
師匠の言葉 2-2 『メッキは剥がれる。』
最初の師匠であるM先生の元で、一般歯科診療に約5年間従事したあと、私はある矯正歯科に勤めることになった。
そのクリニックを運営する医療法人の理事長K先生が、私の「第二の師匠」である。
K先生は、とにかく決断と行動が早い人だった。
良いと思った治療法や高額な最新機器、道具があれば、何のためらいもなく即座に臨床の現場へと導入した。
その一方で、「これは違う」と判断すれば、惜しげもなくあっさりと見切りをつけてやめていく。
あまりに強烈な個性ゆえに、周囲から誤解されることも少なくなかったが、影で愚直に努力を重ねる姿勢を、私は間近で見ていた。
30代前半だった私は、K先生の蔵書の矯正学の専門書をひたすら読みあさり、
K先生がこれまで受けてきた膨大なセミナーや研修の録音テープ、ビデオを、夜な夜な診療後に残って視聴していた。
そんな私の姿を見て、K先生はいつもこう声をかけてくれた。
「そうそう、今のうちにとにかく勉強しておくんだ。
そのうちな、メッキは剥がれるから。
若いうちにどれだけメッキを分厚く塗っておけるかが、後になって効いてくるんだよ。」
「メッキは剥がれる」
人は年齢を重ねるにつれ、かつて身につけた知識や技術のメッキが少しずつすり減り、剥がれていく瞬間に行き当たる。
だからこそ、剥がれ落ちるスピードに負けないほど、分厚く塗り重ねること。
それが、どれほど大事なことか、今ならよくわかる。
今、私は50代の半ばを過ぎている。
30代の頃のように、朝まで専門書を読むような気力はなくなってしまった。
正直言って、情熱や根気が減退している。
手前味噌ながら、もし、20代や30代、40代の頃、無理やりにでも詰め込んでいた時期を経ていなかったら、今頃どうなっていたかと思うと、心底ゾッとする。
いや、もしかしたら、これは常に続くもので、
60代になったら、50代の時にもっとやっておけばよかったと思うのかもしれない。
自分自身が年齢を重ねて思う。
K先生の言っていたことは、本当だった。
「メッキは剥がれる」
だからこそ、常に「メッキを重ね続ける」ことも大事だと感じている。