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文学フリマ東京の来場者数と弊サークルにおける頒布数の関係についての一考察

    本noteの目的

    昨今、文学フリマ東京への出店数と来場者数は増加傾向にあり、2024年冬には会場を東京流通センターからビッグサイトへと変えることとなりました。

    それに伴い、小説ジャンルで10年ほど文学フリマ東京に出店してきた弊サークルの冊子頒布数が来場者数の増加によってどう変化したのかをまとめ、傾向をつかみ、できれば頒布数を増やすための立案をすることを本noteは目的としています。



    注意事項

    最初に強調したいことは、本noteは「これは文学フリマ東京における全サークルに当てはまるはずだ!」などのような一般化は決してしないという点です。

    本noteにおける考察は、扱っているジャンルや所属している界隈、どんな冊子を用意しているかによって容易く結論が変わるでしょう。あくまでもサンプル数1の、弊サークルにおけるおぼえがき程度にしかなっていないことに十分ご留意ください。

    また、本noteでは文学フリマ東京の規模拡大に対する是非などについては一切論じません。現状で規模が拡大している文学フリマ東京において、「弊サークルは今後どうしていくか」を考えることが目的だからです。

    はじめに~自己紹介を添えて~

    本noteの筆者、善之新は2012年から継続的に1次創作の小説サークルとして文学フリマ東京に出店している同人文章書きです。

    年に2回の文学フリマ東京は、プロを目指しているわけではない自分にとって欠かせない大舞台です。そんな文学フリマ東京の来場者数が増えている現在、「なんだか今までよりスルーされてしまうことが多いような?」「新刊の売れ行きが来場者数の伸び率と比べると、思ったほどは伸びていないような?」という疑念が浮かびました。それは果たして実情に合っているのでしょうか。元理系として、検証してみようと思ったのが本note執筆のきっかけです。

    さて、筆者は2018年春から2025年春までの間に出店した文学フリマ東京における弊サークルの作品の頒布数を種類別に記録し続けてきました。(本当は売れた時間帯も記録しています)普段はその記録をもとに、新刊の冊数や再版冊数などを考えているわけです。今回はその売り上げデータと文学フリマ東京の公式が発表してくださっている来場者数のデータを比較することで、何らかの知見を得ようというのが主な試みとなります。

    本noteに登場する弊サークルでの頒布物

    そしてふたりはあかつきの(個人誌)

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    Twitterで使っている宣伝画像

    2022年5月に発行した単著です。6つの恋愛ではない百合をテーマにした短編小説を収録しています。現在は大幅な加筆修正・帯付きの第二版を頒布しています。

    食人謝肉祭《カニバル・カーニバル》

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    販売当初の告知画像

    現在は完全完売してしまった、25名によるカニバリズムオンリーのアンソロジーです。尖ってます!

    食人感謝祭《カニバル・フェスティバル》

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    梅ノ木びの先生による最高の表紙

    A5サイズ290ページ、総勢25名による『カニバリズム×感謝』がテーマのアンソロジーです。食人謝肉祭の好評を受けて企画した一冊。早々にこちらも完売してしまい、手元にも一冊しかありません。

    クソデカ感情百合小説アンソロジー『ファムファタールズ』

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    非常にクソデカな一冊

    35名による『恋愛ではないクソデカ感情百合』の合同誌。一冊784グラム、背幅30mmと冊子自体もクソデカとなりました。完全完売の状態が続きましたが、2025年春の文フリ東京で再版しました。

    百合×サイコホラーアンソロジー『百合告壊』

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    ファムファタールズに引き続き表紙は高嶋ユタカ先生

