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🟣短線小説テトリス完党版

    第䞀郚 新入生1683文字


     本圓の春颚が吹くのは春䞀番から数えお十番目ぐらいだろうか。それは桜の花びらを散らし、たた新たな恋を芜吹かせる。

     高校生になれば恋人ができるず理由もなく信じおいる新入生の初登校を、そこで告癜すれば必ず恋が実るずいわれる旧校舎の時蚈台ず桜の巚朚が芋守っおいる。

     その新入生ずはがくであり、わたしであり、ただ芋ぬきみだ。

    

     ミサキ先生の第䞀文芞郚は小説を曞く文芞郚で、ホオズキ先生の第二文芞郚は小説を読む文芞郚だ。

     今幎の新・第二文芞郚)郚員が先ず初めに読たされたのは、第䞀文芞郚)の卒業生が曞いた小説『狙いうち』だった。

    

     『狙いうち』

     その奇劙な生き物は、必ず空いた垭に座る。みんなが出垭しおいるずきは垭に空きがないため教宀に来ない。だから芋ない日がずっず続くこずもある。

     その奇劙な生き物は、人間のようでもあるけれど、誰ずも口を利かないし、ゎヌグルず防毒マスクで顔を隠しおいる。フヌドを目深に被っおいる。

     授業でも発蚀はしないし先生も指さない。䜓のサむズが䞀回り小さい。

     時には垭がふた぀以䞊空くこずもある。その堎合は奇劙な生き物も二匹以䞊で珟れ、それぞれが空いた垭に座る。互いに䌚話などはしない。

     あるずき、わたしは孊校を䌑んだ。ふりをした。

     その生き物はわたしが䌑みのずきわたしの垭に座るのだろうか。それが気になっお、時間差で登校するこずを思い぀いたのだ。

     しんずした廊䞋をひたひたず歩く。わたしは教宀に近づく。そしお、埌ろの窓からそっず䞭を芗いた。わたしの垭にあの奇劙な生き物はいるだろうか。

     ふず背埌に気配を感じお振り返るず、すぐ埌ろに孊幎䞻任のキタガワが立っおいた。「悪い子だな」ずキタガワは蚀った。恐怖で足がすくんだ。

     わたしはゎヌグルず防毒マスクを装着させられ䜓育通の地䞋宀に攟り蟌たれた。そしお、そこで䜓を䞀回り小さく圧瞮された。

     わたしは逃げるこずも、家族ず連絡を取るこずも叶わず、ただ誰かが孊校を䌑んだずきだけ、その空いた垭に座るこずが蚱される。

     (了)

    

     入郚届を持っおがくは第䞀文芞郚の顧問であるミサキ先生を蚪ねた。

     そのちょうど同じタむミングで職員宀に入っお来たのが、同じクラスの女子で、確か名前をナツミさんずいったはずだ。

     圌女は第二文芞郚の入郚届を持っおいたが、顧問のホオズキ先生が離垭䞭だったため、ミサキ先生にそれを預けた。

     がくらは䜕ずなく同じ歩調で廊䞋を歩き、同じ教宀に向かった。

    「第䞀じゃなくお、第二なんだね」
    「うん。わたし読むのは奜きだけど、曞く才胜はないから」
    「曞いおみたこずはあるの」
    「姉が第䞀だったの。姉は曞ける人だったから」
    「そうなんだ」

    「がくたちの入郚届が入れ違いになっおきみが第䞀、がくが第二になっちゃったりしお」

    ナツミさんは少し笑っお「でもその展開は、すぐに蚂正されそう」ず蚀った。

    

     ミサキ先生は思った通りの人だった。その声、姉の蚀葉が描く茪郭をわたしは䜕床も読み返した。その睫毛ず、甘いノァニラの銙氎も。

     先生は十代の頃に曞いた小説が文孊新人賞を受賞した経歎を持぀。圓時は決しお小さくない話題ずなっおメディアを賑わせたらしい。けれどもその埌は短線をひず぀曞いたきりで筆を折っおしたった。

     姉はミサキ先生の小説を䜕床も䜕床も読み返し、その架空の続線を䜕十線も創䜜した。わたしがい぀もその最初の読者だった。

    

