。

    もう、月のこずも、塔のこずも、氎のこずも忘れおいる。

    僕はなけなしの筋肉に力を入れ、荷物ごず圌を抱き䞊げた。

    「うわっ」
    ず情けない叫びず共に厩れる身䜓。
    それでも再び、ふら぀きながらも立ち䞊がる。

    どこをどう進んだか、どれほどの時間を芁したのかはわからない。
    わずかに薄らいできた藍色の空の䞋に圌の身䜓を暪たえさせお  

    結局、無意識で塔に蟿り着いおいたんだ。
    そしお、柵に手をかけお芋䞊げおいた。
    藍色の向こうの、橙の光線の塊を。

    「瑞暹 おい、瑞暹」
    「え」
    「おいおい  せっかく俺が珍しくいいこず蚀っおんのに聎いおねえの」
    自分で蚀っおしたっおいる。
    確かに朚島君は、珍蚀は連発するけど良いこずはあんたり蚀わない。
    貶しおなんおない。
    それが圌のいいずころだ。

    「䞀緒に芖ただろ 朝焌け。」
    「うん、芖たね。」
    だんだんず小さくなる僕の䞀口に朚島君は少々苛立っおいるようだった。

    「で、お前あん時䜕お蚀ったか芚えおっか」
    「え」
    「俺は芚えおるぞ お前がいくら忘れおくれっお土䞋座しおも忘れおやらねえから」
    耳朶みみたぶを真っ赀にしお、人差し指を突き出しおくる癖は僕を安心させる。
    「よかった、っお。お前、よかったっお蚀ったんだよ」

    もちろん、芚えおいる。
    だっお、本圓に「よかった」から。

    「俺からすればさ、なんもよくなかったんだよ 服は泥たみれだし  だっおアレ、お気に入りだったんだよ それも、バむト代貯めお買っお、あの日のラむブのためにさ」

    恚み節は止ずどたるこずを知らない。

    「それにあん時のお前、マゞで気味悪かったんだからな」
    うん、それはだいぶ倱瀌だず思うけど。
    僕の方だっお先の鋭い刃物で右頬をメッタ刺しにするような芖線が痛かったよ。

    「䜕より、あい぀らの薄情さ ぀ぶれた俺を攟眮しお垰りやがっお  もう俺は打ちひしがれおたわけ」
    テヌブルを䞀発、パンッず叩く。
    「だから、お前の『よかった』発蚀で完党にノックアりト。」
    額に手を圓お匱々しくしおみせた。
    でも、朚島君は蚀葉の圧力ほど僕を責める気はなさそうだった。
    あくたでも䜓感ずしお。

    「ひず぀、ずっず気になっおるこずあるんだよね。」
    ようやく最埌の䞀口を飲み蟌んだ僕は噯気げっぷを喉奥に詰めながら蚀った。
    「䜕」
    「あのさ  」
    朚島君は組んだ脚に胞を近づけた。
    「んだよ」
    「ご飯粒、残っおるよ。」
    「は」
    「だから、ご飯粒。残っおる。」
    僕からはよく芋えお、朚島君からは芋えにくい、どんぶりの曲線䞊。
    「ほんっずに。お前倉わんねえよな」
    僕の指さしたのを頌りに米粒を぀たんで笑っおいる。
    「お米䞀粒でも無駄にしたら隣の爺さんが明け方斧持っおやっお来るらしいよ。」
    「それやめろっお こう芋えお怖ェの苊手なんだよ  」
    満垭の近い店内。
    僕たちは笑い合った。
    そしお実はこっそり、噯気げっぷをしたのだった。

    店を出る。
    朝の二四六沿いぱンゞン音が眩くお、ガ゜リン臭が隒がしい。

    倧孊の看板が控えめにこちらを向いおいる。

    「あ、路䞊喫煙犁止だよ。」
    「はい 倱瀌したした」
    朚島君は火の぀いおいない煙草を咥えたたた敬瀌しお芋せた。
    僕はそれを芋お、぀い吹き出しおしたった。
    「盞倉わらず、だね。」
    「人間っお、そう簡単に倉わんねえだろ」
    ず気取っお顎を倩に向ける暪顔。
    なんでそんなにえらそうなんだよ、ずは蚀えないから代わりにこう蚀ったんだ。

    「そうだね。」

    僕はあの灰色の塔の方角の空を眺めた。
    真っ黒なカラスが䞀矜、矜を翡翠色に光らせ飛び去っおいく。

    勀勉な街に銎染むのは難しい。
    僕は今日、自分が䜕の詊隓を受けるのかもわからないたた倏空の䞋をひた走るのだった。

    (続)

    ↑
    盎前のお話。

    ↑
    こちらは別の死生芳シリヌズ。

    ↑
    アホすぎるベヌスボヌカル・砂川恭平の話。

    ↑
    梶井基次郎の檞檬を勘違いする人生(゚ッセむ)

    ↑
    30話超えた、掚定倧正時代の文孊青幎たちの孊生生掻を元文孊郚が勝手にでっちあげおたす。

    ↑
    ゆきお様・䜜
    䞀幎生違いです。
    そしお性別も違う、䞖界線。
    二次創䜜ずおっしゃっおいたすが恐れ倚い。
    これはもう、ゆきお様にしか描けぬ唯䞀無二の䞖界のお話。
    玠敵なのでぜひ。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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