    静霧一さんと共同で企画した百合×サイコホラーのアンソロジー。2025年春の文学フリマ東京で頒布しました。A5版310ページ、18作+幕間で構成されています。

    本noteの概要

    さっそくですが、本noteにおける概要を抜き出してまとめておきます。

    ・文学フリマ東京への出店数と来場者数は相関関係にある。
    ・文学フリマ東京における来場者中の一般来場者の割合はおおむね7割程度であり、これは流通センター時代末期から変わっていない。
    ・文学フリマ東京の来場者数と弊サークルの総頒布数はおおむね相関関係にある。
    ・文学フリマ東京の来場者数は弊サークルの個人誌の頒布数とはほぼ相関がない。
    ・文学フリマ東京の来場者数は弊サークルのアンソロジーの頒布数とおそらく相関関係がある。
    ・文学フリマ東京の来場者数は弊サークルの既刊の頒布数とおそらく相関関係がある。
    ・文学フリマ東京の来場者数と弊サークルにおける新刊の頒布数との相関関係は、既刊との相関関係よりも小さい。

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    このnoteを超ざっくりまとめると、こう。

    それぞれについて解説していきます。



    1.文学フリマ東京への出店数と来場者数の関係

    結論:「文学フリマ東京への出店数と来場者数は相関関係にある」

    まず、一応前提としてのお話をしておきます。

    実は文学フリマ東京において「来場者数」と「一般来場者数」は同義ではありません。「来場者数」とは、一般来場者数にサークル出店している人も含めた人数のことを指します。従って、サークル出店数が増えると、少なくともそのサークルに携わる人の分だけ来場者数は必ず増えるので、出店数と来場者数は相関関係にはあるはずです。

    文学フリマ東京の公式サイトで発表されている「アーカイブ」のページから出店数と来場者数のデータを引用し、グラフにしてみました。

    https://bunfree.net/archive/history/

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    数値の桁が違うため縦軸は省略

    なお、グラフが2018年春から始まっているのは筆者が売り上げ記録を取り始めた回だからです。この後の議論でも使うのはこの範囲のデータであるということになります。上記グラフはそれぞれの数値の桁が違うため、傾向のみの議論になりますが、おおむね同じ傾向になっていることが感覚的にも納得できそうです。

    ですがそれだと「出店サークルが増えたから会場にいる人が増えているだけで、一般来場者はそんなに増えてないのでは?」と思えてしまいます。そのため、「この期間において一般来場者の比率はどうなっているのか?」という次の議論が必要になります。



    2.文学フリマ東京における来場者中の一般来場者の割合

    結論:「文学フリマ東京における来場者中の一般来場者の割合はおおむね7割程度である」

    まずはさきほどと同様に、文学フリマ東京の公式サイトで発表されている「アーカイブ」のページから来場者数と一般来場者数のデータを引用し、グラフにしてみました。

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    数値だけ見てるよりグラフにした方がイメージしやすいですね

    2020年春はコロナ禍により中止、一般来場者数の記録が始まったのが2020年冬からで、2022年春の一般来場者数のデータは見つかりませんでした。

    これを見ると、コロナ禍までほぼ一定の割合で来場者数は増加しています。このままコロナ禍がなかったとすると、面白いことに2025年春の想定来場者数は実際の数と近い数値になります。

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    少し恣意的な見方ではあると思いますが……

    この直線の傾きはおよそ「1年で2000人増」となります。しかし、実際にはこの直線よりもビッグサイトに移行後は増加率が大きそうです。この直線で考えると2025年春は来場者数14000人ほどと想定されますが、実際にはさらに+2000人ほど多くなっています。もしかすると昔からの文フリ参加者が「最近急に文フリ東京の規模が大きくなったなあ」と感じるのは、このギャップがあるからかもしれません。

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    筆者は東京流通センターが初めての文フリ体験だったので愛着があります

    余談ですが、流通センター時代最後の2024年春はコロナ明け後で唯一、規模の拡大が停滞しています。上の出店数のグラフを見ると、流通センターの第一・第二展示場をフルで使った場合のキャパの問題で出店できるサークル数が頭打ちになってしまったからだと考えられます。そう考えるとビッグサイトへの移行はやむなしだったのだな、と改めてしみじみ思います。

    さて、話を本筋に戻します。ここで注目して頂きたいのは来場者中の一般来場者の割合についてです。これは筆者にとって非常に意外だったのですが、一般来場者がカウントされ始めた時点からずっと、一般来場者の割合はおよそ70%前後で安定しているということです。つまり、流通センター時代末期にあたる2020年冬から、会場を見渡した時に見える人の70%は一般の参加者であったということが分かります。

