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「 0 0 0 は ハズレの番号」 ③ 不死鳥のまつえい


    「 0 0 0 は ハズレの番号」

    ③不死鳥のまつえい
     6. 
    転校生は宇宙鳥の夢を見る
     7. たそがれの尾行作戦


    ※ 参考演奏(不死鳥のBGM)

    こちらの記事をクリックして、再生▶️を押して戻って来ると、聴きながら物語を読み進めることも可能と思います。機種によるかも知れませんが、よろしかったら ♪ ♪


    6. 転校生は宇宙鳥の夢を見る


     かつてその星には極彩色の鳥がいた。

     鳥達は古代から伝わる、あらゆる唄を歌っていた。きらびやかな音色を奏でる彼らの羽ばたきは、その唄の伴奏。
     唄と音楽は天にも昇る美しい光を生みだした。 
     光は遙か宇宙の彼方まで届けられ、そこから銀河系の星々が誕生した。星々は何億年もの時を経て、生まれ、やがて滅びていった。伝説の鳥達が生まれ、住んでいた星もまた、いつしか自然に滅びていった。
     しかし宇宙の隅々に贈られた、彼らの唄と光が滅びることはなかった。彼らの光は残っていた。音楽は永遠に消えてはいなかったのだ。

     その時が訪れた。
     彼らは古い泉のそばに咲く花からよみがえった。大地が歌うふしぎなメロディからも、よみがえった。空にわたる虹からも、氷河が解けて大河となりゆく流れからも、平原をそよぐ風からも、よみがえった。
     伝説の鳥達は大空を超えて、大宇宙へと進路を向けた。
     かつて彼らが星々に贈った光をさがし求めた。そしてその光の中に忘れられていた美しい音楽をよみがえらせた。
     無限の宇宙の星々の中で、ありとあらゆる唄が歌われてゆく ......。


    「この音楽も、そのひとつ」
     不死鳥の伝説を静かに語りながら、ユウ先生は時折りピアノに触れて、ベートヴェンの〈悲愴ソナタ〉の第2楽章のさわりを奏で、テーマ曲のように扱っていた。寝ている者は1人もいなかった。長い夢から覚めたように、考え深げに音楽教師の言葉に耳を傾ける。
    「つまりだ。きみ達は音楽と、光の子。フェニックスが生み出した光と音楽から生まれた子どもなんだよ。心と身体にも、フェニックスのDNAが残っているわけだ」
     宗谷 斗、天ノ川 勇利、そして同じ夢を見たという1組の2人と、興味を抱いて話に乗ってきた数人の1組の生徒達。皆が各々不思議な感覚に包まれていた。
    「だから同じ音楽を聴いて、似たような夢をみるのも当然なんだよね」
     子ども達はその言葉を理解しようと一生懸命。
    「本当はみんな無意識の中で何かしら見てるんだ。ただ、気づいてないだけ。意識を取り戻すと同時に忘れちゃって」

     では、その夢を見てほしくない勢力が、あるのだろうか? 悪の勢力が。だから脅迫してくるのだろうか?
    「さっきの黒板の脅迫文......、あと、トマスやぼくがやられた分とかは、何か悪い勢力がじゃましてるってことですか?」
    「ただのいたずらだろう」
     ユーリの質問を、ユウ先生はさらりとはぐらかした。
    「だけど悪質だからね。職員会議にはかけておく。また見つけたら、すぐに知らせるように」
     それから皆を安心させるように明るく言う。
    「あ、低レベルのいたずらごときに怖がること、ないからね」


     音楽室から出てきた一行はしばらくの間、全員が無言で廊下を歩いていた。
    「じゃあな。おもしれえ~かったぜ!」
    「脅迫状が届いたら、教えろよ」
    「オレ、教室にランドセル置いてあるから。バアイ!」
     とか言いながら数人が消えた。同じ夢を見たという1組の明石くんと杉原さん、その友人の女の子、そしてとトマスとユーリの5人が残った。
    「校庭、行く?」
     誰かが言い出した。
    「うん。誰もいないところがいいな」
     ユーリがつけ足した。
     誰もいない場所、体育館の裏側の大きなさくら木の下で、秘密の会合が開かれた。


