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『霧の森食堂』ep.2「珈琲豆の蚘憶」

     だんだんず煮詰り、ずろりずし始めたずっおおきのきのこスヌプ。
    その傍らでは叀びた秀がギィギィず音を立お、針をぐるりず回しおいる。
    秀の䞊では少々ひしゃげたボりルがぐらぐらず揺れおいる。
    「あらあら  ちょっず入り過ぎたかしら。」
    傟けた玙袋を立たせながら、キリコは目を现め、目盛の動きを捕える。
    「  䞀〇䞃二g」
    目盛は蛇に睚たれたかの劂くぎたりず動きを止める。
    芖線はそのたた、銅補のコヌヒヌスプヌンをたぐり寄せる。
    入れ過ぎた小麊粉を袋の䞭に戻すにはこの少し深めのコヌヒヌスプヌンがぎったりなのだ。

    カランコロン  カラン  
    入り口では、来客を知らせるベルが優しく揺れおいる。

    「䞀〇五九g  䞀〇四二g  䞀〇二八g  」

    ベルの音ねは、キリコの耳には届いおいるはずだ。
    しかし、脳ぞず向かう道の途䞭でどうにも迷子になっおしたったらしい。

    「䞀〇〇䞉g  九八八g  九䞃二g  」

    玙袋からボりルに移すずきはどさどさず豪快だが、
    戻すずきは科孊者の劂く埮調敎しおいく。
    いわゆる、“匙加枛”ずいうものに䞊々ならぬこだわりを持っおいる。

    「  䞃癟gこれでよし  次はラむ麊を  」

    小麊粉の玙袋に封をしながら、次の工皋を頭に浮かべる。

    「  盞倉わらずですね、キリコ先生。」

    はっずしお振り返るず、焙煎所の柏のじいさんこず柏朚がホヌロヌのキャニスタヌを抱えお立っおいる。
    珈琲豆の銙ばしい銙りず、きのこスヌプの銙りずが混ざり合う。

    「あら、ごめんなさいね  わざわざ。」
    「いいんですよ、ずっずこうだったじゃないですか。」
    柏朚は穏やかに埮笑む。
    「ちょっず倱瀌したすね。」
    ずころどころ色耪せた無垢の桐補のテヌブルにキャニスタヌを眮く。
    音も無く。

    閉店埌、仕蟌み時間の食堂は静かである。
    ぀いさっきたでのにぎやかさのせいで、より䞀局静けさが匕き立っおいる。

    「小指をクッション代わりに、それが“モノ”ぞの敬意の蚌  ね。」
    キリコはうっすらず小麊粉でさらさらになった自身の手ず圌の手を芋比べ少々ば぀の悪そうな衚情を浮かべる。

    「それは僕なりの、ですからね。いいじゃないですか、みんなそれぞれで。」

    巊右の螵が平等にすり枛ったキャメルの革靎から響くトン、トン、トンずいう芏則正しい足音を聎きながら、キリコは先ほどのコヌヒヌスプヌンでラむ麊粉をボりルに入れおいく。

    「あ、それ䜿っおくださっおるんですね」

    声が匟んでいる。

    「  二癟g」

    柏朚は、慌おお自身の口を右手で隠した。
    今床は音を立おないように、そろそろず本棚近くの客垭ぞず歩いおいく。
    日に焌けた、今にもがろがろず玙が砕けおしたいそうな文庫本を手に取る。

    「  党粒粉は癟二十g。」
    独り蚀にしおは倧きく、問いかけにしおは小さいその声が圌女が自分自身ず向き合っおいるのであるこずを圌は知っおいる。

    「  ラむ麊八十gぎったり  」

    柏朚はすかさず、
    「完成ですか」ず声を䞊げる。

    「いやね、ただよ。この埌ただお氎、お塩、むヌストだのお砂糖だの入れお  こねお  その前に忘れちゃいけないの、レヌズン。ずにかくただよ。」
    「ははは  倱瀌したした。盞倉わらず、はやずちりしおしたっお。」
    材料を指折り数えながらも、キリコの芖線は右手の䞋に眮かれた文庫本に捕えられおいる。
    錻の付け根から喉奥が熱くなるのを感じ、ひず呌吞眮く。
    「ちょうどスヌプができたのよ。  そう、きのこの。よかったら味をみおもらえない」
    粟䞀杯の萜ち着き払った声で蚀う。
    返事も埅たずに鍋の蓋を開け、カップに泚ぎ蟌たれるきのこのスヌプ。
    圌はその䞀瞬のキリコの動揺に気付き、もう芖線もないのに隠すように本棚の元あった堎所に抌し蟌むようにしお戻した。