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    意外にも割合はだいたい一定

    ということは、「出店者の関係者ばかりが増えて肝心の一般来場者が増えていない」ということはなく、出店者数(正確に言えば参加サークルに携わる人員の数)の増加とほぼ同じ割合で一般来場者数も増えていると言えるでしょう。

    従って、以降の議論では文学フリマ東京の来場者数がきちんとイベントの規模を測る目安になっているということを前提として、来場者数の推移と弊サークルの頒布数の推移の比較をしていきます。



    3.文学フリマ東京の来場者数と弊サークルの総頒布数の関係

    結論:「文学フリマ東京の来場者数と弊サークルの総頒布数はおおむね相関関係にある」

    ではいよいよ、そんな順調に拡大を続ける文学フリマ東京の来場者数が、弊サークルの創作物の頒布数にはどう影響があるのかを考察していきます。まずは総頒布数についてです。

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    けっこう相関しているように見えます

    こちらは弊サークルの売り上げ総数の推移と、文フリ東京の来場者数の推移を比較したものです。弊サークルが参加していなかった年のデータ(2021年冬と2024年冬)は省略してあります。また、縦軸の数値である売り上げ冊数の具体的な数字は伏せさせていただきます。

    あくまでも傾向での比較にしかなりませんが、おおむね相関しているとは言えそうです。※1

    とはいえ、2018年冬以降から弊サークルではアンソロの主催を多くするようになったことも頒布数の増減に大きく影響している可能性はあります。

    さて、ここで注目したいのは、おおむね来場者数と同じ傾向で増減している総頒布数において、特異的に頒布数が多くなっているタイミングがあることです。

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    やはり新刊頒布時の売り上げは特異的

    これらは全て新刊の発売タイミングと綺麗に合致しています。新刊を発売した次の回は軒並み60%から50%ほどにまで売り上げ冊数は減っていますから、いかに新刊によって総売り上げ冊数にブーストがかかっていたかと言うことがよく分かります。

    では、おおよそ来場者数の増減が総頒布数に影響を与えているだろうことを受けて、頒布物のどこにその影響が大きいのかを分析していきましょう。



    4.文学フリマ東京の来場者数と弊サークルの個人誌の頒布数の関係

    結論:「文学フリマ東京の来場者数は弊サークルの個人誌の頒布数とはほぼ相関がない」

    弊サークルの個人誌(筆者だけが著者となっている冊子)の頒布数の推移と、文学フリマ東京の来場者数の推移を比較してみます。

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    あれ……?

    ……来場者数は増えてるのに、個人誌の頒布数は減ってる……?

    例によって傾向のみの比較になるので厳密な証明はできませんが、どうやら弊サークルの個人誌の売り上げは、来場者数の増減よりも他の要因によって増減していそうです。

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    やはり新刊と連動していそう。でも例外もあって……

    特徴的なタイミングを振り返ると、やはりどれも新刊が関係しています。特に大きなピークは2018年冬で、ここで出した新刊アンソロ「食人謝肉祭」はカニバリズムオンリーの同人誌で、その当時既に既刊であった個人誌が同系統だったため、併せて買って下さる方が非常に多かったことを覚えています。

    また、個人誌をめったに出さない(この記録がある7年間でなんと1度しか個人誌は新刊を出していない!)弊サークルが久しぶりに個人誌の新刊をだした2022年春はさすがに個人誌の売り上げが非常に良かったです。ありがたいことです。

    しかし、それ以降個人誌は非常に低調であり、特に2025年春は新刊アンソロを出したにもかかわらず売り上げは伸びませんでした。

    これは2025年春の新刊アンソロが百合×ホラーのアンソロジーであったのに対し、個人誌「そしてふたりはあかつきの」は普通の百合短編集なのでシナジーがなかったからだと考えられます。逆に2023年冬は新刊アンソロがクソデカ感情百合小説アンソロジーだったため、似た系統の「そしてふたりはあかつきの」も一緒に手に取ってもらえたのだと考えられます。

