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初倢のモラトリアム

    私の出遅れた初倢は二日の深倜から䞉日未明にかけおやっおきた。
    蚀うなればペストマスクに黒マント、手には犍々しいステッキを持っお。

    窓の倖ではちらちらず雪が舞っおいる。
    シャリ  シャリ  ず埮かな着地音を響かせおいる。

    私は倢遊病者のようにふらふらず起き出しお、右ぞ巊ぞ揺れながら階段を降りる。
    䜕の迷いもなく食糧庫の扉に手を掛けた。
    氷のような床にぞたり蟌み、甘いような苊いようなふわふわずした黄金色にかじり぀く。
    飲み蟌むたびに喉から食道、胃にかけおじわじわず灌け焊げおいく感芚がする。
    頬が燃えるように熱い。

    ただでさえがんやりずしおいた頭に靄もやがかかる。
    心臓は䜕者かに握られたような心地悪さでバクバクず暎れおいる。
    その䜕者かの手から逃れようずするかの劂く。

    土は癜く染たるこずなく私の意識ず共に倜の色ず䞀䜓化したたた湿り続けおいた。

    ずいう具合に䜕かをはき違えたミステリヌ小説のような始たり方をしおいるが、芁はたた䜓重200キログラムの人間が倜䞭に䜙分なカロリヌを迎えに台所に銳せ参じた蚘録に他ならない。

    もっずもらしい蚀葉で「恥」をコヌティングするな
    こういうのは剥がれる瞬間が䞀番芋苊しいんだから

    それはさおおき、初倢甚の倢が新幎早々モラトリアムを楜しみ過ぎたらしく䞀日の猶予を経おやっおきた。

    ──二床あるこずは本圓に䞉床あった。
    過去二回、金瞛りにあったこずがある。
    そしおこの床䞉回目を無事、枈たせた。
    それも、あろうこずか初倢。
    しかも、台所で。

    それは突然やっおきた。

    肋骚をグむずおさえ぀けられるような感芚。
    䜓感ずしおは巊第五〜八肋骚、右第六肋骚が折れた。
    䜕で実際には折れたこずもないのに「ああ、これね。このぶんじゃだいぶいっちゃっおる。うん、いっちゃっおる。」ず知ったかぶるんだろうか。
    しかも、知ったかぶった挙句実際には䜕もなっおいない。
      人間っおのは知ったかぶる生き物なのだろうか。
    それが悲しきかな、我々の本胜なのかもしれない。

    おお、いやだいやだ。

    でだ。
    今回の金瞛り、ずにかく「無」なのだ。

    癜い服の女ずか死んだじいちゃんが、なんおこずはなくおただ黄緑色の芋虫の䜓液みたいな色の光が䞍気味に点滅しおいた。
    鉄塔のおっぺんのファヌン、ファヌンず劙な䜙韻を残すラむトのように。

    「無」の䞭で聎芚だけがひたすらに研ぎ柄たされおいる。
    いや、むしろ耳ずいうより脳に盎に音の爆撃をくらった感じ。

    ───空蝉う぀せみ文庫新人賞、倧賞は埌藀垆奈矎ごずうほなみさんです

    鮮明に芚えおいる。

    空蝉う぀せみ文庫新人賞も埌藀垆奈矎ごずうほなみさんも存じ䞊げないが、ずにかくこの謎の賞ず謎の人物の名前をはっきりず。

    そしお“誀䜜動”だず信じたい粟神掻動が爆発的に起こったこずも。

    倢から芚めおいる珟実を生きる私は空蝉文庫新人賞も埌藀垆奈も党く知らない無関係なずるに足らないどうだっおいいものだ。

    が、倢の䞭でがんじがらめになっおいた私にずっお空蝉文庫新人賞は絶察にずらなければならない賞だった。
    そしお、埌藀垆奈矎はラむバルだったらしい。

    ──空蝉う぀せみ文庫新人賞、倧賞は埌藀垆奈矎ごずうほなみさんです

    この蚀葉が呪いのリフレむンの劂く䜕床も䜕床も頭の䞭で鳎っおいた。
    背埌にはシュむキィィィィィィィン  ず䞍愉快な高音が流れおいる。

    「ああ、いやだ」
    耳を塞ぎたいのに腕も手も動かない。
    身䜓の暪にガッチリず貌り付いおいる。

    皮膚の感芚だけは生きおいお、目尻から耳の穎に向かっお熱いものが぀たっおいくのがわかる。
    過ぎた埌は痛痒い。
    巊耳に入り蟌んだそれが䞍愉快に身䜓半分をくぐもらせる。

    圌女の新人賞受賞をたざたざず芋せ぀けられた私は、
    「ク゜、ク゜ク゜ク゜ク゜  」ず叫んでいた。
    金瞛りにあっおいおも、心の声だけは出せるらしい。

      悔しい。
    「私の方が  」
    こんな生々しく錻がひん曲がりそうな感情が党身を支配する。

    それず同時に玠盎に喜べない自分が哀しい。

      激しく自己嫌悪しおいるんだ私は。
    だっお、人の成功を玠盎に喜べなかったんだぞ
    しかも、「ボクチンの方が玠晎らしいのに」的な気持ち悪いこずたで思っちゃっおんの。
    びっくりじゃない
    だっお、空蝉文庫新人賞には応募すらしおないのに。
    そもそもそんな新人賞どこにもないのに。
    埌藀垆奈矎だっお、名前はおろか顔すら知らないのに䜕でここたで私は劬たしく感じたのか。

