
⚪️企画作品|通夜
第1話 冥府の入口
きのう父が死んだ。突然死だった。近くの斎場で通夜があるという。母は来るのか、と訊ねたが相手の返答は要領を得ない。おそらく来ないのだろう。
私は仕事が終わり次第行きますと伝えて電話を切った。再婚して一年で未亡人になるなんて可哀想な人だ。私と大して年齢が変わらないのに。
***
降り出した雨が顔をべた付かせる。
斎場は職場から二時間ほどの場所だ。仕事柄喪服の用意はあるが着の身着のままで良いだろう。
父は「マッチョ華道」という名前でお笑い芸人をしていた。芸人仲間は来るのだろうか。ろくでもない連中だけれどよもや義理人情までは欠くまい。
***
おかしなことに父の名前がない。斎場のスタッフに確認しても、そのような御芳名での御予約はないという。私は念のため「マッチョ華道」でも訊いてみた。
「真智代、加藤さま」
「いいえ、マッチョ華道」
「松岡、童さま?」
「違います、もう良いです」
***
父の再婚相手に電話をしたが繋がらない。どうなっているのだろう。
「あのう、お客様。もしかしたらですけど、この近くに別の斎場がいくつか出来まして……」
「いくつか?」
「ええ、去年あたりから急に増えだしたのです。私どもも不思議でならないのですが……」
電話が来た。父の再婚相手だ。私は少し苛立った口調で問い詰めてしまった。どこの斎場に行けば良いのか。もう一度場所を教えてくれ。すると彼女はまた同じ場所を告げた。今そこにいるんだけど?
プツリと電話が切れた。
***
「お前、こんなところで何をやってるんだ?」
青白く生気のない表情、鍛え上げたはずの身体はひとまわり以上も小さく萎んで見える。これ以上ないほどだらしない、よれよれの、花柄のシャツ。
「お前の母さんを探しに来たんだ」
その声は紛れもなく父のものだった。
(最終話はこちら)
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