    まとめると、「新刊との抱き合わせがない場合、弊サークルの個人誌は来場者数が増えたからと言って頒布数が増えるとは限らない」という事になります。

    しかし、弊サークルにおける対策としてはシンプルです。

    ①    個人誌の新刊を出す
    ②    企画するアンソロをちゃんと個人誌と同系統にする

    新刊は今後準備しているので、この2022年冬から続く個人誌の低調自体は改善が見込めるでしょう。しかし、弊サークルの個人誌は来場者数とは相関しなさそうなので、来場者数が増えているからと言って調子に乗ってたくさん冊数を刷るのはやめた方が良いと言えそうです。※2

    では一方で、弊サークルのアンソロジーの方は来場者数の増減と相関しているのでしょうか。



    5.文学フリマ東京の来場者数と弊サークルのアンソロジーの頒布数の関係

    結論:「文学フリマ東京の来場者数は弊サークルのアンソロジーの頒布数と相関関係がある」

    弊サークル主催のアンソロジーの頒布数の推移と、文学フリマ東京の来場者数の推移を比較してみます。

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    おや、今度は……?

    これについては新刊アンソロが出た時を除けば、おおむね来場者数と相関していると言えそうです。

    もちろんジャンルが変わった(カニバリズム→百合)ことの影響は無視できませんが、2021年春からの売り上げ冊数の推移が、(新刊アンソロ発売の2023年冬を除いて)きちんと2025年春の売り上げ冊数まで綺麗につながりそうなことを考えると、来場者数と相関していそうだと言っていいでしょう。

    これは弊サークルのアンソロジーがコンセプトの尖ったものであることが理由として考えられます。コンセプトが尖っているということは、一定の割合で「めっちゃ欲しい!」と思って下さる人が居るということだと筆者は考えています。(カニバリズムのアンソロジーが最たる例ですが、人によっては絶対に買いませんが、買う人は絶対に買います)そのため、母数が増えれば買う人も増えることが想像できます。

    従って、「弊サークルにおいては文学フリマ東京の来場者数の増加の恩恵を受けやすいのはアンソロジーである」ということになります。※3

    ではここで、これまで「新刊を出した時は特異的に売り上げ冊数が増える」事例をいくつか見てきましたが、その「新刊による売り上げの増加」は「文学フリマ東京の来場者数の増加」と相関があるのでしょうか。弊サークルの既刊と新刊それぞれの売り上げ冊数と、来場者数を比較して検討していきます。



    6.文学フリマ東京の来場者数と弊サークルの既刊/新刊の頒布数の関係

    結論:「文学フリマ東京の来場者数は弊サークルの既刊の頒布数とおそらく相関関係がある。しかし弊サークルにおける新刊の頒布数への相関は、既刊への相関ほどは強くはない」

    弊サークルのその回における既刊/新刊の頒布数の推移と、文学フリマ東京の来場者数の推移をそれぞれ比較してみます。

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    再版したものも既刊扱いにしています
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    おや……?

    これも傾向だけでしか検討できませんが、既刊についてはおおむね来場者数と相関していそうです。

    しかし一方で、意外なことに、弊サークルの新刊は来場者数によらず大体一定の冊数に落ち着いています。外れ値として非常に売れた新刊(はっきり言えばファムファタールズ)もあるのですが、これは寄稿してくださった人数も多く、通常よりも宣伝が拡散された結果だと思われます。

    ここで、

    ・弊サークルの新刊の売り上げ冊数と言うのは来場者数による影響よりも、冊子自体の魅力やブースの配置の方が大きく影響するのでは?

    ・よほどラッキーがない限り、弊サークルの現状(告知のしかたなど?)における新刊頒布数の上限はある程度決まっているのでは?

    などの疑問が仮説として挙げられます。

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    こういうことなのだろうか……?

