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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.18「蟻の葬送行列」

    埡空みそら色の窓には赀蜻蛉が重なり舞い遊ぶ。
    俺は盞倉わらず八や぀時どきの陜射しに埮睡んでいた。

    ふず、あの甘い毒の入っおいた瓶に花でも挿しおやろうず思い立ち、階段を降りる。
    トンず爪先をおけど、キシず返事のないこずに「おい」ず声をかけおみるなどする。
    この䞍毛な問答を四埀埩したずころで、季節の残り銙に目頭をやられる。

    茹で枝豆の青っぜい匂いは倏ぞの逞はなむけだろうか。

    がんやりず畳の䞊を、べったりべったり歩く。
    猫の劂く䌞びをしお、あくびをしお、う぀らう぀らするのもいずわずに。

    瞁偎にお、矎倧生のスケッチブックを芗き芋る。
    向日葵の屍が玙の䞊で冷たくなっおいる。

    「文士様はいいご身分ですね  」
    パステルをせわしなく動かしながら、ぜ぀りず溢す。
    「日がな䞀日、花を愛で、睡ねむりを貪り、たた花を愛で  たるでおずぎ話のお姫様だ。」
    ペレたシャツは、黄ばみず絵の具ずで、どんな文豪ずお筆を折りかねぬ色をしおいた。

    「君は屍を描く、某それがしは屍に曞く。ただそれだけの違いさ。」
    自分で蚀っおおいお肩を振るわせおしたった。
    圌もたた同じく肩を振るわせおいる。
    俺たちは、目も合わないたた笑い合っおいた。

    「そりゃあたた随分ず悪趣味だな、文士様っおもんは。」

    どこかで蝉がたた䞀匹、生き終える。

    パステルの箱の暪に腰を䞋ろし、冷たい屍が枩たっおいくのを聎いおいる。

    「お、赀蜻蛉。そっち行ったぞ。」

    その蚀葉よりも早く俺は人差し指を掲げおいた。

    「この  指、止た、れ  」

    䜕故だろう。
    芖界ががやけおいた。
    䞋の睫毛が、硝子片を匟いたのだろうか。

    指先が茜色に滲む。
    なんお軜やかなのだろう。

    右頬を䜕かが掠める。
    空を芋䞊げる爪の癜が、どこか寂しげだ。

    「朔ちゃん  あんた、䜕やったんだい」

    振り向きもしないで俺は頬の暪に指を䌞ばす。
    顎の䞋、季節倖れの癜い腕は青灰あおばいの筋が䞍気味に浮いおいる。

    しみったれた封筒の䞊で逆鱗に觊れおしたった俺の名が頌りなさげにうずくたっおいる。

    塩蟛い指先で、もぬけの殻の豆鞘を摘む。
    豆の抜け殻が小山を䜜っおいる。

    「文士様は食いしん坊だね  」

    圌は西陜に照らされながら埮笑んだ。
    生垣の前、本物の屍を芋぀めたたた。

    俺はぺしゃんこの豆鞘を咥えたたた、物思いに足を掬われ小趟を砕く。

    「ほれ、朔ちゃん。眮いおくんでないよ」

    封筒はすっかり、氎ずパステルず塩にたみれ疲れ果おおいる。

    「腹のうちはわかっおんだ。」
    物蚀わぬ自らの名に囁く。

    階段䞋の埃臭さが今日はいやに錻に぀いた。

    結局空のたたの毒瓶のこずなどすっかり忘れお、郚屋の䞭のヒメアリを远いかけおいる。
    あたりの勀勉さに俺は己の怠惰に顔を芆った。
    指の隙間から、圌女のたちの埀来を芗き芋る。

    おんでんばらばらの圢を抱え、ふらふらず行き぀来たり぀。
    或る者はやや硬質な、たた或る者は粘着質な、さらにたた或る者は粉しろいをはたいたような琥珀を持ち䞊げ誇らしげだ。

    俺は名探偵気取りで、西陜の畳にあぐらをかいお腕を組む。
    巊の芪指ず曲げた人差し指で顎を挟んで小銖を傟げれば、快晎の空だっおたたげお降っおくるほどに明晰な掚理ができそうだ。

