
おやつの時間No.7 シロクマ文芸部 月を見る
【ポポロンと月の兎】
月を見るたびに、サモエド犬のポポロンは不思議に思っていました。
月が大きくまん丸の時に、兎がお餅をついているのが見えます。
でも月が細くなっていくほどに、兎たちは
いなくなっていきます。
月が頼りないほど細くなると、もう兎は見えません。
兎はどこに行ってしまうのでしょう?
ついたお餅はどうしてるのかな?
三日月を見上げながら、考えていました。

すると、その時。
そばにあるミモザの根元の草陰からガサガサっと
音がしました。
ポポロンが驚いて振り向くと、一羽の兎がピョコっと顔を出しました。
白い毛が銀色のモヤにうっすら包まれていて、夜の闇の様に真っ黒な目をしています。
「誰ポポ?」
ポポロンは兎に尋ねます。
「こんばんわ、犬のポポロン。
私は月から来たの。
お餅を食べてもらう人を探しに来たのよ。」
「ポポ!?」
ポポロンは驚きました。
「ポポも食べられるポポ!?美味しそうだと思ってたポポ。」

月の兎は、じっと闇の様に深い黒色の目をポポロンに向けます。
「ポポロンはダメよ。まだ食べるわけにいかない。
月に呼ばれた人だけが食べられるの。」
「どんな人が月に呼ばれるのポポ?」
月の兎はしばらく黙って答えました。
「ポポロンはかぐや姫の物語を知ってる?
月に行く人はね、この地球での記憶や感情を
消す為に、私たちがついたお餅を食べられるのよ。かぐや姫も、そうだったの。」
「ポポはかぐや姫を知らないポポ。
でもお餅、食べてみたい。月にも行ってみたいポポ」
月の兎は黙って頭を振ります。

そこへ、ニャー!と塀の上から野太い鳴き声が
しました。
この街の番長、野良猫のミケです。
月の兎に向けて、毛を逆立てて襲い掛かろうとしています。
月の兎は怯えて、体を強張らせて動けなくなって
しまいました。
ポポロンは、大きな体でミケの前にジャンプして
「わん、わん、わーん」と吠えてやりました。
ミケは、慌てて、走って行ってしまいました。

「ありがとう、ポポロン。
お礼にお餅を試食させてあげる。
一口だけなら、月に行っても、また帰って来れるの。
新しい味、火星味を出してみたのよ。」
そう言って、月の兎はほんのり赤色のお餅を一口分だけちぎって差し出してくれました。
火星味なんて、あまり美味しそうに思えないなあとポポロンは思いましたが、見た目は美味しそうです。
パクッと食べてみました。
モグモグ、これは意外になかなかの美味です。

「さあ、ポポロン。思い切って天に向かってジャンプしてみて。」
月の兎が先にぴょんとジャンプして、ポポロンの頭まで上がったところで、ポポロンを振り返ります。
ポポロンは思い切ってジャンプしました。
月の兎の隣で止まります。
「さあ、ここからは私についておいで。」
月の兎がぴょんぴょんと三日月めがけて走って
行きます。
ポポロンもぴょんぴょんとついて行きました。

三日月には、机を置いて、銀色の兎が一羽座って
いました。
「おや、珍しい客人だね。」と、案内役の兎に声を
かけます。
「私を助けてくれたの。月のお餅と、月での私たちの生活に興味があるみたいで、お礼に少しだけ月を
案内してあげようと思って。」
ポポロンは「初めましてポポ。」と銀色の兎に挨拶をしました。

「初めまして。私は月の番台役。
満月の時に皆んなでつくお餅を何味にするか指示
したり、何個できたか数えるのが役目じゃ。
月が細くなるに連れて、月にお迎えする人を兎たちはお餅を持って地球へお迎えに行くのじゃ。」
「ポポロンを案内してあげるが良い。」
番台に言われて、月の兎が
「ポポロン、ついておいで。」と先にぴょんと番台の先へ行きます。
ポポロンはその後に続きます。
番台の向こうには、数羽の兎達がいました。
地球の地図を眺めていたり、お餅をいくつかしまっています。
中には調理台の上で、お餅を調理しているらしい
兎もいます。

その兎に向かって、案内役の兎が声をかけます。
「まだ新しい味を試作してるの?水星味は不味くて、誰も食べてくれないよ。火星味はなかなか
イケてるらしいから、今回はそれ持ってそろそろ
出かけないと、新月になってしまうよ。」
「新月ってなにポポ?」
そこでポポロンは、眠ってしまいました。

目が覚めると、月は大きくてまん丸になって
いました。
銀色の兎達がぺたんぺたんとお餅をついています。
「目が覚めたみたいだね、ポポロン。」
案内役の兎がいます。
「新月にはね、ここではない月で、月の神様のための行事が行われるのだよ。月にお迎えした人たちも、みんなそこへ行く。ポポロンは、それを見ることは許されないの。」
ポポロンは残念だなあと思いました。
月の兎たちは、どんどんお餅をつき、それを
どんどん丸めていっています。

「さあ、ポポロン。そろそろ地球へ帰るころだよ。
お見送りするから、ついておいで。」
月の兎がそう言って、青い地球を指差しました。
「ねえ、せっかくお友達になれたのだから、お名前を教えてポポ」
ポポロンの質問に月の兎は、少し寂しげに言います。
「私たちには、名前はないの。皆んな同じ、
月の兎よ。月に来ると、皆んな名前は無くなるの。さあ、地球に行くよポポロン。」

ポポロンはハッと目が覚めました。
ミモザの根元がガサガサっと音がした
気がしたのです。
近づいてみましたが、誰もいません。
空には三日月が輝いていました。
「ポポロン、そろそろお家に入りなさい。」
お家からママの声がしました。
ポポロンは、もう一度三日月を見上げます。
そして満月ではお餅をついている月の兎は、三日月になるとどこへ行ってしまうのかなあ、ついたお餅はどうしてるのかなあと思いました。