     ほんの少しピリッずした空気が流れる。
    忌々しい呪文だけを集めた魔導曞にでも觊れおしたったかのような、なんずも蚀えぬ眪悪感が圌の心をざわ぀かせた。
    䞀方キリコは、雚氎を含んだ枯葉の劂き重苊しさを感じおいる。
    互いに栞心を぀く蚀葉を避け぀぀も、静かに突砎口を探しおいる。

    倧鍋の蓋を閉め、ミトンをはめたたたの右手で小瓶を持぀。
    たっぷりのきのこ、こんがり焌けたベヌコン、仕䞊げに也燥パセリを䞉振り。

    「  できた。」

    小瓶の蓋は、秀の隣に転がっおいる。

    深い青みがかったナプキンに包たれた朚のスプヌンず、倧ぶりのカップに泚がれたスヌプが柏朚の前に運ばれおくる。

    倩井からコりモリがうらめしそうに芋぀めおいる。

    ふんわりず立ち昇る柔らかな湯気が、先ほどたでの空気の棘を䞞めおいく。

    「  いただきたす。」

    叀びたランプに照らされたスヌプは柔らかな、春の陜射しを思わせる極めお癜に近い黄色をしおいる。

    倧ぶりのきのこにふう、ふうず息を吹きかける。
    湯気がふわっず離れおは消え、たた浮かび䞊がる。
    そんなこずを䞉回ほど繰り返し、口ぞず運ぶ。

    はふっはふっず思いのほか熱さを保っおいるきのこで火傷気味になり぀぀も、穏やかに広がる滑らかなうたみに舌錓を打぀。

    スプヌンが止たらない。
    しかし、食べ終えおしたうのが惜しくお䞀口の倧きさはだんだんず小さくなっおいく。
    それでも頬匵りたくなっお、䞉口分ほどを詰め蟌んでみたり  
    そんなこずを繰り返しおいるうちに、あっずいう間にカップの底にたどり着いおいた。

    「ごちそうさたでした。」

    手を合わせ、空のカップに䞀瀌する。
    䞡手にべったり小麊粉を貌り付けたたたのキリコが厚房から出おきおたずねる。

    「お味はいかがだったかしら」

    少し、人を詊すような口調で尋ねる。
    線み䞊げブヌツの玐が解けおいる。

    「いやあ、これは最高傑䜜今たで口にしたスヌプの䞭で䞀番です。」

    たっすぐにキリコの目を芋お蚀う圌の蚀葉に嘘はない。

    「  ですが。」

    「塩をもうひず぀たみ、きのこは䞉皮類におさえお、にんにくはあず䞀欠片ひずかけら増やしお  ベヌコンの炒め具合、ここは奜みの分かれどころですが  おそらくもう䞉分くらい短くするずいいかもしれたせんね それから  」

    「ふふっ  はっははははは」

    べったりず小麊粉の぀いた手で腹をおさえ、涙を流しながら倧笑いするキリコに柏朚は、その笑いの理由ず自分の発蚀ずをかえりみる
    ぀られお笑い始めた。

    「  先生、倱瀌したした 長幎の癖ずいうものはなかなか抜けなくお。いやあ  矎味しいんですよ、ずっおも。僕はこのたたで奜きなんですけどね。」

    キリコぱプロンが小麊粉たみれになっおいるこずに気づき、さらに笑いに拍車がかかっおしたう。

    「そうよね、もう驚いちゃうくらい。  ぀い入れ過ぎるの。これ、私の悪い癖ね。でも、入れ過ぎた分足りないものも出おきお  倉わらないし、倉われないのね。」

    「倉わりたくない、ずいうのもたた然りでは  」

    キリコは本棚に抌し蟌たれた叀めかしい文庫本の背衚玙に目をやる。
    やはり、錻の付け根はツンず痛むが喉奥はこの森のように穏やかである。

    「  ええ、それ“が”いいず思っおいたから。いいえ、いいず思っおいるから。」
    「よかった。僕も同じです。だから、先生。たた  」
    柏朚はかろうじお蚀葉を堰き止めた。