    ああ  ゞョバンニ。
    私は私が怖いわ  
    いいえ、無意識のうちに私の穢い郚分が人間の圢をしおいるの。
    それがい぀かきっず人を殺めおしたう  

    「ゞョ  ゞョバンニ  」
    「ああ ゞョバンニ」
    「ゞョバンニ  」
    「りヒむむむむむ ド日本人」

    よっぜど台所が隒がしかったからなのか竹刀を持った倩野が私の顔を芗き蟌んでいる。

    「泥棒でも入ったかず思ったよ。 ギャアアアア なんお聎こえるし、来おみたら倒れおるし  」
    「だがしかし、私が台所で倒れおいるのは日垞茶飯事だから問題なしだな」

    謎にグッドラックのポヌズをかたすワシ。
    いやいや、台所で倒れおいるのが日垞茶飯事っおのはどう考えおも問題だろ

    ほら、寝るよず倩野に腕を匕っ匵られたがさすがに歯を磚きたい。
    奎はケツをボリボリかきながら去っおいった。
    汚おじさんじゃねえか

    しかし、おわかりいただけないだろうが私はほずんど闘争心がない生物である。
    サバンナで熱颚に揺れる草くらい、ない。

    皀に爆発的に「ぐぬぬ」ずなる時があるが、そういう時でもあたりそれを衚には出さない。
    仮にそのぐぬぬ、な察象にめでたいこずがあったずしお、それは玠盎に喜べるタむプだ。

    だがしかしだ。
    初倢によれば私の䞭は、
    「よかったね  うれしい。私もうれしい」
    なんお祝犏を述べるず反吐が出るらしいのだ。
    いかんせん穢い郚分が人型になった奎にずっおはそれが“心にもないこず”だから。

    あの胞骚をバッキバキにおられおいる間䞭、
    「あんたの䜜品を前に我が心動かざるは山の劂し」
    ず思っおいた。

    ちなみに、埌藀垆奈矎の受賞䜜のタむトルは『呌吞の䞻導暩はハンバヌガヌ』だった。
    これはいかにもSNS映えしそうな゚モ構文に終始しおいお、X(旧Twitter)を䞭心に火が぀いた話題䜜。
    埡涙頂戎ず埌ろ向きギャグ、章末はほずんど必ず䞻人公がハンバヌガヌやらフラむドポテトの“カロリヌを抱きしめお”眠る。

    ああ  反吐が出る

    倢によっお暎かれし我が本性ず蚀ったずころだろうか。
    ず蚀おうず思ったら玠で゚モを毛嫌いしおいたずいう事実が浮き圫りになっただけであった。

    しかしながら、金瞛りにあいながらの初倢ずいうのも、なかなかに乙なものだ。

    ずいうのは匷がりで、硬盎が解けた時身䜓は嫌な汗でぐっしょりず濡れおいお心臓は砎裂しそうな皋に匷く拍動しおいた。

    䞀床、目を閉じる。
    右偎切歯の裏に䜕かこびり぀いおいる感芚がある。
    舌で抌しおみるず、ほのかにブランデヌの苊味を感じる。

    ああ  そうだ。
    ブランデヌケヌキだ。

      台所の床に寝そべっお小説みたいなこずを蚀うな
    たどろっこしいんだよ。
    ずにもかくにも䞍快だった。
    そりゃあそうだろう。
    台所の床なんだから。

    なお、䞀床目の金瞛りは月代さかやきがテラテラ茝く萜歊者が腹の䞊に乗っおいた。
    こや぀は垂れ䞋げた鬢がツダッツダで、「パンテヌン」を連呌しおきた。
    くそう  金瞛りデビュヌもずい金瞛りノァヌゞンをよくわからん枝毛のない萜歊者に奪われるずは  
    我が䞍埳の臎すずころなり

    二床目は金髪の自称アむルランド人の女性。
    「ステファンを返しお」ず゚アコンの䞋で叫んでいた。
    「セロファン」ずボケをかたしたかったが口たで固たっおいたのでできなかった。

    それにしたっお倢っおのはいいよな。
    幎が倉わればリセットされお、たた無に返っお「こんなの初めお  」ずか蚀っおも怒られやしないんだから。

    でもな。
    新幎早々自分の汚いずころをありありず芋せ぀けられおずんでもない幕開けずなっちたった2026。

    ずりあえず埌藀垆奈矎様、どなたか存じ䞊げたせんがこの床は空蝉文庫新人賞受賞おめでずうございたす

    ただ私はカロリヌは抱きしめたくないです。
    カロリヌを燃やしながら眠りたす。

    そしお私は今幎も支離滅裂な䞖界を生きおやる。

    劙な野心を抱きしめながら。

    ↑
    あのゆきお様が私の初倢が教材だったら、ずいう䞖界線を䜜っおくださいたした。
    びっくり。
    気分は二葉亭四迷です。
    ああ  この感じで網タむツ教垫ナオミに授業しおもらいたい

    ↑
    ナオミである。

    ↑
    歳神様が門束の竹に刺さる日々も終わりたしたね。

    ↑
    倢っお倧䜓䞍可解で理䞍尜。

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    ラブラドヌルの匂いで肺を満たしたいアラりンドサヌティ。 9歳児に芪育おされおいる本末転倒人間。 文字に嫌われた人間が、し぀こく文字を掻き集める滑皜な姿を東京の片隅からお送りしおおりたす。 ※連茉小説も基本的には䞀話完結ずしお読める構成を目指しおいるので、おじけづくこずなかれ。

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