
All-In Podcast 解説:Nvidia記録的決算とSaaS復権──米債務危機とがん治療技術の最前線
2026年8月29日
概要
テクノロジーと経済をテーマにしたポッドキャストAll-In Podcastの今回のエピソードでは、市場の関心を集めるテクノロジー企業の最新動向から、米国の深刻な財政問題、さらには最先端の医療技術に至るまで幅広い議論が交わされました。
第1のハイライトは、市場予想を大幅に超える決算を発表したNvidia($NVDA)とSalesforce($CRM)の業績です。AI向けCAPEX(Capital Expenditure=設備投資)がバブルであるとの見方が後退する一方、AIの台頭によって既存のソフトウェア企業が淘汰されるという「SaaS(Software as a Service=サービスとしてのソフトウェア)終末論」の誤謬が明らかになりました。基幹データベースとしての価値を持つ水平SaaSが、AIエージェントと連携して成長を加速させる構造が解説されています。
第2のハイライトは、30年物米国債利回りが5.3%に達したことを受けた、Scott Bessent財務長官の市場介入とそれに対する大物投資家Stanley Druckenmiller氏の批判です。連邦政府の膨大な債務と年間赤字、今後1年間に迫る巨額の借り換えを背景に、価格操作ではなく財政支出の削減こそが根本治療であるとする米国の構造的課題が浮き彫りになりました。
さらに、Moderna($MRNA)の株価急騰を契機としたがんネオアンチゲン免疫療法の可能性と、公的資金によって開発された医療基盤技術が高額な特許薬として囲い込まれることへの倫理的・構造的な問題点についても掘り下げられています。
Nvidiaの記録的決算とAI設備投資の持続性
Nvidiaの四半期決算は、売上高が前年同期比106%増の962億ドル(約15兆3843億円。1ドル=159.92円換算)、純利益が600億ドル(約9兆5952億円)に達し、一時的な要因を除く企業の本業における四半期利益として史上最高を記録しました。市場予想の売上高920億ドル(約14兆7126億円)を大きく上回り、翌年の成長率ガイダンスも市場予想の45%を遥かに凌駕する70%増を提示しています。
この驚異的な業績によって、市場に根強く存在していた「AIへの巨額投資は持続不可能なバブルである」という懸念は覆されつつあります。同社の株価は急伸したものの、高い収益性によってPER(Price Earnings Ratio=株価収益率)は12倍前後の水準にとどまっており、時価総額は5.5兆ドル(約879兆5600億円)規模に達しています。
また、Nvidiaはオープンソース領域の掌握に向けて積極的な動きを見せています。オープンソースのプラットフォームを提供するHugging Faceの120億ドル(約1兆9190億円)規模での買収報道や、AIコーディング企業Poolsideに対する約60億ドル(約9595億円)での人材・技術獲得など、巨額の投資を実行しています。
今後の市場構造について、Chamath Palihapitiya氏は「事業領域の境界線が完全に融合する」と分析しています。主要なハイパースケーラーが独自チップの内製化を進める一方で、Nvidiaは自社製モデルの開発、クラウドインフラの提供、API(Application Programming Interface=アプリケーション・プログラミング・インターフェース)配信まで垂直統合を進めており、全てのプレイヤーが上流から下流まで全領域で競合する時代へ突入しています。
「SaaS終末論」の誤謬と基幹システムの価値
AIエージェントがコードを自動生成できるようになれば既存のソフトウェア企業は価値を失うという「SaaS終末論」が市場で叫ばれていましたが、Salesforceの決算はその懸念を払拭しました。同社の四半期売上高は113億ドル(約1兆8071億円)と堅調で、調整後EPS(Earnings Per Share=1株当たり利益)は市場予想の3.27ドル(約523円)を大幅に上回る5.90ドル(約944円)を記録し、通期売上高ガイダンスも460億ドル(約7兆3563億円)へと上方修正されました。
David Sacks氏はこの反発について、企業が20年以上にわたってバグ修正とコンプライアンス対応を重ねてきたCRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)などの基幹システムを、即席で生成されたソフトウェアに置き換えることはないため当然の結果であると指摘しています。企業活動において最も重要なのは、確実性と信頼性を備えた「正統な記録システム(System of Record)」の存在です。
SalesforceはAnthropicとの提携を進め、対話型AIのClaudeをフロントエンドとして受け入れ、Salesforce内のデータや業務アクションをAIエージェントが直接操作できる環境を構築しています。これにより、一般ユーザーが使いこなせていなかった高度な機能がエージェント経由でフル活用されるようになり、プラットフォームの価値がさらに引き出される構造が生まれています。
ソフトウェア業界における今後の明暗について、登壇者たちは以下のように整理しています。
水平SaaS:業界を横断してデータの正統な保管場所となる基幹システムは、AIエージェントの不可欠な基盤として共存し成長する
垂直SaaS:特定の業界に特化したワークフローのみを提供するソフトウェアは、AIによる独自ワークフロー構築によって代替されるリスクが高い