    「つまりだ。ぼく達はユウ先生に、してやられたわけだ」
     ユーリが切り出した。
    「なんでさ」
    「オレ、ちゃんとその鳥が見えたよ」
    「そう。あたしもすごい世界、見た」
    「あたしも! 夢は見なかったと思ったけど、やっぱり見てたかのかも」
     ユーリ以外の全員が、ユウ先生のマジックにすっかり洗脳、いや、魅了されていた。
    「じゃあ聞くけど、みんな、今、寝てた?」
    「ううん」
     4人は首を横にふる。
    「だからさあ。先生が伝えたいことを、演奏を通じてぼくらの脳にムリヤリ埋め込んでるんだよ」
     ユーリは木の枝で地面に図を描いた。
    「ユウ先生。ぼく達。先生のイメージ。ぼく達、受け取る」
    「なんでオレ達だけ?」
    「いや、みんな見てるんだよ。先生も言ってたろ。きっと忘れてるんだ」
    「なんの為に? だからどうなるわけ?」
    「潜在意識ってやつさ」
     ユーリは辛抱強く説明した。
    「音楽にのせて、何かのイメージをぼくらに伝える。平和だとか、きれいな世界だとか」
    「それっていいことじゃん」
    「でも、洗脳には違いない」
     きっぱりとユーリは言った。
    「だいいち、宇宙を創ったそんな鳥が、いるわけ?」
     みんな首を傾げて考え込んだ。
    「あたしは、いると思う」
    「ぼくも。フェニックスの血が流れるなんて、おもしろいじゃん」
    「あたしだってホントかもって思っちゃう」
    「バッカだなあ! みんな」
     ユーリはあきれて言った。
    「ユウ先生はね、ぼくらに洗脳がバレないように、てきとうな話、でっち上げたんだよ」
     超現実主義のユーリ。対する超ロマンチストな4人。
    「あ、ちょっとごめん!」
     いきなりトマスが皆から離れ、昇降口に向かって突っ走って行った。
     6年生の大海有香だ。早速トマスが何やらからんでいる様子。
    「目ざといね」
     面白がってユーリは言った。
    「見え見えだよね。あの2人、敵対しながらも何か特別な、カンケイ?」
    「さあ? なんだかんだ、仲、いいよね」
    「ああ、確か同じ頃、転校してきたんじゃなかった?」
     ユーリはびっくり仰天。
    「あの2人も転校生なの!?」
    「うん。2年前くらい? ちなみにぼくもだよ。1年の時だけど」
    「へー!? あたしも。あたしも転校してきたんだ!」

    —— 転校生は宇宙鳥の夢を見る? ——

     そんな SF ちっくなタイトルが、ユーリの頭に浮かんできた。
    「ごめん。あたしだけ、違うみたい......」
     夢を覚えてない、1組の女子の1人が泣きそうな声を出した。
    「あたし、夢も見てないし、転校生でもないし」
     申し訳なさそうに、後退りする。
    「そんなの、しょうがないよ」
     ユーリは必死になぐさめた。
    「転校生はたまたま鳥の夢を覚えてたってだけ。だから今度は、お前さんが......、えっと、きみが......」
    「マリナ」
    「それはまた、ロシア的な名前だねぇ!」
     ロシアっぽい名前だなんて、自分と同じじゃないか。ユーリはドギマギしながら続けた。
    「マ、マリナ、さん、が、今度音楽の授業でどんな夢見たか、教えてよ。ね? 誰かが、例えば転校生じゃない誰かと、同じ夢見るかも知れないじゃん?」
     マリナは黙ってうなずいた。ロシア人並みの大きな目を、涙でいっぱいにして。
     下校の音楽が流れ始めた。ロマンチックシューマンの〈トロイメライ〉。
    「全校生徒のみなさん。今日も楽しい1日でした。気をつけて帰りましょう。そして明日も元気で登校しましょう!」
     放送係の完璧なアナウンス。子どもの声なのに先生が言ってるのかと思えるくらいの完成度。まったくこの学校の生徒は何かにつけ積極的で、しかもそつなくこなす。
    「ランドセル、取りに行かなきゃ」
    「トマスの奴、どこ行った?」
     結論の出ないまま、秘密会議はいったん解散の運びとなった。


    7.たそがれの尾行作戦

    「なんとまあ!大海有香も見たってさ!」
     ユーリが教室に戻るや、先に居たトマスがうれしそうに声を張り上げた。
    「見たって?」
    「フェニックスの夢!」
    「6年もおんなじ授業を?」
    「そうだよ。それでクラスのみんなにも聞いといてくれるって」
    「かつがれたんじゃないの?」
     ユーリはちょっとだけトマスをからかってみた。
    「だって敵対してんだろ?」
    「う〜、違う違う」
     トマスはじたばたした。
    「あいつ、ピアノやってんだけどさ。図々しくもユウ先生に、その〈悲愴〉とやらを弾きたいって頼み込んだんだとさ。そしたら......」

      「ちょこっと教わっただけなのに、気がつい
      たら、すっかり弾けるようになってたの!
       それからは、その2楽章を弾くたびに、
      ふしぎな感じ。自分がきれいなお花になっ
      たり、鳥になって宇宙を飛んでったり」

    「って言ってた」
    「うわあ~。すっかり洗脳だあ~。自分で弾くだけで、見えちゃうんだ」
     ユーリの反応に、トマスは急に不安になってきた。
    「あいつ、合唱部で伴奏やってんだ。だからユウ先生にしょっちゅうピアノ、習うみたい」
     心配と、ちょっぴり嫉妬も?
    「合唱部、かあ」
     ふと思いついて、ユーリは提案した。
    「入ってみよっか? 合唱部に」
    「ダメだよ!」
     トマスは飛びのいて嫌がった。
    「オレ、超おんちなんだ」
     ユーリは「だろうね」と言う代わりに、
    「おんちなんて、ホントはないってさ」
     と友人をなぐさめてやる。
    「それにあの先生ならきっと治してくれるよ」
    「オーディションがあったらどうすんだよ!?」
     合格にしろ、不合格にしろ、とにかくユウ先生に相談してみよう。


