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『殎り殎られ詩人酒堎』ep.41「神経質な䞇幎筆」


    たかだか二文字を拒めなかった俺は、光の䞭ぞず匕きずり蟌たれおいく。
    長く闇に沈んでいた瞳は、県前の灯あかりを拒んだ。

    䞖界の倧半が癜く、狭たっおいる。
    捕たれた腕の先、がんやりず青緑色の圱を芋る。
    也いた品のある足音に、俺の足音が続く。
    冷え切った足はも぀れも぀れ、だんだんず歩くこずすらたたならなくなっおいた。

    少しず぀瞳が光ず銎染んできた頃、俺は朧げな蚘憶の䞭の景色を暪倒しに芖おいる。
    吊、眠っおいたのだ。
    あの光の䞭ぞず堕ずされる恐怖のあず、たった今睫毛を擡もたげるこの瞬間たで、俺は眠っおいたらしい。

    䞇幎筆で玙を搔く硬い音が響いおいる。
    トメ、ハネ、ハラむ  
    そのどれもが神経質に敎いながら進んでいく。
    これは間違いなく、頭の䞭に物語の圚る人間の所䜜だ。
    珟実䞖界ず完党なる虚構の䞖界ずを結ぶ物語。
    それも綿密に緎られた眠が蚈画的野攟図に散りばめられた理路敎然ずした完党無欠の──

    「その通りだ。」
    「え  」

    䟝然ずしおその神経質な筆尖ひっせんの音は続いおいる。

    声のした方ぞ頭を向けるず掋燈ランプの炎の揺らめきの向こう、曞物かきものに耜る男の姿ががんやりず浮かび䞊がった。
    髪に阻たれ、衚情はうかがい知れない。
    しかし刹那に移りゆく光を、音を、匂いを、その党おを逃すたいずする執念、そしおそうせざるを埗ない自身ぞの果぀るこずなき諊念のようなものを感じずにはいられない。

    あれほどたでに匵り詰めおいた音が傟れ蟌むように速床を増し、乱れ打぀錓動が劂く急せいた。
    そしお、最埌。
    静謐に終焉の笊号が打たれた。
    男は掋燈の炎を消す。

    光は燭台の䞊で燃ゆる炎のみずなった。

    朚造りの床を打぀靎の音ねず共に近づいおくる。

    「その通りだ。」
    先刻さっきよりも、穏やかな倜闇に溶け蟌むような声だ。
    男は䞞怅子に腰掛ける。

    䞉぀释のチョッキも、銖元の蝶ネクタむも、掋袎トラりザヌも、その党おが神経の尖りを劂実に珟しおいる。
    䞀方でシャツの袖だけがむンクに汚れ、䞍芏則に皺が寄り集たっおいた。

    「飲むか」
    俺の半開きの目に映るりヰスキヌの小瓶。
    動きに合わせ、燭台の炎が揺らめいた。
    「いいえ、遠慮しおおきたす  」
    「そうか  」
    頬の蟺りたで睫毛の圱が萜ちる。
    憂いの䌏目が喉を灌いた。

    頭が重い。
    瞌が重い。
    酩酊によく䌌た身䜓の鈍りで、枕から頭を離すこずができずにいる。
    ただ、俺は確かめたい。
    この脳を蕩ずろかす感芚はなんだ

    そしお、あの癜い光は幻だったのだろうか。

    燭台から䌞びる花の圱  

    ──月䞋銙チュベロヌズだ  

    ふいに目尻をこがれ萜ちおいった蚘憶が胞隒ぎを連れおくる。
    次点、それはもう砕けおシヌツぞず染み蟌んでいた。

    「先生  」
    「先生 お前にそう呌ばれる筋合いはない。」
    「  」
    「お前が俺の教え子だったこずなど䞀床もない。」「  」
    「孊籍もないのに勝手に居座ろうずした、所詮迷惑ないち孊生・・・・に過ぎない。」
    「  」
    「ならば  」
    男は䞞怅子から降りるず寝台の隣にしゃがみ、目線を察等にしお蚀った。
    「俺をそう呌びたいのなら、本気で孊んでみないか」
    「え  」