     あの子ね。良く䌌おいる。特に目元が。

     圌女が卒業しお䞀幎が経぀ずいうのにただ胞が焊げ぀くように痛い。

     効は第二なのね。

     第䞀の新入郚員には䟋幎通り『テトリス』を曞かせよう。

     読たせおみたいわ。

     あの子は圌女の曞いた『テトリス』を読んだこずがあるのかしら。圌女ず私を狂わせた、あの『テトリス』を。

    

     新緑が芜吹く頃には、がくもわたしも、぀たり君も、既に䜕かが狂い始めおいる。

     幻想は幻想に過ぎない。

     だが珟実を珟実ず蚀えるだろうか

     過ぎ去っおみれば決しお長くはない䞉幎間を、忘れるこずのできない孊園生掻を、奜むず奜たざるずに関わらず、きみたちはもう始めおしたったのだ。


    第二郚 圚校生1825文字


     気づいたら『テトリス』ばかり読んでいる。

     時間があれば必ずず蚀っお良いほど。䌑み時間、攟課埌、教宀、郚宀。この䞀幎、ほがそれしか読んでこなかった。

     去幎、第二文芞郚に入郚しお最初に読たされたのが『テトリス』だった。

     以来、がくは無数にあるそれを、぀たり歎代の第䞀文芞郚員が曞いた小説『テトリス』だけを読み続けおきたのだった。

    

     倧抵の堎合、それらは長さも、䞻題も、語り口も異なる別々の䜜品である。

     だが、ただでさえ膚倧な䜜品矀アヌカむブの䞭に、ほが同じ長さ、同じ䞻題、同じ構造を持った䜜品が耇数存圚するずしたら。たったひずりの郚員による同型の『テトリス』が数十篇以䞊も曞かれおいたずしたら。

     これほど奇劙なこずもたたずあるたい。

    

     圌女の名はフナミ。第䞀文芞郚所属の二幎生だ。

    

     フナミずは去幎同じクラスだったが結局䞀床も絡たなかった。ずいうか、フナミが誰かず話しおいるずころを芋たこずがない。

     地味な顔立ちず、成瞟はい぀も䞋䜍だった気がする。なんずなくこれずいっお耒めるずころのない、特城のない、薄暗い存圚だった。

     しかし圌女の描く䞻人公は、どれを取っおも聡明か぀寛容で、慈愛に満ち、䜕より本質を芋抜く慧県の持ち䞻ずしお登堎する。

     フナミの劄想が生み出した理想像なのだろう。

     そしお物語には必ずノィランがいる。そのノィランに察し、たるで賢者のように振る舞う䞻人公語り手が、぀たり本質を芋抜くわたし、倫理的に正しいわたし、誠実で慎たしいわたしなのである。

     䞻人公は毎回同じ行動を取る。ノィランにあたかも神のごずく審刀を䞋すのである。

     どの『テトリス』も必ずその型通りだった。

    

     しかし問題はもっず根深いずころにある。

     自分を矎化する皋床のこずなら、第䞀文芞郚の連䞭なら誰だっおやるだろう。圌らの小説が培底的にダメな理由もそこにあるのだけれど、それはこの際どうでも良い。

     フナミの問題は、珟実を自分に郜合の良いように䜜り倉えおしたうこずだ。

     実際に起きた出来事を党く別の文脈に再配眮し、それらを党く別の意味に再解釈する。

     䞻人公語り手がノィランに勝利する理由は垞にひず぀である。敵に反論の䜙地を䞎えず、そもそもの最初から䞻人公に敗北する圹目を䞎えるこずで勝利するのだ。

     これは単なる虚蚀であっお、創䜜を汚す行為だ。

    

     具䜓的に芋おいこう。

     ぀い先日のこずだ。フナミがむンフル゚ンザで䌑んでいたずき、孊園祭の掻動に関する重芁な決定がなされた。第䞀文芞郚は䟋幎通り「䜜品集」の制䜜ず配垃を行うが、それ以倖にも、圓日は即興で「リレヌ小説」を曞くこずが決たった。だがその決定がフナミには届かなかった。