    「オーディション? 人類みな平等なんだから、そんなものはないよ」
     帰宅しようとするユウ先生を、2人は首尾よく見つけだした。
    「安心して遊びにおいで。練習は、火曜と木曜。自由参加!」
     にこやかにユウ先生は言った。そしてさっと手を上げ、軽い足取りで裏門に向かっていく。トマスとユーリはその後ろ姿をいぶかしげに見送った。
    「電車じゃないんだね」
     駅に向かうには、正門から出るはずだ。
    「車でもないみたいだし」
    「近所なの?」
    「知らない」
     2人は顔を見合わせ、何かを決意するかのように口元をきりりと結び、うなずいた。
    「こらあ! すみやかに帰りなさーい」
     校内を見回っていた校長に叱られた。
    「さよなら校長先生!」
     2人はまっすぐ裏門に向かった。

    「洗脳っていえばさあ......」
     ユウ先生の後ろ姿を追いながら、トマスが話し出した。
    「催眠術のこと、知ってる? あの先生、催眠術ができるって話」
     トマスは春の遠足のことを思い出していた。
    「うちのクラスの及川って女子がバスに酔った時」
     
       目的地の白鳥湖にバスが到着した時、
      及川は「気持ちが悪い」と言っていた。
      全員がバスから降りて、ユウ先生だけが
      彼女と車内に残った。
       トマスは保健係だったから、そのエピ
      ソードはよく覚えていた。
       ほんの1、2分後、及川はまったく
      すっきりした顔で元気に飛び降りてきた。
       どうしたのさ? って聞いても、彼女
      は首をかしげるばかり。
       先生が及川に催眠術か何かをかけた
      のは明らかだった。

    「以来、ユウ先生は『魔法先生』とか、『マジシャン先生』とか言われるようになったんだ」
    「やっぱり」
     ユーリの疑いは確信となる。
    「ユウ先生には何かある。第一、あんなにピアノがすごいのに、何でピアニストにならなかった?」
     当の音楽教師は、住宅街のゆるやかな坂道に差しかかっていた。静かだけど、リズミカルな足取り。車がほとんど通らないせいか、道のまん中を歩いていく。だから先生が角を曲がる時は、要注意。わざと大回りするかのように、こちらの様子を伺うかのように曲がるので、2人の少年尾行者は忍者のごとく壁や電柱に貼りつきながら、こっそり進む羽目となる。
     学校の裏手には小高い丘がある。たそがれ時の薄暗い通りは坂を登るに従い徐々に狭まり、舗装された道はいつしか途絶え、うっそうとした林道が現れた。住宅街からも、どんどん遠ざかる。
    一一 何か、変だよ? 一一
    一一 もう、やめよう 一ー。
     と、どちらかが言い出すのを待っているうちに、2人は深みにはまっていった。小枝や落ち葉、石ころ。林の道を音をたてずに進むのは、素人には至難の技だ。
     謎の音楽教師がふと立ち止まり、まともに振り返る。2人は木になったつもりでじっと固まった。
    一一 気づかれた、かな? ーー
    一一 暗いから、どうかな 一ー。
     暗がりでも、目標は定めやすかった。ユウ先生は明るめの青いジャケットを着ていたから。
     対するトマスはグリーンのTシャツ、ユーリは黒のポロシャツで、何とか目立ない色合い。
     それにしても何でこんな道を通るんだ? 丘を超えた隣町に先生の家があるんだろうか?
     不安と戦いながらそんなことを考える。
     突然、ユウ先生は大きな木の脇で、ばさっと上着を脱いだ。
     それはまるで1羽の鳥が大きな翼を広げたかのようだった。
    「あっ!」
     2人は同時に叫び、頭を抱えて地面に身を伏せた。
     鳥が。大きな鳥が、猛烈な勢いでバサッバサッと2人に向かって飛んできたのだ。

    一一 静寂 一一。

     息を殺して少年達は永遠の時を過ごした。
     ユウ先生が2人の首ねっこをふん捕まえて引き上げるシーンを想像していたが、いつまで待っても......、何も起こらなかった。
     やがてどちらからともなく顔を上げ、辺りに何も、誰もいないのを確認して、ヤレヤレと立ち上がった。
    「大っきなワシみたいだったね」
    「タカ? じゃなかった?」
    「でも灰色っぽかったから、ふくろうとか?」
    「暗いから......。ホントは白かったかも」
    「だったら白鳥とか?」
    「山に白鳥なんて、いないだろ」
     しかし2人が本当に言いたかったのは......、

    一一 フェニックス 一一 。

     守和友希。ユウ先生。謎の音楽教師にして、不死鳥族のまつえい…...。




    ④「銀河連邦の策略」に続く...
     (3/7 土曜日深夜0時公開)



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    〜 小さなバラと素敵な音楽物語 〜 シューマンを愛するクラシック音楽ライター。演奏会&CD楽曲解説、音楽小説、SF、ファンタジー執筆。世界一簡単な1分ミニ折バラ Pincet Rose🌹

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