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Photo byvoice_watanabe

結婚したい理由

    結婚に失敗したことのあるバツイチなのに、懲りずに再婚したいと思っている。

    親や友達からはよく、「自分一人を養っていける収入があって、友達も恋人もいて、今の状態で満足でしょう?」といった意味のことを言われる。

    たしかにそうかもしれない。このGWは友達親子と会って、彼氏と江ノ島にピクニックに行って、その翌日は彼氏と映画を観に行った。自分一人の時間も持てて、思うさま家事や読書もできた。将来のことを考えると不安だけれど、今だけに目を向ければ、十分すぎるほどに幸せだ。

    じゃあ今の生活がもっとも幸せで、この状態を一生キープしたいかというと、そうではない。私は恋愛よりも、結婚がしたい。

    ◇

    東村アキコの『東京タラレバ娘 シーズン2』という漫画がある。

    『東京タラレバ娘』はドラマ化もされたヒット作なので知っている人も多いと思うが、『東京タラレバ娘 シーズン2』はどうだろう。『東京タラレバ娘』とはまったく関係のない話で、夢も希望もない実家暮らしのフリーター・令菜が主人公だ。

    令菜は実家のソファでサブスクを見る生活に満足しているが、あるきっかけで、自分が家庭を持ちたかったことを思い出す。令菜が家庭を持ちたかった理由は、自分が子どもの頃、家族で行われる季節の行事が楽しかったから。「今度は親として季節の行事に参加したい」という動機で、令菜は結婚を目指すようになる。

    これを読んだとき、「あ、それって言っていいんだ」と思った。私と令菜の結婚したい理由が同じだったからだ。私も誕生日やクリスマスなどの行事を祝う家庭で育ち、自分もそんな家庭を築きたいと思っていた。

    でも、結婚したい理由が「季節の行事をやりたいから」だなんて、周りに言ったら笑われたり批判されたりしそうで、それまで誰にも言えなかった。結婚したい理由って、もっと深いものが必要な気がしていたから。

    ◇

    私は絵に描いたような温かい家庭で育っている。郊外の一軒家に、両親、母方の祖父母、兄と姉と私の7人で暮した。

    祖父が車椅子だったのであまり外出はしなかったが、その代わりによくホームパーティーをした。クリスマスは食卓に天使の燭台を飾ったし、大晦日はすき焼きだったし、元日はおせちとお雑煮だった。夏祭りの日は、帰宅すると祖母が桃を剥いてくれた。祖父母と同居していたので、いとこたちが遊びに来ることもしょっちゅうで、いとこたちが泊まりに来る日は、大きな容器に入ったアイスクリームを買ってもらえた。

    母方の祖父母との同居なので、父はいわゆる「マスオさん」だったのだが、父方の親戚もたくさん遊びに来た。これは、祖父母がおもてなし好きだったことと、父の明るい性格に由来している。

    そんな家庭で育っているので、結婚にマイナスイメージはまったくなかった。

    しかし、23歳で元夫と付き合いはじめてから29歳で結婚するまで、結婚願望はなかった。伯母から「なんで長いこと付き合ってるのに結婚しないの?」と問われ、言葉に詰まったことを覚えている。なんでと言われても、当時は「結婚する」という発想がなかったのだ。うつ病で経済的自立ができていなかったこともあり、漠然と「こんな自分には結婚なんて無理だ」という思いがあった。

    じゃあなぜ結婚したのかと言えば、元夫が私と一緒に長旅に出たいという夢を持っており、そのための資金が貯まっていよいよ旅に出ることになったからだ。籍を入れておけば、旅先で万が一のことがあったとき、保険金が下りる。また、私の親を納得させる意味もあった。

    そうして結婚して旅に出て、帰国後は町田に部屋を借りて、仲良く暮らしていた。

    経済的な事情から、子どもは持たなかった。ライターとして自分たちを養っていくことでいっぱいいっぱいだったので、子どもを持つ余裕がなかったのだ。逆に言えば、ライターの夢を諦めてまで子どもを持ちたいという熱意がなかった。

    私は「自分が育った家庭のような明るい家庭を築きたい」という思いはあったが、そのために子どもが不可欠だとは思っていなかったので、子どもがいないことになんの不満もなかった。

    甥も姪も可愛いし、私はたぶん子どもが好きなほうだ。もしも自分に子どもがいたら、きっとすごく愛したと思う。けれど、存在しない子どもに執着することはない。私は、夫と二人の生活に満足していた。

    私は夫と二人でも、「温かい家庭を築く」という夢は叶えられると思った。今でも、子どもがいなくても夫婦二人だけで温かい家庭を築くことは可能だと思っている。

    しかし、結婚10年目で私たちの結婚生活は破綻した。

    離婚した理由は、夫が無職の陰謀論者になったからだ。しかし、それ以外の理由を挙げるとすれば、夫が季節の行事に無頓着だったこともある。別に特別なことをしてほしかったわけじゃない。一緒にちょっと豪華な食事を用意して、乾杯をするだけでよかった。

    けれど元夫は、付き合いはじめの頃は当たり前に祝っていたクリスマスやお正月に対して、「行事とか興味ないんだよね」と言い、いつもの平日と同じように過ごすようになった。それが、私は悲しかった。

    ◇

    離婚してからしばらくは、自分にはもう結婚なんて無理だと思っていた。

    だけど昨年、彼氏ができた。その人とは別れたが、今は新しい彼氏ができて、いつか「温かい家庭を築く」という夢が叶うんじゃないかと思っている。もちろん、子どもはいないけれど。

    大晦日はすき焼きを食べて、紅白を見たい。元旦は簡単なおせちとお雑煮を食べたあと、近所の神社に初もうでに行きたい。アスパラが旬のときは一緒に天ぷらを食べたいし、花火大会は一緒に花火を見て、帰ってきて来てから桃を食べたい。

    それらはもちろん、結婚していなくても可能だ。カップルでもそういった過ごし方はできる。しかし私は、あくまでも「家族と」そういう過ごし方をしたい。何年も何年も季節の行事の思い出を積み重ねて、「我が家の定番」を築いていきたいのだ。

    そんな動機で結婚を願ってはいけないのだろうか。

    結婚のハードルがどんどん上がっている今だからこそ、私は、こんな理由で結婚したいと言いつづけたい。たぶん、言ってもいいと思う。



     
    ライター/著書『山小屋ガールの癒されない日々(平凡社)』『方向音痴って、なおるんですか?(交通新聞社)』 /有料記事は知人に読まれたくないだけで有益な情報じゃないです/お仕事のご相談はsaki.yoshidama@gmail.comへ

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