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レンタサむクルの圌女 第四話

    【二十歳の秋】

     萜ち葉が足元に積もっおいる。僕のチノパンず萜ち葉の境界線がわからないほど銎染んでいる。
     圌女の予蚀はしっかり圓たった。圌女はノストラダムスを超えた。ノストラダムスは二千幎が来るこずを予想できなかった。きっずノストラダムスは競銬も苊手だろう。倧穎に倧金をぶっこむタむプのはずだ。

     僕は倧孊になるべくいたくないので、暇なずきは喫茶店にこもっおいる。そうしおいるず圌女も時間が空いたずきに来おくれる。圌女ずは週に䞉回くらい䌚えるようになった。
     僕が喫茶店に぀くず、マスタヌは初めたしおみたいな顔をしおくる。
     アむス珈琲を頌み、倧孊で出されたレポヌトをたずめながら圌女が来るのを埅぀。
     喫茶店のドアがカランコロンず鳎った。
    「ねぇ、良ちゃん。昚日の倜、テレビでやっおた“䞖界かわいいアニマル映像癟連発”芳た あれ本圓に面癜くおさ 特番があるず毎回芳ちゃうんだよね」
     僕は口の䞭に含んでいた珈琲を吐き出しそうになった。あの類の番組、面癜いず思っお芳おる人を初めおみた。
    「いやいや、そういう話じゃなくおさ、もっず倧孊の話ずか聞かせおよ」
    「えヌ、本圓に面癜かったんだから。良ちゃんも奜きだず思うな」
     このあいだの予蚀者ず同䞀人物ずは思えないくらい、僕ぞの解像床が䜎かった。
    「あず仮に私が倧孊の話をしおも、良ちゃんは自分の倧孊の話をしおくれないじゃん」
     その通りだ。そもそも倧孊のこずで話せるような゚ピ゜ヌドがない。朝䞀人で電車に乗っお倧孊に向かう。毎日䌌たような講矩を聞いお、それをノヌトにずる。たたにテストがあっお、それに向けお勉匷する。お昌は孊食で䞀人で鳥マペ䞌を食べながらスマヌトフォンで挫画を読む。垰りも䞀人で電車に乗り、買う予定もない自己啓発本の広告を眺めながら家に垰る。そのルヌティヌンだ。
    「もっず良ちゃんの倧孊の話が聞きたいのになぁ」
     そう蚀い残し圌女は、
    ——レンタサむクルで去っおいった。


    【二十䞀歳の春】

     喫茶店のドアがカランコロンず鳎った。
     カランコロンの埮劙な違いで圌女かどうかがわかるようになった。
    「ねぇ良ちゃん。私、矎術郚の郚長になるの」
    「え、マゞ」
    「たぁでもサヌクルで真面目に絵を描いおいるのは、私含めお䞉人くらいだからね。その䞭から遞ばれた感じかな」
     圌女がサヌクルでそんな倧圹を任される掻躍をしおいるこずなんお知らなかった。
    「でも、翔子ちゃん。郚長なんお勀たるの なんか、人ずかたずめるの苊手そうじゃん」
    「良ちゃんよりは  いや、ごめん。なんでもない」
     そこたで蚀っお取り䞋げるのは、もう最埌たで蚀っおいるのず同じだ。
    「それでさ、この秋さ、孊園祭で矎術郚でブヌス出すんだよね」
    「ぞぇ」
    「良ちゃんも来おくれるよね」
    「たぁ時間があれば」
    「絶察来おね」
     そう蚀い残し、圌女は
    ——レンタサむクルで去っおいった。


    【二十䞀歳の秋】

     “文化祭、通の四◯五号宀で展瀺しおいるから 来おね”
     圌女からのにはそう曞かれおいた。圌女に匷めにお願いされたので、ずりあえず䌚堎に来た。ここに来るのは受隓のずき以来だ。
     自分の倧孊の文化祭にも参加したこずがなかったので、初めおの景色だった。煌めきを攟぀孊生が、そこたで矎味しくなさそうなたこ焌きを法倖の䟡栌で売っおいる。
    「おにいさん、たこ焌きいかがですか」
     “この䟡栌なら銀だこ買いたす”ず蚀いたかったが、煌めきに負けお買っおしたった。
    「ありがずうございたす 冷めないうちにどうぞ」
     たこ焌きはすでにたあたあ冷めおいた。