    ここがもっとも考察すべきポイントと言えるかもしれません。新刊ならば、そのサークルにおける一番の売れ筋であってもらいたい。しかし実際には弊サークルでは新刊がイベントの規模拡大の影響をあまり受けていなさそうなわけですから。丁寧に考えたいと思います。

    そこで、弊サークルのこの現状を説明するために、弊サークルの客層モデルを考えてみました。



    弊サークルにおける既刊と新刊への来場者数の影響度が違う問題について

    考えられる弊サークルの客層モデル

    「弊サークルの新刊が出た時に買ってくれる人と言うのは、
    ①    創作関係のお知り合い
    ②    弊サークルのファン(リピーターの方)
    ③    弊サークルのことを知らなかったが宣伝でその本を知って来てくれた方④    弊サークルのことを知らなかったが、会場でその本が気になって買ってくれた方
    の4パターンに分類される
    」

    この客層モデルにおいて、①②の方の数は、文学フリマ東京の来場者数と関係ありません。ほぼ固定値だろうと思われます。(実際には少しずつでも増えて行っていると信じたいですが、文学フリマ東京の来場者数ほどの爆発的な増加ではないでしょう)

    一方、③④の方については、「文学フリマっていうイベントに行ってみようかなと思っている」人が増えることで、その本についてSNSやイベントで目にしたときに「じゃあこの本、買ってみようかな」となってくださる方も増える可能性があります。

    しかし問題は、③④の方にとって、その本が新刊・既刊であるかは関係ないということです。買う側に立ってみれば当然で、多くの方にしてみれば「そのサークルの新刊だから買う」のではなく、「その本に興味があるから買う」わけで、その本が新刊かどうかはそこまで関係がないのかもしれません。③④の方にとって新刊・既刊の区別が関係ないのであれば、③④の方に購入される本は新刊と既刊でバラけることになります。

    では実際にこの客層モデルをシミュレーションしてみます。



    来場者数が弊サークルに及ぼす影響のシミュレーション

    仮に既刊A、既刊B、新刊Cがそれぞれ来場者の5%に「刺さる」本だったとします。(実際の文フリ東京では来場者の1%に刺さったら100冊以上売れるのでこんなことはありませんが)そして、サークルにとってありがたい①②の固定客の方が合計で5名いたとします。来場者数が100名から300名まで拡大していったとき、頒布数はどうなるでしょうか。

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    来場者数が増えるにつれて頒布数の差が大きくなります

    この場合、このように既刊の増加率は新刊の増加率よりも大きくなります。この設定だと、来場者が100から300へ3倍に増えた時、既刊の頒布数は3倍になりますが、新刊の頒布数は2倍に留まっています。

    では、固定客の方が10名いたとすればどうでしょうか。

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    固定客が多いと頒布数が安定しますね

    この場合、既刊には影響がなく、新刊は全体的に底上げされることになります。底上げなので、増加率は変わっていません。(言ってみれば一次関数の切片が上に上がっただけ)

    しかしこの場合、来場者が100から300へ3倍に増えた時、既刊の頒布数は3倍になるのに対し、新刊の頒布数は約1.7倍になります。さきほどの固定客5名と想定した時より、来場者数の影響度が相対的に小さくなります。これは当然の話で、来場者数に関係なく買って下さる方が多くなればなるほど、新刊頒布数は相対的に来場者数に影響されづらくなるからです。

    さらに考察します。これが例えば1年後、新刊Cもまた既刊Cとなって、また新たに新刊Dを発行した場合です。このように「既刊3種、新刊1種」になった場合の来場者数と頒布数のシミュレーションは下のようになります。

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    より極端になりました

    そう、お気づきだと思いますが、このモデルにおいては既刊の種類が増えれば増えるほど来場者数に応じて既刊の頒布数は大きくなるため、より相対的に来場者数の新刊の頒布数への影響度が小さく見えるようになっています。

    ここまでをまとめます。



    シミュレーションのまとめ

    「新規のお客さんは新刊・既刊関係なく来場者数に対して一定の割合でそれぞれの冊子を買う」
    「固定客の方が一定数おり、その方々は新刊を買って下さる」
    という客層モデルの時、「既刊は種類が多いので来場者数が多いほどよく売れるようになるが、弊サークルの新刊はいつも1種類なので既刊に比べれば来場者数の影響が少なくなる。また、固定客の方が多いほど、来場者数の新刊頒布数への影響度は小さくなる」と言えます。

