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Moby Grape『Wow』――Beatlesの耳で聴いたら、68年のノリがやっと分かった

    古い時代のロックを聴いていると、どこでノればいいのか分からないまま一枚が終わってしまうことがあって、Moby Grapeが1968年4月に出したセカンド・アルバム『Wow』も、店長にとっては長いあいだそういうレコードのひとつでした。

    実はこのアルバムはLPで何度も手に入れては手放し、また買い戻すということを繰り返してきたのですが、そのたびに目を惹かれたのは見事な油彩のジャケットと、A面の最後に置かれた「Just Like Gene Autry: A Foxtrot」を78回転で再生させるという人を食った仕掛けのほうで、中身の音楽そのものを本当に楽しめていたかというと、正直あまり自信がありません。

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    今は78回転にできるプレーヤーを持っていないのでCDで聴いているのですが、ふと「これは68年の作品なのだから、The Beatlesを聴いているつもりで聴けばいいのではないか」と思い立ったところ、急に音楽がすっと耳に入ってくるようになりました。

    とりわけ1曲目の「The Place and the Time」は、わずか2分ほどの曲だというのに、4/4拍子で始まったかと思えばすぐに3/4拍子へ移り、また4/4に戻ってオーケストラとホーンが加わり、今度はリズム隊がふっと消えてしまうという目まぐるしい構成で、その合間には自転車のベルや車のクラクションのような効果音まで紛れ込み、さらにピッチの怪しいボーカルがその上をゆらゆらと漂っていくものですから、最初に聴いたときには「下手なのか、壊れているのか」と戸惑ったのを覚えています。

    ところが、そういうコラージュのような曲なのだと思って身を任せてみると、あの揺れる歌声も整っていないからこそ全体の酩酊感の中にきちんと収まっているように聞こえてきて、むしろ正確なピッチで歌われていたら歌だけが浮いてしまったのではないかとさえ思えてきます。

    そしてこの曲と、Bob Mosleyの名曲「Bitter Wind」の中で鳴る、クラスターのような音の塊がぐうっと上昇していく効果音は、まさに「A Day in the Life」のあのオーケストラの上昇を思わせるもので、最初はシンセサイザーかと思ったものの、当時のMoogはモノフォニック(単音しか出せない仕様)でしたから、あれだけ生々しく揺れながら膨らんでいく音は、プロデューサーのDavid Rubinsonが自ら編曲して重ねたオーケストラによるものと考えるほうが自然なのだろうと思います。アルバムの扉を開けた瞬間に「これは普通のロックではない」と宣言してしまうような、なんとも大胆な幕開けです。

    ちなみにその「Bitter Wind」は、ホーンが弾むような「Can’t Be So Bad」のB面として、アルバムから3か月ほど遅れた68年7月にシングルカットされていて、デビュー作のときにColumbiaが5曲を同時にシングル発売するという前代未聞の売り出し方をして空回りしたことを思えば、ずいぶん落ち着いた出し方になったものだと感じますし、イギリスではむしろCBSの廉価なサンプラー・アルバム『The Rock Machine Turns You On』に「Can’t Be So Bad」が収められたことで、多くの若いリスナーがこのバンドの名前を知ることになったそうです。

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    そういう耳で聴き直してみると、『Wow』は『Sgt. Pepper’s』以後の「何を入れてもいい」という空気をまっすぐに受け継いだ、いわばBeatlesの後継のようなアルバムに聞こえてきますし、戦前のダンスバンド風のパスティーシュをわざわざ78回転で入れてしまう遊び心などは、Beatlesが「Honey Pie」で同じ方向へ振り切れる同じ年の秋よりも先に、そこへたどり着いていたとさえ言えるのかもしれません。それでいて同時代のHendrixやCreamのようにサイケデリックを音圧や歪みの方向へ押し進めるのではなく、カントリーやフォークやR&Bを5人で歌い分けるバンドの素地の上に、サイケの色彩がふわりと乗っているだけなので、全体としてはハードではない、どこかバロック・ポップにも通じる柔らかな手触りのロックになっているところが、このアルバムの不思議な魅力なのだと思います。

    発売当時は、名盤と言われたファーストへの期待が大きすぎたこともあって「散漫だ」「作り込みすぎだ」と散々に叩かれたそうですが、Beatlesの延長線上に置いてみると、その散漫さこそが1968年という時代の美学そのものに聞こえてくるのですから、聴き方ひとつで同じ音楽がここまで変わるものかと、少し驚いています。

    というわけで、CDを聴きながら、次はダイレクトドライブで78回転にも対応したDJ用のターンテーブルを手に入れて、値段が上がりきってしまう前にもう一度このLPを買い戻そうかと考えているところです。今度こそ、あのFoxtrotを正しい回転数で、ジャケットを眺めながら聴いてみたいと思っています。

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    【 最近はレコードと日常の短めエッセイにハマり中 (^^v 】 AIによる一次資料解析に半世紀の知見を重ね、メディアと写経による誤謬や紋切り型の評価を廃し、作品の深淵に迫るーーこれまでにない洋楽評論。

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