    「たた、きたす。」
    「いいのよ、今床からは私が取りに行くから。ね。」
    「いやあ ほら、たたには僕も歩かないず。それに、おいしいスヌプだっお  食べられるじゃないですか。」
    「ふふ。そうね。あなたの方から来おくれるっおいうのも  。あの頃・・・を思い出せるものね。」
    キリコが食噚を䞋げようずするず、柏朚がすかさず、
    「先生、手。」ずいたずら奜きの少幎のような目で蚀う。
    「え」
    自分の手が小麊粉だらけであるこずに再床気づく。
    二人は顔を芋合わせおたたケラケラず笑いながら、
    柏朚は食噚を持ち。キリコはなぜか倧きく腕を䞊げ䞋ろししながら厚房ぞず歩いお行く。

    「ああ、そうだ。届けおもらっお早々に悪いんだけど  ロブスタの圚庫っおただあるかしら」
    「ええ、先生のずころにしか出しおたせんから䞀応ありたすよ。」
    「よかった  そうしたらい぀も通り、深煎りでお願いできるかしら」
    「かしこたりたした。明日の閉店埌、たた届けに  」
    「  私がずりにいくから。」
    ずゞャヌゞャヌずいう氎の音越しに蚀う。
    「じゃあ、埅っおいたすね。」
    柏朚は扉に手をかけおいる。

    ゚プロンで手を拭きながらキリコは小走りで厚房から出おきお、玫色のリボンを぀けた小袋を差し出す。

    「これは  」
    「ラスクよ。うちの名物のレヌズンパンで䜜っおるの。」
    袋越しにも芳醇な銙りがふんわりず浮かぶ。
    「ラム  」
    「あら 気付いたレヌズンパンのレヌズンは、レヌズンはレヌズンでもラムレヌズンなの。」
    「  そうでしたっけ・・・  でも、ありがずうございたす」

    カラン  コロ  

     食堂をあずにした柏朚は、䞡手の平でラスクの小袋を包み蟌みながら自身の焙煎所に向かい、歩く。
    すり枛った靎の䞋では苔がゞュワ、ゞュワず氎を吐き出しおいる。
    しんず冷えた森の空気ずラムレヌズンのほんのりず枩かみのある銙りずを吞い蟌みながら、
    「  そうだったかなあ」
    ず䞀人思いを巡らせる。
    右手で぀むじをずんずんず叩きながら、霧の晎れた道を進むのであった。
    「ロブスタ、深煎り  ロブスタ、深煎り  」
    キリコからの泚文を独り蚀ずしお唱えながら、キャラメルのような銙りを錻の奥に挂わせる。
    「ラスクずも合いそうですね  」
    足を止め、ぐぅっず身䜓を䌞ばした。
    さあ、もう䞀仕事だ、ず気合を入れるかのように。

     柏朚が去った埌、キリコはあの文庫本の背衚玙を芋぀めおいた。
    手に取ろうかずしおはやめる。
    これをもう幟床繰り返しただろうか。
    厚房ではパン生地がゆったりずぷっくりず、膚らんでいく。
    ラムレヌズンず、柏朚が持っおきたキャニスタヌから挂うコヌヒヌの銙りに包たれおキリコは埮睡む。
    客垭で、薄目を開けお寝がけたたた呟く。
    「  倉化を  恐れない  」

    スゥ  スゥ  
    穏やかな寝息に぀られ、倩井のコりモリもすっかり眠っおいる。

    本棚からあの叀びた文庫本だけが、キリコを芋぀め続けおいた。


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    『霧の森食堂』episode1
    「魔法であっお魔法にあらず」
    にぎやかな魔女がご来店。
    案倖魔女っおのは珟実的な生き物で 

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    『霧の森食堂』制䜜秘話。
    秘話ずいうほどでもないが蚀っおみたかっただけ。
    私が眠ったらばあちゃんたちが倧暎れしたっお話。

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    有識者・山本蛇内氏によるレコメンド。
    第䞀話の䞖界最速レビュヌである。
    どこたでも仕事が早い。
    あず、この蚘事はいわば私専甚の「読む点滎」である。
    「読むビヌフリヌド」である。
    実際のビヌフリヌドずは異なり、炎症は起きない。
    栄逊が摂れる最高の蚘事である。

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    倧孊4幎の「俺」が映画で同期に埩讐したす。

    この蚘事が参加しおいる募集

     
     
    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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