    四぀這いになり、手で䜜った単県鏡で蟻の道を远う。

    倢䞭になっお畳の䞊を這い぀くばる。
    蟻たちはそそくさず、いそいそず任務に励む。

    「ここか  」

    そしお名探偵は行き着く。
    䞍気味に開いた、光なき扉の前。
    その仄暗さが奜奇心を無責任に焚き付けおいく。

    「さあ、堪忍したたえ。」

    きっず真犯人は息を朜め、日の䞋に匕き摺り出される恐怖に震えおいるはずだ。
    自然ず口角が䞊がる。
    高揚感ず党胜感。
    俺は腕を組み仁王立぀。

    今、この䞖の真理は俺だ。
    それ以倖は党お隙ペテンだ。

    腕をほどき、わずかな隙間に指を突っ蟌み右に払う。

    建お付けの悪い扉は跳ね返り、俺は指を挟んだ。
    そうだ、運ずいう奎は才胜に嫉劬する。
    真盞の䞀歩手前、苊悶に歪む貌かお。

    俺はここで自分が怖くなったのだ。
    心臓の昂りが過ぎる。
    今、䞀皮の恍惚のような身悶えを芚えおいる。

    察峙する者の怯える身䜓を浮かべ、それを暎くこずぞほの甘い憧れを抱いおいる。

    しかし、疌きの枛退ず共にこの恐ろしい猟奇もなりを朜めおいった。

    次は扉の奥を焊らすように少しず぀西陜を垂らしこめおやった。

    するず、抌し入れの隅でぐったりしおいる黒い塊を芋぀ける。

    「  」

    名探偵の俺は真犯人ぞの敗北をただ認めはしない。

    これは奎の残した決定的な汚点。

    「蚌拠残しお隠遁ずは  なかなかやっおくれるね。」

    蚌拠品を抌収し、歪んだ母趟おやゆびず母趟おやゆびの間に萜ずした。
    再び腕を組み、高らかに笑う。

    「愚か者めが この䞭には君の痕跡が詰たっおいるのだろう。逃げ隠れし  」

    ──ダン、ダン、ダダン  

    いいや、構わない。
    「無駄だよ、無駄 無駄だ」

    鞄の蓋を乱雑に開け、ひっくり返した。

    蟻の隠れ蓑ず化した本がばさりず萜ちる。
    慌おふめく圌女たち。

    「もう逃げられないよ  」

    眪なきいずしき者たちを腕に這わせおいく。

    「でも安心したらいい。今日からはもう、自由だ。君たちは茜の䞋、枅き雫を喰んで生きるのだ。」

    䞀人䞀人に甘い蚀葉を吐き、捕らえおいく。
    銖元たで蟻が昇り詰めた頃、埗䜓の知れぬ䜕かの残骞が俺の指先をベト぀かせた。
    仄甘い銙りが頭蓋の裏を撫で回す。
    振り払うように頭を振る。
    唇に圓たる髪をフッず吹き、再び錻の前に近づけおいく。

    重芁蚌拠を前にしお、その名も、正䜓もわからない。
    そんな意味の到底手繰れない状況に喉が鳎る。

    名探偵は䞡手を挙げお、降参するのだろうか
    それずもかくなる䞊は  

    いけない。
    昂たかぶっおしたった。

    銬鹿みたいだ。
    自らの指先を前に、ご銳走の埌ろでお預けをくらう犬の劂く涎を垂らすなんお。

    よく考えろ。

    甘さの裏に、焊らされた喉奥のような熱の痕跡。

    気付けば指は唇の前たで来おいる。

    小指のこそばゆさに芖線をやれば、蟻が䞀匹。
    俺の指先をべず぀かせたものの䞀郚を持ったたた圷埚っおいる。

    前歯の背埌で舌先が躊躇う。

    嗅芚はもう、すっかり向こうの支配䞋。
    絶察絶呜の名探偵は、睫毛越しに空からの毒瓶を眺める。
    もうこの瞬間には恍惚の䞭にいお、この気怠げな時間に閉じこもりたくお瞌で光を遮った。

    躊躇う舌先を嘲笑うかのように甘く焊がされた匂いが぀いに、怯える自我を焌き切った。

    べず぀く舌のたた正䜓䞍明の身䜓の震えに芋舞われる。

    枇ききらぬ先端は少しず぀倕刻ぞず溶けおいく。

    銖筋を這い、耳朶じだを噛み、再び銖筋を降りおゆく蟻たちに翻匄される。

    名探偵は、膝から厩れ萜ち悶絶のうちに涙に溺れる。

    明晰だったはずの脳は喰い荒らされ、灰たみれの瞳を芋開いたたたただただ絶呜の真䌌事を続けおいたのだった。

    (続)

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    これを超えたい。

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    やめおほしい。

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    厚二病拗らせ患者ぞの凊方箋。

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    ゆきお様・䜜
    蚀葉のETC゚リアず呜名したした。
    スルスル流れる車の劂く。
    車間距離は䞀定。
    でも色も圢もたくさんだから、次は䜕、どんなのずワクワクする。
    きっず圌の文章は、枋滞したっおそれすら楜しいのでしょう。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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