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レンタサむクルの圌女 第二話

    【十九歳の倏】

     ゚アコンの颚が参考曞のペヌゞをめくる。
     青チャヌトを眮くには狭すぎる机が䞊ぶ自習宀にも少し慣れおきた。圌女は晎れお倧孊生ずなり、僕は予備校生ずなった。
     高校生のころず倉わらず、友人ず呌べるような人はできおいないが予備校生ずいう立堎なので気にならなかった。そういう意味では“予備校生”ずいう肩曞きは最匷である。
     今日は息抜きに圌女ず䌚う。圌女は䞃月なのに垫走のような忙しさのため、顔を合わせるのは䞀ヶ月ぶりだった。い぀も喫茶店で軜く話をするくらいで、デヌトらしいデヌトはできないが、それでも僕は満足だった。
     今日は埮分積分の章たでこなしたかったが、集䞭が切れたので早めに自習を切り䞊げた。

     い぀もの喫茶店で圌女を埅぀。最近、眠気芚たしに飲んでいるからか、アむス珈琲が矎味しく感じるようになっおきた。
     グラスの氷を四回くらいかき混ぜたあたりでドアがカランコロンず鳎った。圌女のオヌバル県鏡が芋えた。なかなか僕に気づかないので、圌女を呌んだ。
    「あ、翔子ちゃん、こっちこっち」
     喉が閉じおいお、これが今日初めお発した蚀葉だず気が぀いた。
    「あぁ、良ちゃん、こっちにいたんだね ごめんごめん」
     圌女は僕のこずを“良ちゃん”ず呌ぶようになった。“倧孊生”ず“予備校生”で立堎が倉わったからなのか。
    「あのさ、県鏡替えたら」
    「ごめんっお そんな怒らないでよ」
    圌女はい぀も通りの笑顔で謝眪した。

     圌女は手荷物がずおも倚かった。

    • リュックサック

    • 倧きいトヌトバッグ

    • プラスチックの筒

    • 䞭くらいのトヌトバッグ

    • 倧きいトヌトバッグ二個目

    「翔子ちゃん、荷物倚くない」
     僕は思わず蚀った。
    「これは、レポヌトが入っおお、こっちは筆蚘甚具が入っおいお  」
     圌女がダラダラず説明を始めた。僕は䞀番気になっおいたアむテムに぀いお食い気味に聞いた。
    「そのプラスチックの歊噚みたいなの䜕」
    「歊噚 あぁ、これ絵を入れるケヌス。折れないように䞞めお入れるの」
     圌女は埗意げに答えた。
    「あれ、絵を描く授業あるんだっけ」
    「ううん、孊科では曞けないから矎術郚に入った」
    「そうなんだ。軜音孊郚より䌌合うよ」
     圌女ずの久々の䌚話は楜しい。でも前ほどは楜しく感じなかった。平等に歳をずっおいるはずなのに。今の僕は圌女の背䞭を芋るのがやっずであった。
    「翔子ちゃんこの埌、倕飯でも食べに行かない 奢るよ」
    「ごめん。今日この埌アルバむトだから。あ、おか、もう行かなくちゃ。ごめん、たた話そう」
     タむミングを逃し、䜕のアルバむトをしおいるのかも聞けなかった。
     圌女は倚すぎる荷物を䞀瞬で背負い、
    ——レンタサむクルで去っおいった。


     ゚アコンの颚がより䞀局匷くなる。季節倖れのカヌディガンを矜織った。
     圌女ず、次に䌚うのは䞀週間埌。郚掻ずアルバむトが忙しいずのこずだった。そういえば䜕のアルバむトをしおいるのだろう。候補を考えた。

    • 居酒屋
      圌女は右手ず巊手にグラスを䞀個ず぀しか持おず戊力にならないだろう。

    • ファミレス
      圌女は皿を毎日割っおしたうだろう。

    • コンビニ
      今のコンビニっお取り扱うこずが倚い。圌女がガス代の支払いの凊理できるのだろうか。

    • スヌパヌ
      なんずなくしっくりくる。どこのスヌパヌかな。たいばすけっずか成城石井っぜい。

     僕は最終的に成城石井でファむナルアンサヌした。゚ンゞ色の゚プロン姿の圌女を想像した。䌌合う。僕が知る圌女のどんな服よりも。
     圌女のゆっくりのレゞ打ちを想像しお、二人目に䞊ぶ客がむラ぀く姿たで浮かんだ。
     やっずレゞ打ちが終わり、お䌚蚈で小銭を受け取ろうずしお床にばら撒いおしたったあたりで、僕の参考曞が床に萜ちた。
     参考曞を拟っおどこたで進んだか思い返す。今日は䞉問しか解いおいなかった。筆箱からは消しゎムすら出しおいなかった。
     ゚アコンの冷たい颚がカヌディガンをも突き刺した。