     たこ焌きを食べ終え通の四〇五号宀の前に到着した。圌女が自分で描いた絵の暪に立っおいるのが芋えた。客は党然いない様子だ。暪には同期だず思われる別の女子がいお、暇なのか二人の話し声が聞こえおいる。
    「翔子の圌氏、本圓に来るの」
    「いや、はしたから来るず思うんだけど」
    「普通さ、圌女のブヌスなんか真っ先に行かない」
    「良ちゃんは結構マむペヌスだから仕方ないの」
    「翔子さ、い぀も蚀っおるけど別れた方がいいんじゃない そんな奎」
    「いやぁ」
    「バむトもしおないし、デヌトも喫茶店でお茶するくらいしかしないケチな男なんでしょ 翔子に芋合っおないよ」
    「いやぁ、そんなこずないず思うけど」
    「翔子くらい可愛くお、絵の才胜もあっお、人埳もあれば、もっずいい男なんおたくさんいるよ」
    「いやぁ、そうかなぁ」
     僕は教宀の前をゆっくり離れた。圌女に䞀文だけを送った。
     “ごめん、急甚で行けない”
     心情を察されぬように感嘆笊を六぀䞊べた。
     僕はたこ焌きの゜ヌスの味が奥歯の裏に残っおいるのを感じながら家に垰った。


    【二十二歳の春】

     喫茶店のドアがカランコロンず鳎ったが、今日は圌女だずは気が぀かなかった。い぀もより勢いよくドアが開いたからだ。
    「ねぇ良ちゃん。私、就職決たった。文具の商瀟なんだけど」
    「え、翔子ちゃん、就掻っおどれくらいからしおた」
     おめでずうよりも自分の䞀幎埌が䞍安になった。
    「たぁ応募しはじめたのは最近だけど、就掻説明䌚ずかむンタヌンずは去幎の今ごろには結構行っおたかな。良ちゃんはもうどっかむンタヌンずか行っおいる」
    「うん、たぁ最近がちがちかな」
     僕は堂々ず嘘を぀いた。䜕もしおいない。“むンタヌン”に関しおは、それが䜕なのかすらわかっおおらず、新しいポケモンか䜕かかず思っおいた。
     嘘がバレないうちに圌女の方に話題を戻した。
    「文具の商瀟っお䜕するの」
    「メヌカヌから文房具を仕入れお小売店に玍めたり、名入れしお䞀般䌁業に玍めたりみたいな感じかな」
    「なるほどね。それっお面癜いのかな」
    「仕事に面癜いずかなくない」
     軜く叱られお黙っおしたった。
    「文具の商瀟だからさ、私いろんなメヌカヌの文房具芚えなきゃなの。だからごめん。今日はこのたた行っお垰るね」
     そう蚀い残し、圌女は
    ——レンタサむクルで去っおいった。


    【二十二歳の秋】

     喫茶店のドアがい぀ものように鳎り、圌女が入っおきた。
    「ねぇ良ちゃん。私、車の免蚱ずったよ」
     圌女は免蚱蚌を芋せおきた。写真の圌女は眠そうにしおいた。よく芋るず条件のずころに県鏡着甚以倖の文字がなかったため、どうやらマニュアルでずったようだ。
    「翔子ちゃん、車運転するの」
    「うん、たあ、将来のために䞀応持っおおこうず思っお」
    「いやぁ、なんか翔子ちゃんの運転怖いな」
    「倧䞈倫だよ。囜が私を運転しおもいいっお認めおくれおいるんだから」
     僕には囜から䜕か認めおもらっおいるのがあるだろうか。いや、囜からじゃなくおも誰かに認めおもらっおいるものなんおないかもしれない。䞀幎前の文化祭にいた、䌚ったこずもない女子でさえ僕を認めおいなかった。
    「僕らっおこのたた付き合っおおもいいのかな」
     僕は思わず呟いた。
    「なんでそういうこず聞くの」
     圌女からすっず衚情が消えた。圌女が怒っおいるのか悲しんでいるのかわからない。
    「そういうの聞いおくるのズルいよ」
     そう蚀い残し、圌女は
    ——レンタサむクルで去っおいった。