    これはあくまでもモデルですし、全ての参加者に当てはまることでは決してありませんが、弊サークルの現状にはある程度合致しているように思えます。

    そしてこのモデルが弊サークルにおいてあてはまるということは、弊サークルにおいては

    ・新刊だから初見の方にもたくさん売れる、ということはない(新刊も冊子として純粋に魅力があるかどうかで一般来場者には判断されている)
    ・新刊を出した時には頒布数が増えるが、その増加分はある程度固定値である

    ということが見込まれます。

    ……ただ、ここまで考えておいてなんですが、そもそも「来場者数に相関して増減しているであろう総頒布数」が「新刊を頒布した時には特異的に増える」のはデータ上、既に言えているのですから、新刊の売れ方が来場者数と既刊ほどは相関していないとしても、弊サークルはちゃんと新刊は用意するべきなのです。



    既刊/新刊問題の結論

    結論として、「文学フリマ東京の来場者数拡大と弊サークルの新刊の頒布数は既刊の頒布数ほど相関していないが、そもそも新刊を発売すれば総頒布数は特異的に増加するのだから作った方が良い」となります。

    しかしここで別に得られる知見としては、「来場者数が〇〇倍になってるんだから、今回の新刊は前の新刊よりも〇〇倍くらい多めに印刷しちゃおう!」は絶対にやめておけということが挙げられます。今までのデータを参照し、いつも通りの冊数印刷したほうが良いということです。(改めて言っておきますが、これは一般論ではありません。弊サークルにおいては、ということです)



    おわりに

    本noteでは、弊サークルの冊子頒布数が来場者数の増加によってどう変化したのかをまとめ、以下の考察を行いました。

    ・文学フリマ東京の来場者数と弊サークルの総頒布数はおおむね相関関係にある。
    ・文学フリマ東京の来場者数は弊サークルの個人誌の頒布数とはほぼ相関がない。
    ・文学フリマ東京の来場者数は弊サークルのアンソロジーの頒布数と相関関係はありそう。
    ・文学フリマ東京の来場者数は弊サークルの既刊の頒布数とおそらく相関関係がある。
    ・文学フリマ東京の来場者数と弊サークルにおける新刊の頒布数の相関は、来場者数と既刊の頒布数との相関よりは弱い。

    そしてその結果として、弊サークルにおける知見を以下のように得ました。

    ①    弊サークルの個人誌の売り上げを伸ばすには「個人誌の新刊を出す」ことと、「企画するアンソロを個人誌と同系統にする」ことが有効である。しかし弊サークルの個人誌は来場者数とは相関しなさそうなので、来場者数が増えているからと言って調子に乗ってたくさん冊数を刷るのはやめた方が良い。

    ②    弊サークルの新刊は文学フリマ東京の来場者数拡大の恩恵を既刊ほどは受けづらいが、そもそも新刊を発売すれば総頒布数は特異的に増加するのだから新刊は作った方が良い。ただし新刊の頒布数は来場者数とはそこまで相関しなさそうなので、調子に乗ってたくさん冊数を刷るのはやめた方が良い。

     最後になりますが、「これらの考察・知見はあくまでも弊サークルの場合であり、一般化はできない」と繰り返し強調しておきます。

     今回、文学フリマ東京の規模拡大に伴う弊サークルの売れ行きに関する影響について、予想通りな点もありましたし、いくつかの点で肌感(直観?)とはだいぶズレていることにも気づくことができました。久しぶりに論文のような文章を書いていて、これはこれで楽しかったです!

     なお、このような分析については、筆者が所属しているLGという団体において毎年上半期と下半期に1回ずつの総会で行っています。筆者はそれを弊サークルに置き換えて真似しただけにすぎません。LGでは本に物理的にカギをかけたり、本を袋麺の袋でとじたり、本をお肉のパックに入れたりといったアンソロジーを企画しています。分析した結果がそれなんだ……という思いもあったりしますが、楽しくやっております。

     皆様も、楽しい文学フリマ東京をお過ごしください!




