
未来が全部見えるので、のんびりできません|ショートショート
ヘクたろーさんの企画「女神の転生窓口」に参加して書いた、
ショートショートです。
のんびり暮らしたくて申請したのに、
女神さまに、ちょっとだけ違う意味で受け取られてしまったお話です。
【転生申請書】
・前世:会社員。夜にこっそり、占いの記事を書いていました
・転生先:剣と魔法の世界の、小さな村
・希望するチート能力:のんびり暮らせる力
・転生後のひとこと:女神さま、ちょっとおはなしがあります
・出目:4(能力の解釈違い!)
最後に覚えているのは、
白い窓口と、そこに座る女神さまの声です。
「のんびり暮らせる力、なのだな。
うむうむ、受理するのだ!」
それから、カウンターの向こうで、
ころころと、何かが転がる音がしました。
「……4なのだ。
まあ、なんとかなるのだ」
なんとか、ってなんですか。
そう聞く前に、目の前が真っ白になりました。
目を開けると、草の匂いがしました。
青い空と、風に揺れる麦畑。
遠くで、牛がのんびり鳴いています。
ああ、ここなら。
ここなら、のんびり暮らせる。
そう思った、ほんの三秒後のことでした。

「お嬢さん、大丈夫かい」
麦わら帽子のおじいさんが、
私の顔をのぞきこみました。
その瞬間、見えてしまったのです。
明日の朝、このおじいさんが、
井戸の桶を持ち上げて、腰を痛めるところが。
「あの、明日は、桶を持たないでください」
気づいたら、口に出していました。
おじいさんは笑って、
「変わったことを言う子だねえ」と帰っていきました。
そして次の朝。
村じゅうに、おじいさんの悲鳴が響きました。
お昼には、家の前に列ができていました。

「うちの牛は、いつ子を産むかね」
「来年の麦は、豊作になるか」
「となり村の彼と、私、結ばれますか」
最後の子は、まだ十五、六くらいでした。
エプロンの端を、両手でぎゅっと握っていました。
ひとり見るたびに、
その人の明日も、来月も、十年先も、
いっぺんに流れこんできます。
いいことも、そうでないことも。
前の世界でも、
私は夜にこっそり、占いの記事を書いていました。
でも、それは当てるためではなくて。
読んだ人が、少しだけ楽になればいいな、
と思って書いていたのです。
ここでは、みんなが「当てて」と言います。
そして私は、全部当たってしまいます。
夕方には、王さまの使いまで来ました。
「隣国が攻めてくる日を、教えていただきたい」
……のんびり、どこに行ったんでしょう。
その夜、私は村はずれの祠に行きました。
手を合わせて、小さな声で呼んでみます。
「女神さま。ちょっと、おはなしがあります」
ぽん、と白い煙が上がりました。

「呼んだのだ? あたしは今、丁半で忙しいのだ」
サイコロを片手に握ったまま、
女神さまが現れました。
「私、のんびり暮らせる力を申請したはずなんです」
「うむ、ちゃんと付けたのだ!」
女神さまは、胸を張りました。
「のんびり暮らすには、先のことが全部わかっていれば安心なのだ!
だから、未来が全部見える力にしておいたのだ!」
「……どうして、そうなったんですか」
「サイコロの目が4だったのだ。
4は『解釈違い』なのだ。
だから、ちょっとだけ違えておいたのだ」
ちょっとだけ、の幅が広すぎます。
「返品は、できますか」
「受け付けてないのだ。
でも、もう一回振ってあげてもいいのだ!」
「やめてください」
「どうしてなのだ。
今夜のあたしは、勝つ気がするのだ」
「それ、きのうも言っていませんでしたか」
「……なんで知ってるのだ」
未来だけでなく、
女神さまの負け癖まで見えてしまうようです。
次の目が2だったら、
私はたぶん、ピスタチオになっています。
「何が不満なのだ? 当たるのは、いいことなのだ」
女神さまは、心から不思議そうでした。
私は少し考えてから、
今日の列のことを話しました。
「となり村の彼と結ばれますか、って聞いた子がいたんです」
見えた答えは、
あの子が望んでいたものではありませんでした。
「でも、その子が本当に聞きたかったのは、
たぶん、答えじゃなかったんです」
両手をぎゅっと握って、
少しだけ泣きそうな顔をしていました。
「明日なにが起きるかより、
今夜、ちゃんと眠れる言葉がほしい人もいるんです」
女神さまは、何も言いませんでした。
サイコロを握った手が、
ほんの少しだけ、止まっていました。
「……あたしには、よくわからないのだ」
それから、ぽつりと言いました。
「でも、お主がそう言うなら、
そういう人も、いるのかもしれないのだ」
次の朝も、家の前には列ができていました。
先頭は、きのうの女の子です。
未来は、やっぱり見えてしまいます。
見えないふりは、できそうにありません。
でも、言うかどうかは、
私が決めていいはずでした。
「今日は、あたたかくして過ごしてくださいね」
それだけ言うと、女の子はきょとんとして、
それから、ふっと笑いました。
「……はい。なんだか、よく眠れそうです」

見えた未来は、言いませんでした。
言わなくても、明日は来るので。
お昼すぎには、王さまの使いも、また来ました。
「隣国が攻めてくる日を、今度こそ」
見えた未来の中で、隣国の王さまは、
こちらの国が攻めてくる日を、
同じように怖がって、眠れずにいました。
「隣国の王さまも、たぶん今夜、眠れていません。
いちど、お手紙を書いてみてはどうでしょう」
使いの人は、ぽかんと口を開けたまま、
首をかしげて帰っていきました。
手紙が届いたあとの未来も、
本当は、ちらりと見えていました。
でも、それも言いませんでした。
知らないで書く手紙のほうが、きっと、やさしくなるので。
その日の夕方。
空の上から、聞きおぼえのある声が降ってきました。
「それはそれとして、お主!
明日の丁半、どっちが出るか教えてほしいのだ!」
「教えません」

のんびりには、まだ少し遠いようです。
───────────────
このショートショートは、
ヘクたろーさんの企画
「女神の転生窓口」に参加して書きました。
ほかの方の「転生した直後」も、
タグ #女神の転生窓口 から読めます💫
───────────────
ほかの読み切りも読みたい方へ
「夜に読む、ショートショート」には、
一話で読み終えられる短編を集めています。
静かな話、あたたかい話、くすっと笑える話。
夜ごとに温度が変わります。
───────────────
ゆめとルナの物語を読みたい方へ
「ゆめとルナの旅・幕間|月の栞」では、
タロットの世界を旅するゆめとルナの、
旅のあいだにある小さな夜の話を、
読み切りの短編小説でまとめています。
───────────────