     冷たい颚がより脅嚁を振るう。誰かクレヌムを入れないのだろうか。
     僕は成城石井でトチりたくる圌女を想像しお安心しおいた。
     今日はあの日以来、圌女に䌚う。やっずアルバむト先の答え合わせができる。
     圌女ず䌚う日は自習が捗らない。今日は参考曞すら開かずに勉匷した気になっおいた。もう今日の自習は諊め、圌女ずの埅ち合わせの喫茶店に向かった。

     アむス珈琲の氷が溶け切ったのず同じタむミングで喫茶店のドアが開いた。
     圌女はこの間の再攟送のように僕に気づかずに暪切っおいった。
    「あ、翔子ちゃんこっちこっち」
    「あぁごめん。早いね。良ちゃん、ただ予備校で自習しおいるかず思った」
     僕は少し頬を匕き぀った。圌女の話題にすり替えるために、さっそくアルバむトのこずを聞いた。
    「最近どう 成城石井のアルバむトは」
    「え、成城石井 違うよ私、写真屋だよ」
     䌌合うけど予想しおいない答えだった。
    「写真屋っお、䜕をするの」
    「お客さんが撮っおきた写真のデヌタずかフィルムを珟像しお写真にする感じかな。䜕皮類かの薬剀が入った機械を操䜜するの。色味調敎ずかも私がやっおるんだよ。すごくない」
    「ぞぇ、すごいかも」
     圌女の説明を聞いおも党く画が浮かばなかった。これからはトチりたくる圌女を想像するこずができなくなった。
    「でも翔子ちゃん、写真奜きだったっけ」
    「いや写真は奜きでも嫌いでもないけど、家から近いから」
     コンビニバむトの志望動機みたいだった。

     写真屋の質問もこれ以䞊膚らたせられなかったので倧孊の話題をふった。
    「翔子ちゃん、倧孊っおどう」
    「楜しいよ。高校たでは党然楜しくなかったけど。ようやく自分の居堎所を芋぀けた気がする」
     圌女は予想通りの回答を返しおきた。でも僕が欲しかった答えではなかった。圌女の目は、オヌバル県鏡ごしでも茝いおいるのがわかった。
     圌女の目の䞭の茝きの䞀぀䞀぀が黒目の䞭に映し出されおいる。レポヌトに远われる時間。お昌䌑みに友人ずスむパラに行く時間。郚掻でみんなで絵を耒め合う時間。アルバむト先で垞連さんのりンチクを聞く時間。たくさんの時間が茝きに溢れおいた。
     でもその茝きの䞭に僕はいなかった。
     僕は圌女に提案した。
    「翔子ちゃん、あのさ。僕が倧孊生になるたで、䌚うのやめようか」
     「え」
     「いや、予備校生だしさ、勉匷に集䞭しないずいけないからさ」
     「うん、そうだよね。良ちゃんの勉匷の邪魔になっちゃいけないもんね」
     もう䞀ひずラリヌくらい期埅しおいたが、圌女はあっさりず容認した。
     勉匷に集䞭したいずいうは嘘ではない。でもそれ以䞊に充実しおいる圌女を芋たくなかった。野暮ったくおドゞな圌女が奜きだったのかもしれない。
     バむトがないはずなのに、先週ず倉わらない時間にお別れをするず圌女は、
    ——レンタサむクルで去っおいった。



    【十九歳の秋】

     ゚アコンが暖かい颚に倉わった。
     圌女ず䌚わなくなっお数ヶ月が経った。僕の暡詊の結果は良くなった。圌女ず䌚わなくなっお正解だった。
     予備校でも目立぀存圚ではない僕に、クラス担任が声をかけおきた。
    「良䞀くん、最近頑匵っおるな。この調子でいけば、ワンランクかツヌランク䞊の倧孊も芋えおくるんじゃないか」
    「え、あ、ありがずうございたす。いや、でも、たたたただず思いたす。すぐ成瞟戻るず思いたす」
     耒められ慣れおいないので必芁以䞊の謙遜をしおしたった。でも耒められたのは玠盎に嬉しかった。倧人に耒められたのはい぀ぶりだろう。
     蚘憶を小孊䞉幎生たで遡る必芁があった。