    注釈など

    ※1 相関関係と因果関係の違いについて

    相関関係と言うのは、その2つの値の内、一方が増減するともう一方も同じように増減するような関係を言います。例えば弊サークルのデータだと「文学フリマ東京の来場者数が増える」ことと「弊サークルの総頒布数が増える」ことは連動していそうです。しかし、来場者が増えたことが原因で、弊サークルの総頒布数が増える結果になったとは断言できません。頒布しているものの種類も違いますし、広報活動のやり方も変わっているからです。なので、このnote全体にわたって、どこかで因果関係があるかのように論を進めているところがあればそれは筆者の仮説にすぎないとここであらかじめお詫びしておきます。

    ※2 弊サークルの個人誌が文学フリマ東京の来場者数の増加の恩恵をあまり受けていないことについて

    これは考察ではなくただの感想になります。弊サークルの個人誌は、テーマが明確なアンソロと違って「ここ最近書いたものをまとめたよ」と言うものです。最近は百合ばかり書いているので結果的に「恋愛じゃない百合短編小説集です」と宣伝していますが、コンセプトが弱いと言えば弱いわけです。個人的にはここがポイントで、この「自分が最近書いた小説」というのが旧来の文学フリマの小説ジャンルでよく見かけた「商業的でない同人誌」に分類されるかなと思っています。

    「売れるためには尖ったコンセプトの冊子を用意しなきゃ!」というアドバイスは、「いや、自分が書きたい小説を書いて、それを売るのが同人誌でしょ!」という意見と相容れないと思います。弊サークルの個人誌は後者にあたり、それは残念ながら文学フリマ東京の来場者数の増加の恩恵をあまり受けていません。ですが、それはそれとして頒布しつつ、サークルとしての売り上げ自体は改善していきたいというのが弊サークルの考えです。ラーメン発見伝の芹沢さんのように、「自分のこだわっているもの(=個人誌)」を細々とでも売ることと同時に、「皆が求めているもの(=コンセプトが明確な冊子)」を定期的に出すことは決して悪ではないだろう、というのが筆者の考えです。

    ※3 弊サークルのアンソロジーの頒布数が文学フリマ東京の来場者数と相関していることについて

    ご覧になって頂いた通り、弊サークルはいくつかのアンソロジーを主催しています。その上で筆者は「最近文フリでアンソロジー企画が増えたなあ」と感じています。

    例えば2025年春の文フリ東京では、百合島において共依存百合アンソロジーmelangeを始め、部活百合アンソロジー、葬式百合アンソロジーなどなど、特に大人数でのアンソロジーが多いと感じました。(melangeには筆者も参加しています!)

    これについて思うのは、「今、文学フリマ東京で頒布数を伸ばしたいのならば、よほど個人に知名度がない限り人数を集めてアンソロジーにするのが良さそうだと感じている人が多いのではないか?」ということです。

    これの是非はここでは論じませんが、確かにアンソロジーを主催、ないしはアンソロジーに参加することにはメリットがあると思います。

    ・寄稿者全員で告知することができる
    ・一人一人は書きたいものを書ける
    ・冊子全体としてのコンセプトは統一されていて尖らせられる
    などです。

    しかし、「アンソロを主催すれば売れるから嬉しい!」という思考になると同人活動が苦しくなることも予想されます。弊サークルは「主催が今、読みたい」ジャンルの小説を募集し、文フリに来場する同志におすそ分けする感覚でアンソロを主催しています。

    例えば「一人だと一冊作って頒布する量の文章がなかなか溜まらない」(筆者はよくあります)とか、「文フリに個人出店するのはちょっとまだハードル高いなあ」という場合には、アンソロ企画に寄稿するのがその第一歩になると思います。これは露骨に宣伝ですが、そんな時にはぜひ弊サークルが今後主催するアンソロ企画などで興味のあるものがあれば、参加してみて下さいね!


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