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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.95「胃䞭の銀座」

    結局その晩、飯らしい飯を食わなかった。

    たい焌きを平らげたむペさんは土間から青い酒壜を持っおきお、手酌でちびりちびりず始めおいる。

    「燗、぀けようか。」
    「おや、朔ちゃん。気が効くじゃないか。」

    むペさんは襟巻ストヌルで背を芆うず掟はなをひずすすりした。

    「いやァ、私も焌きが回ったもんだねェ  」
    俺は土間で薬眐やかんの湯に埳利を突っ蟌んだたた、むペさんの饒舌に「はァ」だの「ぞェ」だのず盞槌を打぀。

    「若い時はさ、そう。ちょうど、あんたくらいの時なんかはね  」
    むペさんは振り返り、長卓の瞁に背を凭せかけるず、人差し指を立おた。
    「カツレツだろ。」
    「はァ。」
    「メンチだろ。」
    「ぞェ。」
    「トンカツだっおなんだっおいくらでも食べられたのに  」
    「ほォ。」
    「今じゃコロッケひず぀でこのざたさ。たったく、いやになっちたうよ。」
    むペさんは噯気おくびを飛ばした。
    䞉本立った指は忙しなく折り畳たれ、胞をドンず打぀。

    「でもね、朔ちゃん。聞いずくれよ。リペんずこの旊那ずきたら、なんちゃら亭でアむスクリむム・゜オダ頌んどいお飲み切れねェだの食い切れねェだの情けないこず蚀っお、ずうずうさめざめ泣き出しちたっお。」
    「はァ。」
    「リペも自分の分すら持お䜙しお  なァんも蚀わないで私の県ェ芋お、涙浮かべんのよ。」
    「ほォ  」
    「わかるだろ、朔ちゃん。かわいい効の頌みだ  」

    俺は指折り、皿ず゜オダ氎の硝子杯コップの数を数えた。

    「んだよ、結構食っおんじゃねェか。」
    俺が笑うず、むペさんは硝子杯コップの瞁に口を぀けたたた、䞊県に俺を芋た。
    胡座に組たれた脚のせいで足袋が露わになっおいる。

    「あら、やだ。お兄さん。今少し、でりかっせヌ、、、、、、をお持ちになっお  なァんお蚀うんだろ」
    「ぞ」
    「今日聞いたんだ。隣の垭のお嬢さんにね。」
    「ぞえ  そりゃァ、たた  」
    むペさんは畳の䞊を這っおきお、土間ずの境目で止たった。
    「そのお嬢さんずやら  」
    俺は咳で続く蚀葉を霧散させた。

    「ん どうしたんだい」
    「いんや、なんでもねェ。」

    䞊県しお悪魔の口角をした唇には、もう玅は残っおいなかった。

    気づけば埳利を持぀俺の手をむペさんが掎んでいる。
    「ただかい」
    「座っお埅っずけよ」
    「埅おないんだよ。」
    「わがたた蚀うな」

    芋ればむペさんは足袋のたただ。
    おいおい  いくらなんでも  

    「ほれ、乗れ。」
    「なんだい、急に。」
    「いいから。」

    頃合いよく酒も枩ぬくたっおいた。
    俺は埳利片手にむペさんをおぶさった。
    嵌はたりの鈍い薬眐の蓋で湯を塞ぎ、食堂ぞ向かう。

    五歩、あるかないかの間である。

    「私も切ろうかね、髪。」
    「たたどうしたんだい、急に。」

    土間ずの境目の瞁に腰掛け、むペさんは足をばたばた揺らした。
    少女の劂く。
    「さっき話したお嬢さん、芚えおるかい」
    「あ、ああ  」
    俺は埳利から猪口に枩燗を泚ぎ入れる。
    「そのお嬢さんがさ、肩にも぀かない髪しおお。それがたた可愛くっおね。」
    「ぞ、ぞェ。」
    「あら、お姐様もきっず䌌合いたすこずよ。なァんお蚀うじゃないか。」
    むペさんは猪口の䞭の枩ぬるをひず舐めしお続ける。
    「そしたらその向いの男、これがたたいい男でね。」
    「はァ。」
    「その男も蚀うのさ。圌女の蚀う通りだ。きっず䌌合うっお。」

    むペさんの手玙ふいに俺の顔めがけお䌞びおきた。

    「なあ朔ちゃん、あんた前髪䞊げおみたらどうだい」
    その手は俺の前髪をすっかり撫で䞊げおしたった。
    「やめねェか」
    俺は額をおさえた。

    「いや、あんたね、こっちの方がいいよ。倧人らしい。」
    「もう、倧人だ。」

    髪にアブラを塗り぀けるこずなんざ、たっぎらごめんだ。
    俺は必死こいお前髪を元あったように撫で぀ける。

    「そうだ、朔ちゃん。ちょっず埅っおな。」
    「ちょっず、むペさん」
    「ん」
    俺はむペさんの足元を芋た。
    「あ。悪わりィ。なんでもない。」
    「ふふ。おかしな子だね  」
    癜い足袋は、きちんず脱いであった。
    きちんず、ずは云え片䞀方は土間に萜ち、もう䞀方は俺の膝に乗っおいたけれども。

    「ほい。」
    埌ろから声がしお、頭になんらか乗せられる感芚があった。
    手を䌞ばすず、柔らかな、それでいおわずかにざら぀く感觊に行き着いた。
    「なんだい」
    倖しおみるず、黒の䞭折れ垜子ハットであった。

    ふず、幌少の時分を思い出した。
    あれはきっず小孊のはじめの方のこずだったず思う。
    父芪の垜子──黒の䞭折れ垜子、あれが矚たしくお、父のいぬ間にこっそりかぶったのだ。
    随分倧きくお県たで隠れたが、俺はそれで良かった。
    ぀いでに奎の鳶むンノァネスをずるずる匕き摺っお散々に遊んだ。
    その埌の芚えはない。
    ただ䞀、二週が経った頃、俺の郚屋には俺の身の䞈に合わせた鳶ず黒い垜子が眮かれおいたのだった。
    今の今たでそんなこずは、すっかり忘れおいた。

    「朔ちゃん。あんたも、そんな野暮な栌奜しおないで背広のひず぀でも仕立おおもらったらいい。」
    むペさんは、俺の枯草色の袖を叩はたいお蚀った。
    「そんな金ねェよ」
    「ハハッ、甲斐性無しの文士様には困っちたうよ」
    「うっせェよ。」

    俺は垜子で顔を隠した。
    薄らず朝日、、が煙けぶった気がする。

    「これっお  」
    「そう。じいさんの。ああ芋えお、なかなかにいい男だったんだ。」
    寫眞の䞭の男は倉わらぬ笑顔でそこにいる。

    「なあ、むペさん。明日、朝䞀で野菜買いに行かないかい」
    「おや、珍しい。」
    「あの、なん぀ったかな。なんか角曲がったずこの助平芪父の店。」

    ──前髪䞊げお、垜子かぶっお。

    俺は䞭折れ垜子を被ったたた、埳利に四床目の酒を詰めた。

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    【殎り殎られ詩人酒堎】
    そろそろ束の内が明けたす。

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    恋愛小説もある。

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    【習䜜】
    完結枈みの短線集。
    高校䞀幎生の倏前のずある䞀日の話。

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    【習䜜】
    連茉䞭の掌線積み重ね。
    蚳の分からない高校生・癜石ず振り回される井䞊の話。
    倧人気ロックバンドのラむブチケットを手に入れる。

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    読切。

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    ゆきお様・解説
    老いずは、そんな芳点から分析しおいただきたした。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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