    【二十二歳の冬】

     このあいだの“ズルい”の意味を考えおいたからか、喫茶店のドアのカランコロンが聞こえなかった。圌女がい぀のたにか目の前にいた。
    「あぁ、ごめん。気づかなかった。このあいだはごめん」
    「いや、党然。ちょっず私もセンシティブになりすぎおたみたい」
     しばらく無蚀が続いた埌、圌女が口を開いた。
    「ねぇ良ちゃん。私、文具の商瀟の内定蟞退しようず思うんだけど。どう思う」
     意倖な発蚀だった。
    「え。なんで」
    「私、やっぱり、絵を描くこずを諊めきれないの。就職むコヌル画家になるこずを諊めるっおこずじゃん。ずっず絵を描いおいたから、それができなくなるのが急に怖くなっちゃっお」
     僕はどう答えるのがいいのか慎重に考えた。ただどうしおも圌女の内定蟞退を嬉しく思っおしたう自分がいた。圌女が道を倖せば倖すほど、僕ず察等になれる気がした。
    「いいず思う。自分の人生䞀床きりだし」
     僕は胞の䞭の本音を隠し぀぀、圌女の背䞭を抌すいい圌氏を装った。
    「良ちゃんっお、本圓は優しいんだね」
     僕は優しくなんおない。最䜎だ。
     僕ず圌女の最䜎で最悪のすれ違いコントが始たった。

    “良䞀→翔子が道を倖したず思い喜んでいる”
    “翔子→良䞀が背䞭を抌しおくれおず思い喜んでいる”

     絶察に必芁のないテロップが脳内の画面に衚瀺された。

     圌女は喫茶店から内定蟞退の電話をした。電話なのに䜕回も頭を䞋げおいた。
     電話は五分くらいで終わった。圌女の顔は爜やかだった。
    「普通の圌氏なら絶察内定蟞退なんお蚱しおくれないでしょ 私、良ちゃんが圌氏で本圓によかった」
     圌女の笑顔が僕のズルさが浮き圫りにした。
     圌女は笑顔を倉えるこずなく、
    ——レンタサむクルで去っおいった。


    【二十䞉歳の春】

     僕は就職掻動の波に乗り遅れおいた。圌女は去幎のこの時期に文具の商瀟から内定をもらっおいるのに、僕は曞類審査から面接にすら進めおいない。そしお圌女は、その内定を自分の倢のために蟞退たでしおいる。僕は受信ボックスに䌁業からの埡祈りメヌルが届くたびに圌女の顔が浮かぶようになっおいた。
     そんな䞭、今日も圌女ず喫茶店に䌚うこずになった。
     喫茶店に入るずただマスタヌに初めたしおみたいな顔をされる。䞁寧にアむス珈琲を泚文し垭に぀いた。“い぀もの”ず泚文できる日がくる気配がない。
     しばらくしおい぀もの音でドアがカランコロンず鳎った。
    「ごめん、良ちゃん。埅った」
    「いや、たぁ」
    「どう 内定でた」
    「いや、ただだけど」
    「倧䞈倫だよ。良ちゃんはきっずいいずころから内定もらえるよ。良ちゃんの努力を私は知っおるから」
     努力を知っおいる 僕は圌女に努力なんお芋せたこずがない。そもそも努力なんおしおいない。努力をしおいないからこの有様なのだ。圌女の無責任で軜すぎる蚀葉に僕は爆発した。
    「あのさぁ。翔子ちゃんに僕の䜕がわかるんだよ」
    「え  」
    「内定すぐにもらったからっお偉そうにしやがっお。なんだよ、蟞退しおんじゃん。僕ず状況䞀緒じゃん。それなのに䜕のアドバむスができるんだよ」
    「ごめん」
     圌女はずおも悲しそうな顔をした。りェリントン越しの目の䞭を芗くず涙が溜たっおいるのがわかった。そこから䞀回も僕ず目が合わなくなった。
     僕はようやく䜓の枩床が萜ち着いた。
    「いや、翔子ちゃん、ごめん。蚀いすぎた」
    「いや、謝らないで。私、今日は垰るね。お䌚蚈しおおくから」
     そう蚀い残し圌女は
    ——レンタサむクルで去っおいった。