エージェント向けインターフェース:今後のソフトウェア開発では、UIだけでなくCLI(Command Line Interface=コマンドラインインターフェース)やAPIの最適化が生存の鍵となる
米国債利回り上昇と財政赤字の構造的危機
米国の債券市場では、30年物国債利回りが一時5.3%と19年ぶりの高水準に達しました。これに対してScott Bessent財務長官は、長期国債の買い入れ枠を20億ドル(約3198億円)から40億ドル(約6397億円)へと倍増させ、利回り曲線を力づくで押し下げようとするイールド抑制策を講じています。
これに対し、かつてScott Bessent氏の師であった著名投資家のStanley Druckenmiller氏がThe Wall Street Journal紙に寄稿し、価格操作によって金利を抑え込もうとする姿勢を真っ向から批判しました。問題の本質は連邦政府の過剰な支出と膨大な財政赤字にあり、根本的な支出削減を行わない限り、市場の信認低下と金利上昇は止められないと警鐘を鳴らしています。
David Friedberg氏の試算によると、米国政府が抱える債務総額は40兆ドル(約6396兆8000億円)に達しており、平均調達金利は3.4%です。金利が1%上昇するごとに、政府が支払う利払い費は対GDP(Gross Domestic Product=国内総生産)比で毎年1.25%増加します。さらに今後12ヶ月間で約10兆ドル(約1599兆2000億円)に及ぶ債務の借り換え期日が到来するため、利回り上昇はさらなる財政赤字の拡大を招く負のスパイラルを生み出します。
議会では435名の下院議員と100名の上院議員がそれぞれの利害関係や社会保障プログラムを保護しようとするため、支出削減が極めて困難な「コモンズの悲劇」に陥っています。インフレと金利上昇によって国民の住宅購入能力が低下する中、安易な政府支出や給付拡大を掲げる社会主義的な政策が支持を集め、問題がさらに悪化することが懸念されています。
AI執筆論争:オピニオン記事におけるAI活用の是非
Stanley Druckenmiller氏の寄稿記事について、文章の約90%がAIによって生成されたものであるとの分析が広がり、言論界やソーシャルメディアで大きな議論を巻き起こしました。
Jason Calacanis氏は、オピニオン記事はその人物自身の言葉で紡がれるべきであり、AIによる生成比率が高い文章に個人の署名を付すことは読者に対する誠実さを欠く行為であると主張しました。校正や事実確認での利用は認められるものの、文章の作成自体をAIに委ねる手法は「歌唱における口パク」のような違和感を読者に与えると批判しています。
これに対しDavid Sacks氏、Chamath Palihapitiya氏、David Friedberg氏は、執筆支援ツールとしてのAI活用を擁護しました。論点や主張の核となる思想は何十年にもわたりStanley Druckenmiller氏が一貫して表明してきたものであり、AIはその思考を明確に表現するための道具に過ぎないと論じています。
デジタルクリエイティブにおいて画像編集ソフトのフィルターや表計算ソフトの計算機能が人間の創造性を拡張してきたのと同様に、AIもまた思考を形にするための拡大装置であり、重要なのは形式的な執筆手段ではなく提示された主張の妥当性と深い洞察であるという見解が示されました。
Modernaのネオアンチゲン療法と公的研究成果の独占問題
Modernaの株価は、がんワクチンと呼ばれる新たな免疫療法の良好な臨床結果を受けて急騰し、同社の時価総額は200億ドル(約3兆1984億円)規模から600億ドル規模へと拡大しました。
この治療法は、患者の腫瘍組織からDNAシーケンシングを行って特有の遺伝子変異を特定し、そのがんにしか存在しない特異的なタンパク質断片である「ネオアンチゲン」を同定する技術に基づいています。その情報を元に設計されたmRNA(messenger RNA=メッセンジャーRNA)を投与することで、患者自身の細胞内でネオアンチゲンを生成させ、体内の免疫システムを活性化させて標的のがん細胞のみを攻撃・破壊します。
David Friedberg氏はこの医療技術自体の有効性を認めつつも、製薬業界のビジネスモデルに対して強い懸念を表明しました。ネオアンチゲン療法の基礎理論や遺伝子解析技術は、NIH(National Institutes of Health=米国立衛生研究所)をはじめとする公的資金によって何十年にもわたる研究の蓄積から生まれたものです。
DNAの解析や合成プロセス自体の原価は大幅に低下しており、本来であれば世界中の病院で安価に実施できる汎用的な医療技術であるにもかかわらず、FDA(Food and Drug Administration=米食品医薬品局)の承認プロセスと特許網を通じて1人あたり50万ドル(約7996万円)という極めて高額な治療費が設定される現状は、規制の虜(Regulatory Capture)による独占であると批判しました。今後は低コストで同等の治療を提供する代替的な選択肢の普及が求められています。
▶ 同じシリーズの前回: All-In Podcast 解説:米国科学界の停滞と物理学の危機──査読制度の罠・弦理論の袋小路・UAPの真相(ゲスト: Eric Weinstein氏) https://note.com/yondo/n/n3f9338344cd3
▶ このテーマの記事をまとめ読み: マガジン「米国株とマーケットの論点」 https://note.com/yondo/m/mb4ec8df94ddb
▶ 関連書籍
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