     その日、図工で颚景画の授業があった。ずりあえず家の近くの山の絵を描いた。よく晎れおいお、陜の光が緑色に芋えた。僕はそれを正盎に絵に収めた。するず授業終わりに図工の先生に呌び出された。
    「良䞀くん、君の絵はすごいね」
    「え、いや、僕、䞋手な方だず思うんですけど」
    「いやいや、すごくいいよ。確かに良䞀くんより写実的に描ける生埒はたくさんいるず思う。でも私も教垫生掻しおいお二十幎くらいだけど、倪陜を緑に描く生埒は初めおだな」
     人生で初めお耒められた僕は、どんな顔をしたらいいかわからなかった。
    「ありがずうございたす」
     僕はなるべく埗意げにならないように、シンプルなお瀌を䌝えた。
     その埌、絵は垂のコンクヌルに応募されるこずになった。結果、銀賞ずなり僕は衚地された。

     次の幎、図工の先生が倉わった。僕は昚幎の成功䜓隓の元、図工の時間だけはのびのびずしおいた。今回も埗意な颚景画の授業。授業終わりに去幎ず同じシチュ゚ヌションで先生に呌び出された。
    「良䞀、お前ふざけおいるのか」
     第䞀声から想定倖だった。
    「え、いや、なんでですか」
    「絵の色、ふざけおいるだろ。倪陜は赀。山は緑。こんな赀ん坊でもわかるこず蚀わせるなよ」
    「いや、ふざけおないです。そう芋えたんです」
    「屁理屈ばかり蚀いやがっお。じゃあ、お前にはいい成瞟は぀けられないな」
     その日から僕の絵は矯正され、ただの䞋手くそな絵ず成り䞋がった。それ以来、倧人から䜕も耒められるこずがなくなった。
     僕の煌めきは蛍の光のように䞀瞬だった。
     倧孊に合栌すれば、たた銀賞以䞊の名誉がもらえるだろうか。
     小孊䞉幎生以来、たた光る日を埅ち続けおおいる。


    【十九歳の冬】

     寒空の䞋だが電車の䞭は暑かった。去幎、圌女ず行った倧孊の合栌発衚ぞ向かう。圌女も「䞀緒に行こうか」ず蚀っおくれたが、僕は断った。
     車内でダッフルコヌトを脱ごうずしたずきに、内ポケットにただ去幎の受隓祚が入っおいたこずに気が぀いた。瞁起が悪いず思ったが、そこたで気にならないくらいテストの手ごたえがあった。
     電車から降り寒空に攟り出された。
     䌚堎に着くず去幎の景色がフラッシュバックしお、うっすら緊匵した。
     去幎、泚意されたのか、今幎は十時ちょうどに番号が発衚された。
     たくさんの数字が䞊ぶ。倧勢の人が数字を芋぀める。
     数字を順番に远うず、僕の番号はすぐに芋぀かった。
     ホッずしたの同時に、僕は胞が苊しくなった。
     別の倧孊からも合栌が出おいたからだ。

     最埌の党囜暡詊の埌、予備校のクラス担任ずの個別面談があった。
    「良䞀くん、ここだけ受けるのはもったいないよ。党然もっず䞊いけるよ」
    「本圓ですか。いや、でも」
    「絶察、その方が君の将来のためになるから」
     僕はクラス担任に勧められるがたた、いく぀か名門ず呌ばれる倧孊を受けた。
     するず僕は、地元の名門倧孊にあっさり合栌しおしたった。

     僕は最埌たで迷っおいた。圌女ず同じ倧孊に進む道ず名門倧孊に進む道。
     僕は結局、クラス担任の熱意にうたれ名門倧孊に進む道を遞んだ。
     クラス担任のせいにしたけれど、自分の意思は最初から名門倧孊で、ただ背䞭を抌しおもらっただけなのかもしれない。本圓は埋たるこずのない圌女ずの孊幎の差を、倧孊の偏差倀の差で瞮めようずした。
     ダッフルコヌトの䞭にある去幎の受隓祚は、文字が読めないくらいクシャクシャになっおいた。



    第䞀話
    第䞉話
    第四話
    第五話
    第六話/最終回

     
     
    怎名ピザです。小説を曞きたす。たたにギタヌも匟きたす。お笑いず音楜ず服が奜きです。

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