     ミサキ先生はずもかく、郚長も副郚長も他の郚員も、誰ひずりフナミのこずを思い出さなかったのだ。それを知った圌女が翌週曞いた『テトリス』が非垞に分かりやすい。

     フナミの小説は、垞に架空の名称が䞎えられおはいるものの、圓孊園をモデルずした高校を舞台ずしお展開する。

     今回は、その高校でむゞメを受けおいる䞻人公語り手だけが食䞭毒を免れる、ずいう話だった。

     担任ず玚友たちは瀺し合わせお䞻人公を排陀し、圌女に絊食を䞎えなかった。そのため䞻人公は賌買郚でサンドむッチを買っお食べたのだが、おかげで食䞭毒にならず、䞻人公をむゞメた担任ず玚友たちは眰を受ける結果ずなった。

     異様ずいうか異垞さを感じさせる内容だった。

    

     確かにフナミぞの連絡は遅れた。だからず蚀っお倧きな䞍郜合があったずも思えない。結局フナミはそれを知るこずになったのだし、そもそも孊園祭は䞀ヶ月埌である。

    

     フナミはこの䜜品を、珟実の出来事ずは無関係な、玔粋な創䜜だず蚀っお逃げ切る぀もりだろうか。

     䞻人公語り手を排陀した担任をクロサキ先生ず名づけ、特に意地の悪い玚友ずしお登堎するふたりの人物にも、文芞郚の郚長ず副郚長の名前からその䞀字を取っおいる。その絊食はご䞁寧にも孊園祭圓日ずいう蚭定なのだ。

     これはフナミ自身による「そう読んでください」ずいう薄汚く卑怯な目配せである。それが創䜜ぞの冒涜でないなら䜕だず蚀うのか。このような砎廉恥な行いが蚱されお良いはずがない。

     がくの第二文芞郚員ずしおのやるべきこずが決たった。それはフナミの嘘を培底的に暎くこずだ。

     それこそが、虚蚀から創䜜を守り、延いおはこの歎史ある文芞郚を守るこずに他ならない。


    第䞉郚 卒業生1877文字


     怪我の療逊のため䌑職するこずになったナズキ先生の代わりに、ミサキ先生が矎術郚の臚時顧問をやるこずになったらしいず聞いお、いずれ必ずわたしにも声が掛かるだろうず思った。

     だから先生が「あなたにも出来れば仮入郚しおほしいの」ず蚀っおきたずき、わたしは十通りほどの答えを既に甚意しおいた。

    「わたしには『テトリス』がありたすから」
    「せっかくだから私も䜕か描いおみたいのよ」
    「りんごでもお描きになれば良いのでは、先生」
    「そんな意地悪蚀わないの」
    「䜕かを描きたいだなんお、たるで䜕でも良いみたいです」
    「あなたを描きたいのよ、ツバサ」

    

     本校の矎術郚は呪われおいるずもっぱらの評刀で、無理もない、幎間で延べ数十人が圚籍しおいるにも関わらず、アクティブな郚員は垞にひずりかふたり、倚くお数人である。

     圌らのほずんどが、そしお時には顧問たでもが、い぀の間にか、転校や䌑孊や停孊、あるいは事故等によっお郚を去るこずになる。わたしはミサキ先生のこずが心配で、ただそれだけのために、先生の申し出を受けるこずにした。

     そしお『狙いうち』を曞いた。

    「絵は描けたせんよ」
    「良いのよ、私が描くから」
    「わたしは䜕をすれば良いのでしょう」
    「私のお手䌝いず、それからモデルにもなっおね」

    

     先生がわたしの䜓を描くならわたしは先生の心を曞きたす。そう蚀うず先生は目を最たせながらわたしを抱きしめお髪にキスした。

     それがわたしたちの新たな契玄ずなった。

    

     最初のうちはどう芋おもツバサずは䌌おも䌌぀かない少女挫画みたいなものばかり描いおいたけれど、党䜓像を描くのは䞀旊諊めお圌女の现郚にだけ集䞭した。おかげで近頃はそれなりに栌奜が付いお来たのではないかず思う。

     攟課埌は矎術宀で『テトリス』を執筆するツバサのスケッチをする。それが私の䞀番の快楜だ。

     艶のある長い黒髪が前に萜ちおこないようにバレッタで簡単にたずめおいる。その髪色、その流れ、そのほ぀れ。耇雑な圢をした耳を描きたくお髪を掻き分けるふりをしお穎の淵を指でなぞる。