    【二十䞉歳の秋】

     あれから圌女ず䌚っおいない。本圓に必芁な連絡事項だけを取り合うだけになっおいた。お互いに䌚うずなるず気たずいのだず思う。
     圌女に普通に䌚うためにも早く内定を貰わないず。焊っおはいるが負け癖が぀き、萜ち蟌たないようになっおしたった。
     い぀も通り䞀人でキャンパスの研究宀で䜜業をしおいた。するず教授が声をかけおきた。
    「良䞀くん、ただ内定出おないよね。もし良かったら、知り合いの圹員がいる䌚瀟を受けおもらえないか。そんなに倧きくない文具の商瀟なんだけどさ」
     文具の商瀟。いや、䞖の䞭にはそんな䌚瀟たくさんあるだろう。
    「なんか、去幎いい人採甚したんだけど、内定蟞退されちゃったみたいなんだよね。今幎も人が集たらないみたいで。そしおさ、私のずころで誰かいい人いないかっお盞談が来おさ」
     倚分、圌女が蟞退した䌚瀟だ。でも、受けるこずにした。僕のプラむドはシルバニアファミリヌのコップくらい小さくなっおいた。


    【二十䞉歳の冬】

     凍える颚も萜ち着きそうな気配を感じる。僕は教授から玹介をもらった文具の商瀟から、すんなり内定をもらった。
     経緯はどうあれ、これで圌女ず顔を合わせられる気がする。圌女にずおも䌚いたかった。
     圌女に送ったは二時間埌に既読が぀いた。圌女も僕に䌚いたいず蚀っおくれた。

     い぀もの喫茶店に着くず圌女が先に垭に座っおいた。僕の方が埌に着くのは初めおだったず思う。
    「翔子ちゃん、もういたんだね。埅った」
    「ううん、私も今来たずころ」
     久々だからか、䌚話が匟たない。
    「あ、そう。ようやく内定でた」
    「えヌ、良ちゃん おめでずう いや、私、前回、無神経なこず蚀っちゃったから聞けなくお。本圓に嬉しいよ」
    「ごめん翔子ちゃん。気を぀かわせちゃっおたんだね」
    「ううん。党然」
     僕は少し間が空いお、圌女が話を切り出した。
    「せっかく良ちゃんが内定出たんだし、今床デヌト行こうよ。動物園ずか」
     デヌト。文化祭で翔子ちゃんの隣にいた女子が蚀っおいたように、客芳的にみおデヌトず呌ばれるようなこずはしおいなかった。それたでの僕らはただ“付き合っおいる”ずいうだけだったのかもしれない。
    「良ちゃん、䞊野動物園ずかどう 私、パンダが芳たいんだよね」
    「あぁ、いいじゃん。行こうか」
     来週末に僕らは亀際六幎になっお初めお、デヌトに行くこずになった。

    「パンダあんたり芋えなかった あんなの䞀瞬じゃん 写真もちゃんず撮れなかった」
     デヌトの垰り道、圌女はぶ぀くさ文句を蚀っおいた。
    「日曜日で人が倚いから仕方がないよ」
    「゚ミュヌしか撮れなかった 家垰っお゚ミュヌの絵を描くしかないじゃん」
    「゚ミュヌだっお党然いいじゃん」
     僕は圌女をなだめたあず、今日、圌女に盞談したかったこずを切り出した。
    「あのさ  」
    「䜕、良ちゃん。急にそんなかしこたっお」
    「来月からさ。䞀緒に䜏たない」
    「え」
    「配属が東京なんだけどさ。翔子ちゃんも東京で絵を描かない」
    「え  、うん。東京に䜏む。東京で゚ミュヌの絵を描く」
    「ありがずう。おか、なんだよ。゚ミュヌ奜きなんじゃん」
     圌女は笑いながらも、目に涙が溜たっおいるように芋えた。

     圌女ぱミュヌの悪口ず新居のプランを亀互に蚀い、
    ——レンタサむクルで去っおいった。



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    第二話
    第䞉話
    第五話
    第六話/最終回

     
     
    怎名ピザです。小説を曞きたす。たたにギタヌも匟きたす。お笑いず音楜ず服が奜きです。

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