    「萜第しおるのに  」
    「お前、思いの倖保守的な人間なんだな。芋損なったぞ。」
    孊籍もないのに、ず初めに蚀ったのは先生  吊、あなたの方なのに。
    そう思い぀぀、迫りくる寄る蟺なさを必死に飲み䞋した。

    「䞊原朔也  」

    ──倏の日の、金魚の泳ぐお池でね。
    僕は氎からお空を芋おた。
    赀いお魚、小石の䞊で跳ねおいた。
    君が僕で、僕が君ならよかったね。
    苊しかろう
    苊しかろう
    やっずの思いでお魚掎み、ぶくぶく泡をあげたけど、
    䞀緒になっお空を芋るだけ。
    あの空は  

    「玙の䞭のお前はい぀たでもどこたでも少幎だ。少しは倧人になれ。」

    あの日、俺を呌ばなかった声。
    その声で俺の名を、詩を、叱咀を聎くこずになるずは。

    「なぜ  なぜそれを」
    身䜓を起こそうずもがく俺の県窩を重く甘い花の匂いがいたぶる。
    「子どもには刺激が匷すぎる。」
    癜いはずの月䞋銙は炎の色を受け、わずかに萎れ始めおいた。

    男はおもむろに立ち䞊がるず、壁に掛けられおいた也燥花の逆さ吊りを俺に抱かせた。

    「䜕の花か、わかるか」
    「ええず  糞繰草columbine、ヘリオトロオプ  迷迭銙rosemary  」
    「これがオダマキ、それからこっちが  」

    ただのひず぀、也ききらず湿り気を残し黒く腐っおいる花だったようなものが芋える。

    「  ヒアシンスだ。」
    男は俺の錻先にそれを差し向けた。
    饐すえたような、それでいおわずかに艶めかしい銙こうを感じる。
    しかしそれは、深い寂寥さみしさのような、心臓を背䞭の偎からくり抜かれるような  

    「わかるか   みずみずしいものは腐るんだ。」

    ──君の蚀葉はみずみずしくおいい  

    花束を抱えた腕が慄え始めた。
    あのおぞたしい蚘憶が花々に宿り始める。

    先生  いや、目の前の男の背埌に桜の金释の黝い瞳の青幎が立぀。

    腫れ䞊がる心臓が肺を抌し朰しおいる。
    䞭途半端に吞いかけた酞玠がどっち぀かずに気管で詰たる。

    目をカッず芋開いおそしお唇を動かす。

    こんなにも手も身䜓も慄えるのに  
    声垯だっお慄えるのに  
    慄えるのに震えない。

    「怖かったんだろう」
    圌は俺の慄えに手を添える。

    そしお䞍意に男は燭台の炎を吹き消した。
    䞀瞬、立ち昇る煙を芋たような気がする。
    熱せられた月䞋銙チュベロヌズの匂いが意識を腐敗させたのだろうか  

    党身の力が抜け萜ちる、その瞬間の蚘憶だけが鮮明に残っおいる。

    俺は今、暗闇の䞭を挂っおいる。
    薄煙のように月䞋銙の匂いもわずかに絡み぀いおいる。

    先生  先生  

    ──みずみずしいものは腐るんだ。

    ──君の蚀葉はみずみずしくおいい  

    ──少しは倧人になれ。

    二぀の声が互いに尟を匕き混じり合いながら、頭の䞭で揺れおいた。

    (続)

    ↑
    明治・倧正に惹かれるのはきっず、幌少期を過ごした街が圓時物を残し過ぎおいるせいだ。

    ↑
    前回は蛟が飛びたくっおたした。

    ↑
    【゚ッセむ】
    䞍正はならぬ
    柿食え

    ↑
    千葉雄倧さんず戊いたいアラサヌ男性の物語。

    ↑
    ゆきお様・䜜
    蚀葉っお難しいんだよ。
    力を持っおいるからね。
    意味があるから、難しいんだ。
    そんな圓たり前のようで忘れがちなこずに気付かされる䞀䜜。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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