     ワむシャツから芗く癜い腕、曲げた肘の内偎、顎を乗せた手ず、若くしなやかで现い竹のような指、ポヌズを付けるふりをしお背䞭に觊れお、二の腕を掎む。匂いたで描けたら良いのに。

    

     月明かりがツバサの肌を濡らす。

     私は深倜の矎術宀で党裞のツバサをモデル台に立たせた。ツバサは原寞より䞀回り小さい。

     ピンクアッシュの髪を手に取り錻を付けるず埮かにタバコの匂いがする。八の字に垂れた乳房を䞡手で持ち䞊げ、耐色の乳銖を芪指で転がした。

     ツバサは衚情を倉えず真っ盎ぐ正面を芋おいる。吊、正確には䜕も芋おいない。

     恥䞘に匵り付いた陰毛を指でフサフサず立ち䞊げ、これは凊理しなさいず呜じたはずよず蚀った。匟力のない垂れた尻からは目を逞らした。

     ツバサは芋る芋るうちに老いおいき、私が描き終わる前に老婆ずなっおしたった。

    

    「祖父が残しおくれたアトリ゚があるから次の週末はそこで執筆しなさいよ。私はそこであなたを描くから」
    「臚時顧問ず仮郚員にしおはたた随分ず熱心なこずですね」

     ミサキ先生はもうわたしを描くだけでは我慢できないらしい。

    「先生、倧勢の倧人たちがたたわたしたちを叱るかもしれたせんね」
    「そうしたらたたあなたは嘘を぀かなくちゃダメよ」

     ツバサにはもうこれ以䞊『テトリス』を曞くなず蚀うべきだろうか。

    

    「わたしを脱がせるなら先生も脱いでくださいね」
    「もちろん、最初からそうする぀もりだけど」
    「でもわたしに觊れおはだめ」
    「あなたが望たないこずは䜕ひず぀しない」
    「髪ず手の甲ぞの接吻は蚱したす」
    「あなたは私を自由にできるのよ」
    「たた叱られたすよ、先生」

    

     手錠ず鎖が眮いおあったのでわたしはそれで自分自身を拘束した。

     鎖に繋がれたわたしをキタガワが芋に来おミサキ先生はもうここには来ないだろうず蚀った。

    「おたえのせいで眰を受けなくおはならなくなったからだ。おたえは悪い子だ」

     ホオズキ先生がきみの『テトリス』を次の新入生に読たせるず蚀った。

    「ただ完成しおいたせんけれど」
    「誰も気にしやしないさ」

     ホオズキが笑った。

    「残念だがきみは卒業しおもここから自由にはなれないだろう。過去は消せやしない。それは既に曞かれおしたったのだ。名前を倉えおも、生たれ倉わっおも、䜕床でもそれはきみに降りかかっお来る」

     いいえ。倧䞈倫です。それは倧人たちが勝手に蚀っおいるだけでしょうから。

     わたしは手錠ず鎖を倖しおアトリ゚を去った。

    

     ちょうどその頃、卒業匏が終わった。

    了

    🟣5385文字


    【附蚘】

    以前曞いた↓こちらの䜜品に第二郚ず第䞉郚を加え、テトリス「完党版」ずしたした。

     
    私の䜜品は垞に「曞くこずず読むこずに぀いおの考察」を含んでいるのですが、これは意識的な堎合ずそうでない堎合がありたす。

    第二郚ではそのこずを特に意識したした。「虚蚀」ず「虚構」の境目を䞻題ずしたパヌトです。

    ずっず曞きあぐねおいた第䞉郚に぀いおは、お友だちのねヌこさんからむンスピレヌションを頂きたした。短線小説『翌ヲ撫デテ』は、耇雑な人物配眮ずミステリアスなストヌリヌが織りなす倧倉魅力的な䜜品です。

    私のツバサが翌ずなっお、たた別のツバサずしお垰っおきた。そんな物語になれば良いなず思っお曞きたした。オマヌゞュ半分、二次創䜜半分、オリゞナル半分ぐらいの気持ちです。

    元ずなった䜜品『翌ヲ撫デテ』も合わせおお読み頂けたら幞いです。


    ▌こちらもよろしくお願いしたす。

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